第98話(番外編) 空海大地VS佐鳥愛理 ~最期の決戦~

 冴島渉達が、墓碑銘龍エピタフ・エルダーデスドラゴンという相手と戦いを挑んでいた、ちょうどその頃。

 釧路では、空海大地がようやく、佐鳥愛理がいる部屋に辿り着いていた。




「やっと来ましたね!! 我が宿敵、マイマイン!!」


 開口一番、佐鳥愛理はそう高らかに宣言した。


 空海大地が、ダブルエムという不老不死をなんとか奴隷状態にして扉を開けて入ると共に。

 彼女は恨めしそうに、親の仇でも見るような瞳を、空海大地へと向けていた。


「まさか、【三大堕落】の中で一番強いとされるダブルエムを倒し! この最後の部屋まで辿り着こうとは!

 我が宿敵ながら、褒めてくれますよ!!」

「宿敵……?」


 一方で、空海大地は佐鳥愛理の高いテンションとは逆に、疲れ切っていた。

 ダブルエム----絶対に負ける事のない、死なない身体を持つあの相手をなんとか、最後の切り札である【強制奴隷スレイブバニッシュ】を使ってなんとかここまで来たのだ。

 既にダブルエムとの戦いで多くのスキルを使った彼の身体は、限界に近付いていた。


 もう既に、意識を手放して眠った方が良いかもと思うくらい、それくらい疲れ切っている空海大地にとって、佐鳥愛理の高いテンションにはついていけなかった。


「お前は、分かってるのか? 多くの冒険者が、お前、神の名のもとに、殺そうと……してるんだぞ?」

「そんな事は百も承知!! その前にわたくしは、目的を成し遂げて見せましょうよ!!」


 彼女はそう言って、じゃじゃーんっと、自前の効果音(つまりは口で言っただけ)と共に、球体を取り出す。

 それは以前にも空海大地が見たあのアイテム----世界をあの小さな球体に閉じ込める、あの【世界球体】であった。


「(アレか……アレでこの世界を閉じ込めようって言うのか)」

「もう既に調整も最終段階に入っています! この部屋以外を、外の世界全てを対象に!

 この小さな【世界球体】の中に閉じ込め、私は、この世界を完全に掌握するっ!!」


 ----そのために、お前は邪魔だっ!!

 佐鳥愛理は強い口調で、空海大地にそう告げていた。


「これ以上、お前の邪魔はさせないっ! "もう二度と・・・・・"邪魔されてたまるものですか!!」

「二度と……?」


 佐鳥愛理の言葉に、空海大地は脳内で必死に検索をかける。

 キーワードは"佐鳥愛理"、そして"一度目の邪魔"。


「(……ダメだ、まったく見当がつかん。そもそも、俺が何をしたって言うんだ?)」


 考えても、考えても、空海大地には彼女にここまで恨まれる理由が思いつかなかった。

 

「(俺が【天空世界テンクウパンク】で倒した魔王ベルゼビュートの意識が乗り移った? いや、あの魔王の目的は世界を滅ぼすことであって、世界をあの小さな【世界球体】に閉じ込めようとする、佐鳥愛理の姿と一致しない。

 それに、俺の事を恨んでいたのは彼女だけではない。ダブルエムも、である)」


 不老不死担当、ダブルエム。

 彼女は直接そういった言葉を吐いたわけではないが、ダブルエムと直接戦った空海大地には分かる。


 彼女の瞳、あれは前の【天空世界】でも見た、恨みつらみを必死に押さえていた時の民の目。

 何事もないように見せても、心のうちはぐつぐつと怒りや憎しみの炎を絶え間なく燃やし続ける、そういう類の瞳。

 世界を救うという、濃厚な勇者としての人生経験が、空海大地に彼女達の気持ちを告げていたのだ。


 ダブルエム、そして佐鳥愛理から感じる、濃縮された悪意。憎しみ。恨みつらみ。

 

 「視線だけで人を殺せる」などという言葉があるが、それはまさにこういった瞳のことを言うんだと、そのお手本のような瞳だった。


「(なんだ、俺は何をした? それさえ分かれば、佐鳥愛理を止められるかもしれない)」


 謝って許されてめでたしめでたし、とそんなことはならないと、流石の空海大地も知っている。

 しかし、相手が何について怒っていて、恨んでいるかが分かれば、それを謝罪することで、隙が生まれるんじゃないかと空海大地は思っているのだ。

 隙を作ることさえ出来れば、レベルⅩの空海大地ならば、無傷で佐鳥愛理を無力化することが出来るんじゃないかと。


「(----今の彼女は、俺への恨みつらみのせいで、まったく隙が存在しない。でも、隙さえ作れれば、俺の実力なら……)」



「これで終わりだっ、マイマインっ!!」


 

 と、佐鳥愛理は【世界球体】を、空海大地の方へ向けていた。


「対象となる世界を、わたくしがいるこの空間以外を全て飲み込むという微調整はまだ時間がかかる!

 しかしながら、マイマイン! お前を対象として飲み込む程度、世界を飲み込むのに比べたら楽勝だ!

 喰らえ、【世界球体】!!」


 佐鳥愛理が【世界球体】のボタンを押すとと共に、空海大地の身体が薄れていく。

 いや、あの小さな【世界球体】の中に、空海大地という人間が、まるで野生の魔物をボールでゲットする某ゲームのように、吸い込まれているのだ。


「ぐぐっ……!!」

「無駄だ、マイマイン! お前はこの【世界球体】に閉じ込められ、身動きできないまま、この外の世界と一緒に、閉じ込めてやる!! わたくしの勝利は完璧ですよ、"マスター・・・・"!!」


 そして、空海大地の身体は完全に【世界球体】の中に消え、そして----


 ----どかああああんっ!!


「~~~?!」


 【世界球体】は破裂し、中に閉じ込められていた空海大地が出てきた。


「何だか分からないが、今が好機っ!!」


 【世界球体】が破壊されて、自慢の武器が破壊されて戸惑う佐鳥愛理は、ほんの少し隙が生まれた。

 その隙を見逃す、空海大地ではなかった。

 彼はレベルⅩの【神官】の攻撃技、【聖なる鎖ダンザイチェーン】を発動。


 この攻撃は相手を一切痛める事無く、相手を肉体だけではなく、魂そのものさえも動けなくさせる魔法の鎖。

 その鎖に絡め取られ、佐鳥愛理は----


「----ウグッ?!」


 ----鎖の効果によって、身動きが、それどころかスキルさえも使えない状況になった。


「ふぅ……これで良い。後は、警察とか公安----世界の警察さんに引き渡すとしようじゃないか」


 佐鳥愛理が、神様レベルから嫌われる存在である事は、命題からも分かっている。

 しかしながら、その神託を信じて「はい、殺しましょ」と殺すのは、何か違う事ではないかと、空海大地は思っていたのだ。


「(彼女について、俺は、この世界はまだ知らなければならないことが山ほどある)」


 とりあえず、まずは1つ。


「なぁ、佐鳥愛理。お前がさっき言った"マスター"ってのは……」


 問いかけようとしたその時である、彼女の腹から血が流れ始めたのは。


「----?! バカなっ?!」


 空海大地は慌てていた。

 【聖なる鎖】は攻撃技ではあるが、相手を一切傷つける事のない、捕縛の技。

 間違っても、絞めすぎたから傷が出来て血が出る、みたいな効果はないはずなのだ。


「(しかも、ただの傷じゃない。致命傷だ、これは助からない!!)」


 プラーナ系統、【神官】などを初めとした回復術のエキスパートでもある空海大地には、その傷が致命傷である事は分かってしまった。

 それも、どんなスキルや魔法、アイテムを使おうとも治癒できない、自分の魂と肉体を同時に、かつ存在そのものを消し去ってしまうような、傷だという事も。


「この傷、うっかりでつけられるような傷ではない。まさか、お前っ!!」


 そう、空海大地は気付いた。

 この傷は、絶対に治癒できない治療不可能、生存不可避の傷は、彼女自身がつけた傷だという事を。



「----ははっ、いい気味だ」


 死にかけなのに、佐鳥愛理は嬉しそうに笑っていた。

 佐鳥愛理じぶんが死にそうになっているのを信じられないという様子で見ている空海大地の顔を見て、「ザマァ見ろ」と笑っていた。


「(これはもう、ただの恨みや妬みと言った感情ではない?! いくらなんでも、自分が確実に死ぬような傷をつけてまで、情報を引き出されたくないだなんて、生半可な覚悟で出来るようなモノではない!!)」


 だからこそ、空海大地には分からない。

 彼女が何故、そこまでするのかが分からないのだ。


 佐鳥愛理は死ぬ前、最期の力を振り絞って、彼に呪いをかけた。



「ザマァ見ろ、マイマイン。お前はこれから、死んだ方が楽だと思うくらい、辛い目を見せてやる」



 佐鳥愛理はそう言って、静かに息絶えた。



 ===== ===== =====

 Cランクダンジョン《幽霊船ホッカイドー》 マスターである佐鳥愛理を倒しました

 スピリット系職業【幽霊船】が 解放されます

 

 Cランクダンジョンが 消滅します

 北海道が 元の場所へと 戻っていきます

 ===== ===== =====



 そして、空海大地の心に大きな疑問を残したまま、佐鳥愛理討伐作戦は、無事成功という形で、幕を閉じるのであった----。

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