第162話(真名編) 正月のファイント、真名

 それは神代の時代、まだ神様が普通に世界に存在していた時代のお話。



 ある時、沢山の動物達が神様の元に集まっていました。

 沢山の動物を集めた神は、こう言いました。


「1月1日の朝、早く来た1番から12番までの動物を、一年交代で年の大将とする」


 それを聞いた動物達はそれぞれに策を練りました。



 ネズミは策を巡らせ、牛は夜遅くから一早く出発いたしました。


 兎は休まずコツコツと歩き続け、午と羊は仲良く一緒に到着しました。


 龍と蛇は同着でしたが、蛇は「尊敬する龍さんと同着?! えっ、マジで尊いダメしんどい!!」とオタク特有の謙遜さ故に龍の方が先になりました。


 犬と猿は「一緒に、仲良くゴールしようね♪」と言っていたのに、犬が途中で裏切って先にゴールしようとしたので、大喧嘩となり、仲裁役の鳥が間を取り持ってゴールしました。


 猪は真っすぐ、ネズミや牛よりも速くゴールに辿り着いていたのに、神様の所を通り過ぎてしまっていたために、引き返していたら12番目になってしまいました。


 こうして、年の大将となる12匹の動物が決まりました。

 

 ----ネズミ、牛、トラうさぎりゅうへびうま、羊、さるとりいぬいのしし

 これが、後に【十二支】と呼ばれるモノである。


 この後、ネズミに騙されて、日付を勘違いしていた猫が怒り狂い、ネズミと猫の因縁が始まる訳ですが。



 ----これは、それとは別の後日談。

 正月のファイントと呼ばれる者の、真名に関するお話。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 世界は、結果で出来ている。


 努力や過程こそが重要と、世間は口を酸っぱくして、耳にタコが出来るくらいにまで言うが、そんなのは幻想まやかしである。


 世界は、結果で出来ている。

 褒められる人間の枠ってのは、最初から決まっている。


 ベスト〇〇、表彰台、審査員賞、特別賞……。

 全ては、褒められる者は、最初から数が決まっている。


 「この競技で、トップ3の選手には表彰します」となれば、どれだけ頑張ろうとも、4位以下の選手の頑張りは認められず。

 「試験で1番だった者だけに、ご褒美を授けます」となれば、1番の相手よりも2番の人が素晴らしいと誰もが分かっているのに、1番の者だけがご褒美を貰える。


 神様もまた、そうであった。


 初めに、速く来た1番から12番までを大将と決めるという、褒美を与える事としたのだ。

 つまりは、"13番目"に来た動物には、なにも与えられない。


 僅かなタッチの差で、12番目までという枠組みから零れ落ち、神からの褒美を逃したのである。


 普通は、そこで諦める。

 神に抗議せず、ただ無理だったと諦めて、そのままトボトボと帰っていくのが普通である。



 しかしそこで、正月のファイントは諦めなかった。

 13番目に辿り着いた自分にも、褒美を寄こせと、駄々をこねたのである。


 正月のファイントは、神と反抗したために、ファイントとなった。

 そして神と交渉に成功して、褒美をもぎ取ったのである。


 とは言え、他の十二支と違って、1年丸ごと大将となるほどの褒美ではない。


 正月のファイントが貰ったのは、毎月の最初の日----月初めの1日目だけの、大将の座。

 それを証明するかのように、最初の日にはその真名に相応しい名前が。


 ----すなわち、一日ついたち


 正月のファイント、その真名は"イタチ"。

 神から褒美をもぎ取り、月初めの1日目だけ、十二支となって神となった動物達の力を借り受けることができるようになった者である。




(※)イタチ

 正月のファイントの、真名。神に抗議し、毎月一日だけ動物の総大将を名乗る事を許された、偽の神

 十二支を決める競争で13番目に到着したイタチは、神に直談判を申し出て、結果として毎月一日を自分の日であり、総大将として名乗ることを許された。また、他の十二支という神々となった動物の力を、偽って使うことが出来る

 数百年の年をとって妖力を持ったイタチが、テンになると言われており、テンは「狐七化け、狸八化け、貉九化け」と称されるほど、狐や狸を上回る、化かす才能を持っているとされている

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