第125話 四大力【オーバーロード】(1)

 雪ん子の剣が、砕け散る。

 ダメージを受けたことで、身体から大量の血が飛び出て、視界が真っ赤に染まる。


「《壊された……》」


 そんな中、雪ん子は自分の剣が壊されたことに、ひどく心を揺さぶられていた。


 あの剣は、【召喚士】冴島渉が自分のためにくれた剣。

 大切な装備の1つである。


 彼女には最近、お金を通じて物を得るスキル【ネットショッピング】を会得した。

 そのスキルを通じて、ヤシの木のアクセサリーだとか、ヒトデのアクセサリー、後は色々と物を買ったりして、ダンジョン攻略を充実した物にしている。

 だけれども、たった1種類----剣だけは買っていなかった。


 本来なら、冴島渉が用意する剣とは別に、自分でも【ネットショッピング】のスキルで剣を得た方が良い。

 剣が増えれば、相手によって剣を変えたりだとか、あるいは剣を投げて使う攻撃だって出来るだろう。

 それだけ攻撃方法だとか、戦略にも幅が出来る。

 しかし、頭ではそう思っていても、どうしても自分で買うという事が出来なかった。


 だってもし、自分で剣を用意できると知られたら----もう剣を用意してくれないんじゃないか?

 そもそも、物をいただくこと自体少ない中で、【ネットショッピング】のスキルを使い続けたら、そのうち自分だけ物を貰えないんじゃないだろうか?

 そんな事が、雪ん子の頭の中にあったからだ。



 ----そんな雪ん子の心の支えを、青い肌の女冒険者……【魔族】油留木和花は破壊した。



「《壊そう、この人》」


 だから、雪ん子は自然と・・・そう口にした。


 殺人衝動に目覚めた際、冴島渉の手を斬り落としてしまった際、彼女は物凄い叱られた。

 その経験から、雪ん子は今までどれだけ【殺意の目】によってどんどん殺人衝動が心の中に生まれようとも、雪ん子は飲まれないように我慢していた。


 剣で一刀両断して殺したい王に相応しい剣で殺したい楽しみながら殺したい何も感じずに殺したい首を思い切り強く握りしめて殺したい凍らせて殺したい燃やして殺したい新しく得たスキルで殺したい槍術も覚えたので使って殺したいファイント共に殺したい相手を思う存分痛がらせて殺したい悪の天使をくびり殺したい吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世を殺したい大量の相手を一気に殺したい騙して殺したい狐吸血鬼を殺したい真正面から殺したい隠し通路を見つけて隠れた相手を殺したい多くの味方に囲まれて殺したい多くの味方を殺したい悪癖龍マルガリータを殺したいアイドルのように殺したい----


 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい----


 そういう、心の奥底に生まれた殺意を、殺人衝動を、1つずつ殺して、殺したい気持ちを抑えてきた。


 ----だけれども、その「殺したい」という気分を解放した。


 今まで、一生懸命押さえつけてきた「殺したい」という気持ちが、彼女のスキルにも影響を及ぼしていた。



 ===== ===== =====

 強力な殺意を 解放しました

 特殊条件を 解放しました


 【殺意の目】が 進化します

 

 ……

 …………

 ……………………


 【殺意の目】は進化し 【神呪しんじゅの目】を 会得しました



 【神呪の目】;世の理不尽を呪い、神をも殺したいと願う気持ちが起こした奇跡のスキル。神を疎むそのスキルにより、新たなる四大力【オーバーロード】を扱えるようになります

 ===== ===== =====



 そして、雪ん子は目を大きく見開き、その四大力【オーバーロード】を使うのであった----。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「(ふふっ、これで私の勝ちは決定しましたね)」


 油留木和花は、強敵・雪ん子との対戦にて勝利を確信していた。

 なにせ、それだけスキル【鬼怒楽園きどらくえん】が強力だからだ。


 【魔族】という職業は、技を使う度に自分に大ダメージを受けるという、はずれ職業であった。

 相手への攻撃も、相手の攻撃を防ぐための防御も、技を使う度に、自分の身体から大量に血が出るくらい反動ダメージを受けてしまう。

 だから長期戦に向かない、はずれ職業であった。


 そんな、はずれ職業という【魔族】の油留木和花を変えた超レアスキル----それが【鬼怒楽園】。

 自分が受けた反動ダメージを、相手へと押し付けるスキル。

 押し付ける物は、なにも反動ダメージだけではない。


 痛み、苦しみ、こんな職業になってしまった事への怒り、諦め。

 そういった負の感情----それを一気に相手へと押し流すスキルなのだ。


 当然、使えば使うほど油留木和花は体力も精神も回復、一方で押し付けられた相手は体力を大幅に失うのと同時に、精神的にも辛い感覚が押し付けられる。


「(体力が多かったり、傷をそれほどダメージとして感じてない相手にも、この【鬼怒楽園】は効く。なにせ私は反動ダメージを喰らう度に、めちゃくちゃ泣きそうになるくらい痛いし、その痛みで死にたくなる時も数多い。

 そんな私の苦しみが----全て相手に押し付けられるのだから)」


 冒険者になったのに武器すら持てず、さらには技を出すたびに死ぬほどの傷を負う。

 そんな経験が、油留木和花という人生観を変え、さらには【鬼怒楽園】という超絶レアスキルを手に入れたことで----彼女は調子に乗っていた。


「----さぁて、最後に【召喚士】の彼を倒して、この戦いを終わらせましょうか」


 そう言って、後は作業とばかりにゆっくりと歩き出す。



「《----させナイ》」



 ----ぴゅんっ!!


 物凄い勢いで、何かが振られる感覚を察知し、油留木和花は後退する。

 その判断は正しく、彼女の一歩踏み出そうとした場所は"それ・・"によって抉り切られ、そしてその余波で彼女の脚に大きな傷がつけられたのだから。


「《許さない》」


 その攻撃は彼女の、雪ん子の剣による薙ぎ払い攻撃。


「ほぉ、まだ楽しめる----って、なんか変わってない?」


 戦闘という行為がまだ楽しめるとワクワクしていた油留木和花は、雪ん子の変化に気付いていた。


 それは----彼女、雪ん子の瞳。


 雪ん子の瞳は、瞼を下げた、伏した瞳に変わっており、瞳の中では青く小さな炎が揺らめいていた。

 揺らめく青い炎で出来た右腕、そして同じく青い炎で出来た魔剣を手にしていた。


「《【王剣術・覇】奥義、王の剣・蒼龍そうりゅう!!》」


 そして、雪ん子は青い炎の魔剣を振るう。



「----ぐふっ!!」


 瞬間、油留木和花は斬られていた。

 斬られる瞬間の痛みも、それどころか、いつ自分が斬られたのかも分からない斬撃に、油留木和花は困惑するのであった----。



 ===== ===== =====

 【《悪童ポリアフ》雪ん子】が 四大力【オーバーロード】を 発動しました

 専用スキル 【蒼炎】を 解放します


 【蒼炎】;より高次元度の炎を扱うスキル。炎を扱う者がこのスキルを持つ場合、全ての身体能力を一段階向上させます


 ……

 …………

 ……………………


 【《悪童ポリアフ》雪ん子】 レベル;Ⅲ+15

 個体レベル;15

 種族名;雪の女神ポリアフ(←雪ん子)

 装備職業;悪の蒼剣士(←悪の剣士)

 攻撃力;C+47→B+47

 属性攻撃力;C+57→B+57

 防御力;C+47→B+47

 素早さ;C+48→B+48

 賢さ;B+78→A+78

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