第102話 後衛を先に倒しておくのは基本です(1)
旭川地域で、甘言のシーヴィーを倒した時に出たドロップアイテムが2つ。
濃い魔力が濃縮されて積み込まれた【魔石(大)】と、もう1つ----【ボタン】。
このときドロップした【ボタン】は、ただのボタンではない。
それは甘言のシーヴィーがコンタクトを変えるように、毎朝付け替えている瞳につけているボタン。
そのボタンには、魔石(大)と同じくらいの魔力が込められており、そこに込められているのは甘言のシーヴィー個人の魔力。
「そのボタンの魔力を辿って、侵入激ムズな《ルベバの塔》へ侵入できちゃったんですよね☆」
ファイントはそう言いながら、120%まで溜めておいた悪精霊達の力を解き放つ。
【悪の天使】という称号を持つファイントの号令により、総勢50体の悪精霊達は、敵たる《死亡保険》赤鬼に向けて、ビームを放っていた。
「…………」
先程まで色々と喋っていた《死亡保険》赤鬼は、ただ無言で手にした剣を振るう。
50体の、それも120%まで溜められていたビームを、《死亡保険》赤鬼は1本の剣で対処しきっていた。
「《ぴぴぴっ!!》」
大量のビーム攻撃を避けるように、いや、自らを邪魔する分も斬り落としながら、雪ん子は《死亡保険》赤鬼に斬りかかる。
それに対し、《死亡保険》赤鬼はもう片方の手に持った銃を撃ちつつ、相手していた。
「《むむっ?! 強い?!》」
「いやぁ、本当に厄介だね♪ まさか、《死亡保険》赤鬼が、
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【《死亡保険》赤鬼】 ランク;?
装備職業;【幽霊船】(《スピリット》系統)
別の世界の有力貴族などと取引をして死んだ後に復活させる世界を閉じ込めた【世界球体=死亡保険世界=】の力を得た、赤鬼の召喚獣。倒すと、スキルの1つ、【死亡保険】を使用することが出来るようになる
保険対象者が死んだ場合、自分または所属するパーティー内の一定以上の財産を奪われる代わりに、即時復活、および蘇生することが出来る。ただし、復活に必要な財産の額は、その年に自分で稼いだ金銭の10倍である
対象者)甘言のシーヴィー
(※)【幽霊船】……スピリット系統職業。剣や銃などを使った【海賊】と同じような戦い方をするが、それと同時に周囲で死んだ者達を幽霊として使役することが出来る
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今、《死亡保険》赤鬼は右手に剣を、左手に銃を持ち。
そしてお墓な頭の上には、海賊帽子を被っていた。
簡単に言えば、お墓頭の鬼さんが雑な海賊コスプレをしている……。
「(いやぁ~、まさか楽勝だと思っていた相手が……こんなに戦えるだなんてっ!!)」
ファイントと雪ん子の2人が、【召喚士】の冴島渉から命じられたのは、この《死亡保険》赤鬼の撃破である。
前回、甘言のシーヴィーを倒しきれなかったのは、この《死亡保険》赤鬼の蘇生能力のせい。
だからこそ、《死亡保険》赤鬼という敵を倒して、蘇生能力を封じておくのが、2人の使命なのだ。
《死亡保険》赤鬼は、保険対象者が死んだ場合に、一定以上の金銭によって復活させる相手。
それならば、復活をさせないように、先に倒してしまおうという話だ。
分かりやすく言えば、蘇生持ちの【
「(だから正直、気乗りしてなかったんだけど……これはすっごい面白そう!! なにこれ、いい戦いになりそう☆)」
ファイントは、戦闘狂ではない。
しいて言うなれば自称、自由狂と言うべきだろうか。
彼女にとって、ろくな攻撃手段も持ってなさそうな後衛、【
戦う前から勝敗が分かっている、一発で勝てるかもしれない相手なんて、面白くもなんともない。
自分も【青魔導士】という後衛だからこそ、同じ後衛の相手と戦うだなんて、本当に気乗りがしなかった。
けれども、ここで抵抗して、しかもそれなりに強いと言うのは、かなり面白そうじゃないか!! という話なのだ。
ファイントはワクワクしながら、戦いを続ける。
「----じゃあ、こんなのも試しちゃおうっ☆」
そう言って、ファイントは派手に青魔法をぶっ放す。
彼女が放った青魔法は《レーザービーム》----ただ光のレーザー攻撃をする程度の魔法だ。
派手に、という事で、ファイントは《死亡保険》赤鬼に当てる事は一切考えずに、ただ魔法をぶっ放した。
「…………?」
魔法を無駄打ちしたようにしか見えないファイントの攻撃に、《死亡保険》赤鬼はこてんと首を
今の無駄打ちに意味があったかと言えば、まったく意味はない。
しいて言えば、無駄打ちすることに意味がある。
「ねっ、雪ん子ちゃん?」
「…………?!」
言葉こそなかったが、《死亡保険》赤鬼は驚いていると、ファイントは感じていた。
なにせ、雪ん子が持つ剣が、禍々しい黒に染まり上がっていたからだ。
「悪精霊達は私が魔法を使えば、使うほど、その力を溜めこむ。そして悪精霊達は私が望む位置に移動して、私の合図があるまでその力を解き放たない」
そんな悪精霊達を、雪ん子が持つ剣の刀身に集めた。
1体1体はそれほどではないが、50体のエネルギーを満タンにまで溜めた悪精霊達が1か所に固まれば、こういう事も出来ちゃうと言う訳だ。
「確か、ご主人が教えてくれたゲームとかの情報にあったよね? 【刀身に魔法を宿して戦う魔法剣士】の話?
あれって、つまりは今の雪ん子ちゃんが持つ剣のことだよね?」
「《ぴぃ? これ、主に見せたら喜ぶ?》」
「めっちゃ喜ぶ☆ そりゃあもう、男の子にロボ、女の子に人形与えたときくらい喜ぶって♪」
ちなみに、本当に喜ぶかどうかはファイントには分からない。
ただそう言っておけば、雪ん子がさらにやる気が出るって事だけ。
「《じゃあじゃあ! もーっと、やるっ!!》」
雪ん子はそう言って、黒く禍々しくなった刀身の剣に、さらに力を込めていく。
黒く禍々しい刀剣に、さらに真っ赤な炎、そして冷え冷えとした氷が込められていく。
「(なーる☆ 黒く禍々しい刀身に、雪ん子ちゃんが使える炎と氷の2つの力を込めたんだね♪)」
今の雪ん子が持つ剣の刀身には、エネルギーがしっかり込められた悪精霊50体。
そして、轟々と燃える炎、キンキンと冷える氷。
悪、炎、氷。
3つの属性が、今の彼女の刀身に宿っているのだ。
その激しい威力を誇る彼女の剣に、《死亡保険》赤鬼にビビっていた。
「…………!!」
《死亡保険》赤鬼が剣を軽く振るうと、彼女の周囲に小さな鮫の幽霊が現れる。
その鮫の幽霊は頭に導火線が生えており、さらにはうっすらと濡れていた。
「むむっ……【デス・キャビアボンバーシャーク】? "塩漬けのキャビアとして加工された
えっ、マジで意味不明なんですが……」
「《ぴぴ?》」
いきなり《死亡保険》赤鬼の近くに現れた、鮫の幽霊達。
それを軽く鑑定して、2人は鑑定の意味が分からずに戸惑っているようだった。
「…………!」
そして、その幽霊鮫達は、雪ん子へと向かって来る。
自ら特攻して、爆発攻撃をしようとしているのだろう。
「《ぴぴぴーーーーっ!!》」
雪ん子はその幽霊鮫達の特攻を潜り抜けて、《死亡保険》赤鬼のところまでやって来た。
そして、そのまま《死亡保険》赤鬼に、強力な剣の一撃を喰らわせるのであった----!!
「《ぴぴ?!》」
「あらま☆」
ただ1つ違ったのは、そんな強力な攻撃を放ったのにも関わらず、《死亡保険》赤鬼は一切ダメージを受けていないということだった。
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