第88話(エイプリルフール特別編) とあるおひとり様冒険者の諸事情
今から、およそ2世紀くらい前。
世界にダンジョンと呼ばれる物が現れた。
勇気ある挑戦者、またの名を動画投稿者のMyTuberさん達の力によって、その中には色々な可能性が広がっているのが分かった。
襲い来る魔物達、神から与えられた
心躍る戦い、漫画やゲームの主人公になったかと思うような力、一獲千金。
多くの人々が、まるで夢のようなその世界に魅了されて、また1人、また1人と、どんどんダンジョン冒険者になる者が増えて行った。
----さて、そんな中、他の冒険者達とはほんの少し違う理由で、冒険者になった変わり者が居た。
少年の名前は、
頭から伸びる特徴的なアホ毛と、「死んだ魚を天日干しした後のような眼」と言われるかなりヤバイ眼以外は、どこにでもいるような少年は今----
ダンジョンで、テントを設営していた。
「うん、このダンジョンは実に当たりだね。景色良いし、最高だね」
頷きながら、彼は黙々とテント設営に入る。
言っておくが、彼が今いるのはれっきとしたダンジョン、魔物が襲い掛かって来たりする命の危険が伴う場所。
彼が今しているのは、銃弾飛び交う戦場でのん気に
彼が冒険者になった理由はそう----MyTuberの動画に映っていた、ダンジョンの景色だ。
ダンジョンの中は異空間であり、洞窟や雪山、さらには近未来的なSFチックなビル群みたいなダンジョンも存在するが、その全てが地球とは異なる場所、異なる環境で存在している。
そして彼はそんな、人々が長い間汚し尽くした地球とは違う、綺麗で幻想的なダンジョンの景色に魅了され、ダンジョン冒険者となったのだ。
いわゆる変人である彼には、普通の冒険者のようにパーティーを組むという発想はなかった。
ソロプレイ、彼曰く「おひとり様」で、ダンジョンの中で自由を満喫しているのだった。
「おひとり様は良いね。自分の好きな時間に寝て、自分の好きな時間にご飯を食べ、自分の好きなものだけで世界を満たせる。自由って最高、おひとり様、万歳っ!!」
さて、彼はそう言って、今日読む予定のライトノベルを鞄から出して、お気に入りの音楽をかけて、のんびりダンジョンおひとり様ライフを楽しもうとした----ちょうどその時。
「たっ、助けてっ!!」
《グォォォォッッ!!》
彼のおひとり様ライフを邪魔する者達が現れた。
逃げる美少女、そしてそれを追う巨大な魔物----。
「(トレインかな)」
それを見て、元はそう思った。
トレインとは、悪質な冒険者が行う迷惑行為の一種だ。
大量の魔物に攻撃を仕掛けて、まるで"
当然ながら場合によっては犯罪とも取られるような、とても危険な行為。
後ろから彼女を追ってくるのは、このダンジョンの徘徊型のボス魔物----"アーミータイガー"なるボス魔物だ。
5mはあろうかという巨大なタイガーのようなこの魔物は、全身に緑色の軍服を着た、非常に好戦的な魔物である。
攻撃力も防御力も高く、倒した時に出てくるドロップ品もかなり高額で----その代わりに、そこまで足が速くないために、トレイン行為で良く使われるボス魔物である。
「(しかし、そういう感じはしないな。
追われている少女は、妖しい色香を漂わせる赤く長い髪を持つ、藍色の着物を着た少女。
髪には豪華絢爛という言葉が相応しい金のかんざしや紅の
トレインは普通、《相手になすり付ける》を目的とした犯罪行為であり、そのため、相手よりも速く逃げるために、逃げやすい恰好をしているようなものだ。
それなのに、追われている少女は髪に大量の
どうやら、本当にトレインではなく、普通に追われているみたいだ。
「----なら、
カチッと、元は瞳を一度ゆっくりと閉じると、再びその瞳を開ける。
瞳を開けると、元の瞳の中には、時計を思わせる2本の針がクルクルと回転していた。
「《燃えよ《燃えよ《燃えよ」
元が唱えると共に、魔物の背中が
きっちり3回炎の柱が燃え上がり、いきなり燃え上がったアーミータイガーに、アーミータイガー以上に驚いたのは、追われていたはずの少女の方だった。
「----?! 感謝しますっ!!」
着物を着た少女は、元に感謝の言葉を言うと、アイテムボックスから武器を取り出す。
彼女が取り出した武器は2つ----薙刀と拳銃。
彼女が拳銃をアーミータイガーに向かって放つと共に、アーミータイガーの右目に1枚の札が張り付く。
アーミータイガーの右目に張り付いた札は、【お酒】の札----盃が描かれた1枚の札。
それを見て、彼女は下駄を履いているとは思えない勢いで、物凄い速度でアーミータイガーへ向かって行く。
そして、アーミータイガーの足元を、薙刀で斬りつける。
----斬ッッ!!
薙刀で斬りつけられ、アーミータイガーの斬られた右足は斬りつけられたことにより、大量の血をどべーっと流していた。
《グォォォォッ!!》
「《凍れ《凍れ《凍れ」
怒って怪我していない方の、左足を叩きつける。
そんなアーミータイガーの身体が今度は凍り付いて、動きが止まる。
「----いまだっ!!」
着物少女は拳銃を右目に張り付いた札に向かって、放つ。
放たれた札は【月】の札----水面に映る月が描かれた、1枚の札である。
放たれた【月】の札は、【お酒】の札にぶつかると、そこで大きな爆発が起きる。
「【月】と【お酒】----【月見で一杯】で、5点ダメージです!!」
2枚の札が当たったことによる爆発によって、アーミータイガーはフラフラと崩れて、そして----
「《爆発《爆発《爆発」
元が爆発と言うと、アーミータイガーの身体が真ん中から破裂し、そのまま息絶えて、ドロップアイテムを落としたのであった。
「さ、さっきはありがとうございます」
着物を着た少女は、そう言って丁寧に頭を下げる。
頭を下げてかがんだせいで、彼女の大胆にその存在を大きく主張するお胸様が見え----慌てて元は視線を逸らす。
「(やっ、やばい。見てしまった……と言うか、あまりにも自己主張が激しすぎんだろう?!)」
元はおひとり様----平穏無事で、自分勝手に好き勝手出来る事を望む冒険者であって、このような色恋沙汰はノーサンキューなのである。
なので元は気にないふりをして、先程設営していたテントへと戻っていく。
「----えっ?! てっ、テント?!」
「倒せたんだから、もう良いだろう。てか、あんたも無理に倒せなさそうな敵相手に戦い挑むんじゃないよ。討伐特典は俺は必要ないから、あんたの方で選んで置いて」
そう、討伐特典----アレが厄介なのだ。
ボス魔物を倒すと、討伐特典、つまりは倒したからこの魔物関連のアイテムを1つだけ選べるよと言うのが発声する。
そう、1つだけ。
たったの、1つだけ。
「初回討伐特典と題して、パーティー1つに対して、選べるアイテムが1つだけとか、神様マジ分かんねぇとか思うよね?」という元の持論はさておき、だからこそ元はおひとり様で居たいのだ。
誰の遠慮もせずに、好きな時に魔物を倒して、自分が必要な物を貰っていく。
これって、最高じゃないだろうか、って。
----と、思っていたのだが。
「いっ、いえ! ここは2人で選びましょう!!」
と、着物少女は元にドロップアイテムリストを見せる。
「2人で倒したんですから、2人で選びましょ? ねっ?
あっ、自己紹介がまだでしたね! 私、
着物少女----明らかに中学2年生には思えないご立派な身体をお持ちの彼女は、そう言って頭を下げる。
着物から漂う、魔性の色香をむんむんと漂わせながら、秋保はキラキラした瞳で「あなたのお名前は?」と元に問う。
「----源元。高1」
「わっ! じゃあ、先輩ですね!!」
嬉しそうに、ぎゅーっと手を握りしめた秋保。
そして、彼女は-----彼に、こう提案した。
「ねぇ、先輩? ここで会ったのも何かの縁ですし、一緒にパーティーを組みませんか?」
「えっ、嫌だけど」
元は、それを、瞬時に断った。
なにせ彼は、1人で、自由気ままに居たい冒険者----誰かと一緒に冒険するなど、おひとり様気質な彼には、考えられない行為だったからである。
「そっ、そんな事を言わずに!! 一緒に冒険したら楽しいかもですよ?」
秋保はその後も何度も誘うのだが、元は断り続けた。
その日は結局、ボス魔物の討伐特典は秋保が貰い、2人は分かれたのだが-----
月曜日、学校に到着した元が待っていたのは、ウキウキした顔でこちらを見つめる秋保の姿だった。
「せ~んぱい! 一緒に冒険者、やりませんか?」
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【源 元】
冒険者ランク;F
クラス;魔法使い
レベル;Ⅲ
戦闘方法;魔法を見えない形であちこちに設置、自分の好きなタイミングで魔法を発動することが出来る。また、魔法そのものを細分化し、【燃えろ】や【浮かべろ】など単純な式として発動させる
備考;生粋のおひとり様気質の冒険者。自分1人でいる事が至福だと感じており、依頼などもほとんど受ける事無く、パーティーとして活動した経験もない
【与那国 秋保】
冒険者ランク;D
クラス;花魁
レベル;Ⅱ
戦闘方法;薙刀による近接攻撃、そして【花札銃】と呼ばれる組み合わせによって高火力を発揮する遠距離射撃が得意な万能型の冒険者。【花魁】の
備考;本人無自覚の色香の持ち主で、パーティーの多くを潰してきた、通称『パーティークラッシャー』。【花魁】の装備も目立ち、色々な意味で目立つ人物である
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