第148話 今から2世紀ほど前、ダンジョンは生まれた----(2)

 ----今から2世紀ほど前、世界中に不思議な孔のような物が生まれた。

 後にダンジョンと名付けられる事となるそれらの中には魔物と呼ばれる怪物が潜んでおり、同時に大量の金銀財宝などが手に入った。

 世界はダンジョンから得られる技術や素材などによって、大きく飛躍する事となる。


 世界の産業は大きく躍進を遂げ、今では【1日経てばすぐ収穫できるくらい生育する果物】だったり、【たった10秒漬けるだけで綺麗になる洗剤】だとか、ダンジョンを知らない時代からしてみれば恐ろしく高性能な物がじゃんじゃん出てくる。

 昔は、電気を作るのに火力発電や原子力発電やらを活用していたんだそうだが、今では電気以上に便利な素材がうじゃうじゃ出てきている。


「----では、問題です。2世紀ほど前、なぜダンジョンが生まれたんでしょうか?」


 勉強が出来ない子供に優しく聞くかのように、ダブルエムはそう雪ん子に問いかける。

 雪ん子は質問の意味事態が分かっていないようである。


 ----まぁ、ただの召喚獣に「自分達が暮らしているダンジョンはどのようにして生まれたのか?」と聞いても答えられるわけがない。

 なにせ、それは人々に「どのようにして地球って生まれたんでしょうか?」と聞くのと同じだから。

 大抵の知識がある人ならば「宇宙はビッグバンから生まれた」とかなんとか言うだろうが、それを実際に見聞きしたうえで、ちゃんと調べたうえで答えられる人なんて居ないのだから。


「2世紀前、というかそれ以前に遡ったとしても、ダンジョンができるような理由なんてモノは地球では発生していない。国同士のいざこざはあれども、ダンジョンができるレベルの異常事態なんてものは有史----つまりは、地球上に人間が生まれてから、一度も発生していない。

 じゃあ、なんでダンジョンが生まれたかと言えば、"あの方"です」


 と、ダブルエムは日野シティーミティーを指差す。



「彼女こそが、この世界にダンジョンを生み出した張本人なのですよ」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ----【オーバーロード】系統職業、【旧支配者クトゥルフ】。

 その職業ジョブの一番の特徴と言えば、無視にある。


 重力を"無視"した移動。

 時間軸を"無視"した攻撃。

 次元を"無視"した跳躍。


 彼女が本気を出せば、この世界のありとあらゆる自然現象のルールを無視して、どこまでも強い技を放てる。



 そんな超強い【旧支配者】のスキルの中に、【旅立つ別次元アルワッサ】というスキルがある。



 この【旅立つ別次元】のスキル効果は、"物を過去や未来へ送る"というスキル。

 斬撃を過去へと飛ばして攻撃したり、物自体を未来へと飛ばしての時間差攻撃などが、このスキルの主な使い方である。


 そして以前、この【旅立つ別次元】のスキル効果を利用して、ダブルエムと2人で、とある作戦を行った。


「それこそが、【世界球体パンクスフィア】を"過去へと送る"という作戦です」


 【世界球体】とは、世界1つをそのまま閉じ込める驚異的な道具。

 そしてこの【世界球体】の特徴として、破壊された場合、その世界がそのままこの世界へと融合するというものがある。

 以前、佐鳥愛理が《桃太郎》赤鬼や《着ぐるみ》赤鬼を召喚して、倒されたことで職業の1つとして【桃太郎】と【着ぐるみ】の2つが追加されたように。


 ダブルエムと日野シティーミティーの2人が、過去へと送った【世界球体】は----【世界球体=冒険者世界アドベンチャーパンク=】。

 その名の通り、物語であるような冒険者達がごくごく普通にいて、ごくごく普通に活躍する世界。

 そんな世界を【世界球体】へと閉じ込めて、【旅立つ別次元】のスキルで過去へと----



 ----そう、ちょうど2世紀ほど前の時間へと送ったのである。



 過去へと飛ばされた【世界球体=冒険者世界=】は、その勢いのまま、なにかにぶつかって破壊された。

 そして、【世界球体】の効果で、【冒険者世界】がこの世界へと融合したのである。


「分かりますか、召喚獣ちゃん? この世界は即ち、日野シティーミティーが過去へと【世界球体】を送ったから出来た、いわば人工的なる"ダンジョンが現れた現代社会"というお話なのです。

 さて、雑談はこの辺にして本題に入りましょう。何故、日野シティーミティーを、ニチアサちゃんを殺してはいけないのか。それは、彼女が持つ四大力【オーバーロード】に関係があります」

「《ぴぴ?》」

「そう、あなたも手にしている、その強力な四大力【オーバーロード】。どんな力にも長所があれば、それと同じくらい短所も存在する」


 それは勿論、四大力【オーバーロード】にも当てはまる。

 ダブルエムはそう語る。


「四大力【オーバーロード】はあまりにも凄まじく強い、四大力。その力をあなた達は、自らの意思でコントロールしているが、意志さえなければ強力な力は、ただ制御を失って暴れ続ける。

 仮に、ニチアサちゃんを殺したら、四大力はどうなるのか? 簡単な話になりますが、【オーバーロード】の力は制御を失い、暴走する」


 あまりにも強すぎる力故に、使い手が消えた瞬間に暴走する。

 その暴走は凄まじく、使い手であった者もまた飲み込まれる。


「地形を変えるほどの強力な魔法は、使用者が死んでもなお魔法の影響が残っているように、強力すぎる【オーバーロード】の力で出来たスキルは使用者が意図してなくてもその影響は残り続ける。

 そんな中で、使用者が死んで【オーバーロード】の力が暴走したら、どうなると思いますか?」


 雪ん子は「《ぴぴぴ……?》」と考え込む。

 知力がSSを越えてるとしても、それはあくまでもステータス上の話。

 IQが高くても騙される人間は騙されるように、雪ん子の知力が上がったとしてもそれはスキルの扱い方などが上手くなっただけで、天才になる訳ではないのだ。


 だから雪ん子は悩むだけで、答えを出せずにいた。


 ダブルエムは無理そうだと判断して、彼女に答えを教えた。


「つまり、なにを言いたいかと言うと、もし【オーバーロード】の力が暴走して、【旅立つ別次元】のスキルが暴走。そのスキルの効果を受けて過去へと渡った【世界球体=冒険者世界=】についている【オーバーロード】も暴走し、世界へ影響を与えないくらいにまで分解されればどうなるか?

 ダンジョンは出現せず、よって君の主も冒険者になる事が出来ない。君の主が冒険者にならないのならば、召喚獣である君は召喚されない。


 端的に言えば、ニチアサちゃんを殺した時点で、世界はダンジョン化の影響を失う」



 ----つまりは、君の存在も消えるという事さ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「はい、【強制帰還の杖】~」


 ガックリと動かなくなった雪ん子へ、ダブルエムは【強制帰還の杖】を振るう。

 名前通りに、杖の魔法に当たった雪ん子はそのまま強制的に【送還】され、自らの世界へと帰って行ったのであった。


「#作戦終了 っと」


 ダブルエムはそう言うと、ニチアサちゃんの方を見る。

 ニチアサちゃんは----ダブルエムを、詐欺師でも見るかのような目で見つめていた。



「よくもまぁ、あそこまで"嘘をぺらぺら吐けるわね"」



 そう、嘘である。


 ニチアサちゃんが【世界球体=冒険者世界=】をスキルによって、2世紀前に送って。

 その【世界球体】が割れたから、この現代社会がダンジョン化したというのは、本当の話。


 しかし、ニチアサちゃんを殺したからと言って、【オーバーロード】の力が暴走するなんて事はない。

 そもそも、雪ん子が持つまでは、【オーバーロード】の力はニチアサちゃんだけの力なのだから、死んだ後の影響なんて知る由もないのだ。


「私は、あくまでも#一般論 を論じただけですよ?」


 ----強い力には、なにかしらの短所もある。

 ----地形を変えるほどの強力な魔法は、使用者が死んだ後も影響が色濃く残る。


 それはあくまでも事実ではあるが、死んだら四大力が暴走したという例は1つもない。

 ダブルエムはあくまでも大袈裟に、そう語っただけなのだから。


「#嘘 とは、吐く人も悪いんじゃない。私的には、#引っかかる人 も悪いのですよ?

 ----大袈裟に言ってるなと分かれば、騙されるような話でもありませんので」

「まぁ、良いでしょう。では、作戦を始めましょうか」


 ダブルエムと日野シティーミティーの2人は頷き合い、《三日月の塔》の隠し通路の奥へと向かうのであった。



(※)ニチアサ&ダブルエムの大作戦!!

 日野シティーミティーとダブルエムが共同で行った、この現代社会にダンジョンという概念を追加するという作戦。【三大堕落】の創設者である赤坂帆波が、唯一心の底から認めた作戦でもある

 まず、ダブルエムが【世界球体】の中に、ダンジョンが一般化している世界を閉じ込める。閉じ込めた後、他にもいくつかの【世界球体】を組み合わせておく

 その特別仕様の【世界球体=冒険者世界=】を日野シティーミティーのスキル【旅立つ別次元】によって過去の世界へと送り込み、【世界球体】を破裂させる

 後は、【世界球体】の仕様によって、破裂したことでダンジョン化の概念が解放されたことによって、この世界は現代社会に突如としてダンジョン化したように見えるという世界が誕生したのである


 ----なお、その際、偶然にも・・・・空海大地の帰還によって開けられた世界のあちこちにある、次元の割れ目を塞ぐように、ダンジョンが入り込んだとされている

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