第106話 妾とわっち、【妖狐】とヨーコ(3)

「だから妾は忘れぬ。妾に、"妾お姉ちゃん"と無邪気に呼んでくれたリョクチャの事を。

 例え"でぇおちきゃら"だったとしても、の」


 ココアは自分の今の気持ちを、ヨーコに正直に伝えていた。

 たとえ相手が神だとしても、自分の妹として立派に戦ったリョクチャのことをバカにされて、姉として黙ってる事なんて、ココアには出来なかった。


「だからこそ、妾は、妾だけは、リョクチャを笑ってはならぬのじゃ。

 ----ヨーコ、お主が妾の顔で、リョクチャを笑う事を許せぬのはそういう道理じゃ」


 ココアはそう言うと、ヨーコは『ふむ……』と考え込むようにしていた。


『なるほどでありんすなぁ。わっちも聞いたことがあるでありんす。

 確か、子供が出来る前はそんなに実感はなかったのに、子供が出来たら親としての自覚が芽生え始める……そういう父親と同じ心境と似たような奴でありんす?』

「いや、妾は一応、性別的には女じゃが……まぁ、言いたい事は分かるんじゃが」

『ふむふむ。やはり直接話を聞くと、見方も変わってくるでありんすなぁ』


 『よっ、と』と満足した様子のヨーコは、真っ黒の顔のまま、ココアにこう話しかけた。

 さも今思い出した程度の他愛もない話程度のテンションで。



『そう言えば、お主の主殿----確か、【召喚士】の冴島渉でありんしたか?

 今、彼はエルダードラゴンエッグと一緒におるようでありんすよ?』



「なんじゃと?!」

『えぇ、そうでありんす。あなたの仲間のファイントの力で、墓碑銘龍エピタフ・エルダーデスドラゴンとやらのドロップとして、出したみたいじゃよ?』

「ファイント……そうか、その手があったか!!」


 ファイントの名を聞いて、ココアはようやくあの時の、幻覚の正体が判明した。

 【武装乙女マキャベリスト】の力で、【召喚士】冴島渉の武器として強制送還される際、ココアは甘言のシーヴィーの放った禍々しい光を防いだ小さな影を見た。

 エルダードラゴンエッグに見えたのだが、あの時は「エルダードラゴンエッグは、シーヴィーに奪われた物」という考えだったので、ただの幻想だと納得してしまった。


 けれども、ダンジョンを終わらせるほどの力を持つファイントならば、リョクチャの後に出てきたあのエピタフ・エルダーデスドラゴンのドロップアイテムを操作する事なんて、簡単だろう。

 そしてそのドロップアイテムが、エルダードラゴンエッグ……。


「(なんじゃ、合点がいく話なのじゃ)」


 エルダードラゴンエッグをドロップしたことを、ココアに教えなかったのは、ココアが怒りに支配されていたからだろう。

 あの時に言ったって、ココアは信じなかっただろう。


「ははっ、しょせん妾の独り相撲だったという事じゃか」


 ココアは納得して、そして愕然とうなだれた。

 今さら気付いたところで、召喚されなければ意味がないのだから----。




『-----と、そんなわっちを楽しませてくれまくったココアに、面白い事を教えてやるでありんす』


 と、うなだれているココアに、ヨーコが嬉しそうな顔をして話しかけてきたのだ。


『もーしも、わっちの言う事を聞いてくれるならば、わっちの神様的な頭脳から叡智を授けても良いでありんすよ?

 ----【融合召喚】をしても、副作用を失くす魔法のような方法をのぉ』

「-----っ!!」


 ヨーコはそのまま話を続ける。


『実を言うと、わっちがお主をここに呼んだのは、スキルを回収する意味もあったでありんすが----これも重要な話だったのでありんすよ。【融合召喚】だなんて面白い物を見せて貰えたし、ちょっとばかり手を貸すのもアリ的なノリでありんす。

 ----ただ、ちょーっとばかし、わっちを楽しませてもらおうかなーって』


 少しお耳を拝借と言わんばかりに、ヨーコはココアの耳元でごにょごにょっとささやく。

 最初は神妙そうに聞いていたココアだったが、途中から顔を真っ赤にして、最終的には涙目でヨーコを睨んでいた。


「なっ、なんて事を提案するんじゃ! ヨーコ!!」

『別に人を殺せとか、そういう類の提案ではないでありんしょ? ただ、冴島渉の前で、ちょーっとすれば良い。たったそれだけで、【融合召喚】の副作用を消せるなら、安いもんでありんしょ?』

「…………」


 破格の申し出であるにも関わらず、ココアはじーっと考え込む。

 考えに、考えまくって、そして----



「分かったのじゃ。条件を飲む」

『よーし、では教えるでありんすよ?

 【融合召喚】の副作用を消す方法、そしてエルダードラゴンエッグと真に相性が良い召喚獣を』

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