第97話 【融合召喚】と【幽霊船世界】

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 時間切れ・・・・ です

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「----がはぬっ!?」


 システムウインドウがメッセージを告げた途端、リョクチャが苦しみ始めた。

 倒れたままのたうち回り、さらには口から赤い血まで流している。


「リョクチャ?! ど、どうしたというんじゃ?! 主殿、これはいったい?!」

「実は、ファイントが気付いたんだが----」


 俺が、先程ファイントから受けた説明をしようとした、その時である。

 リョクチャの身体に、銃弾が撃ち込まれたのは。


「かはっ!?」


 銃弾を受けて、リョクチャの身体は動かなくなり、そして----砂のように消えて行った。


「----?! リョクチャ! リョクチャぁぁぁぁ!!」



「あはははっ!! 死ぬのなんて、ほんと、久方ぶり・・・・だね!!」



 ぴょんっと、銃弾を撃った犯人----死んだはずのシーヴィーは、飛び跳ねて起き上がった。

 その身体には傷一つなく、まるっきり健康そのものに見えた。

 【ゴブリンのお守り】を全部使い切ってやられたのに、まるで大丈夫そうだった。


「シーヴィー、貴様、あの威力でなお死んで……!!」

「いやいや、死んだよ。【ゴブリンのお守り】も使い切っちゃったし、ほんまもんのマジで。でもさぁ、このうちが即死などの死亡に対して、備えてないはずがないでしょ?」


 パチンッと、シーヴィーが指を鳴らす。

 

「----ねぇ、《死亡保険》赤鬼くん?」


 シーヴィーの鳴らした指の音によって現れたのは、頭がお墓になっている赤鬼。

 お墓には紙がぺたんと正面に貼られており、大きな赤い文字で【死亡保険】という文字が書かれていた。



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 【《死亡保険》赤鬼】 ランク;?

 別の世界の有力貴族などと取引をして死んだ後に復活させる世界を閉じ込めた【世界球体=死亡保険世界=】の力を得た、赤鬼の召喚獣。倒すと、スキルの1つ、【死亡保険】を使用することが出来るようになる

 保険対象者が死んだ場合、自分または所属するパーティー内の一定以上の財産を奪われる代わりに、即時復活、および蘇生することが出来る。ただし、復活に必要な財産の額は、その年に自分で稼いだ金銭の10倍である

  対象者)甘言のシーヴィー

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「サトエリちゃんが、うちのために召喚して補佐として用意してもらった、復活専用の部下さ。もっとも、復活するのにうちが今年稼いだ金銭----10万円の10倍が、貯金から引かれちゃうがね!!」


「…………」


「いやぁ、良いよね。この《死亡保険》赤鬼の力は。

 めちゃくちゃ稼ぎまくってしまった、荒稼ぎしたサトエリちゃんがパーティー資産として用意した金額から、うちが死ぬたびにたった100万円支払うだけで、復活、蘇生をしてくれるんだから!

 もう嬉しすぎて、声が世界に届いちゃいそうだよ!!」


 キランッと、決めポーズを取るシーヴィー。

 その手には、"エルダードラゴンエッグ"が握られていた。


「----?! エルダードラゴンエッグ?! 何故、アイツの手に?!」

「《ぴぴ! 取り返そう!》」

「そうねっ!」


 俺は何故かシーヴィーが手にしているエルダードラゴンエッグを取り戻そうと、雪ん子とファイントと共に足を動かそうとするが、動かない。

 いや、頭では行こうとしてるのに、身体が前に進まない。


「【傾聴せよ、ミルキーボイス】ってね。うちが得意げに解説する甘い声が、あなた達の身体を動けなくする技だよ」



「----?! なぜ、お主にその卵が?!」

「分かんない、ラブホちゃん? 今、うちの銃が、リョクチャちゃんを貫いて、討伐完了したからさ。

 これはその、確定ドロップってやつだよ」


 ガチャリと、こっちに逃げてこようとするエルダードラゴンエッグを、シーヴィーはどこからか召喚した鉄の鳥籠の中に閉じ込めると、それを《死亡保険》赤鬼へと渡す。


「正統なる報酬! ボス魔物を倒したら、確定ドロップが貰えるのは当然の権利! 君達にとっての仲間は、うちにとってはただの敵、倒したらドロップが貰えるのは至極、当然じゃないかな!

 ちなみに、この間、ラブホちゃんを倒した時にも、ちゃーんと貰ってるよ!」


 と、シーヴィーは狐の尻尾----恐らくは前にココアを倒した時に手に入れた確定ドロップを、ココアに見せつける。


「~~~~っ!? それ、妾の?!」

「そうだね、確定ドロップとして出てきた【吸血鬼狐の尻尾】というアイテムだよ。

 -----あぁ、誤解しないでね。勿論、全ての人間が、召喚獣を倒したらアイテムが出てくるんじゃなくて、この子の能力の1つだから」


 シーヴィーはずーっと黙って立っている、《死亡保険》赤鬼を指差す。

 《死亡保険》赤鬼はぺこりと、お辞儀をしたのを見ると、シーヴィーは得意げに話を続ける。



「《死亡保険》の力----それは2つ!

 1つは"自分が死んだ際に、その年で稼いだ金銭の10倍を支払えば復活する"という、蘇生能力!

 そしてもう1つは、"敵を倒した場合、ボスでなくても確実にドロップが出現する"という、確定ドロップ能力! もっとも、もう1つの方は、召喚獣や魔物でもないうちが死んでも、相手にドロップを与えてしまうデメリット付きだけど。

 うちはこの2つの力を使い、復活と、ココアとリョクチャの2人から、確定ドロップを頂いた、と言う訳さ!!」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「あぁ、もう1つ。説明すべきことがあったね」


 と、シーヴィはそう言って、俺に、そしてココアに指を突き付ける。


「君達はこう思わなかったかい? 何故、【不滅長寿(卵限定)】だっけ? そう、そのスキルを、不老不死関連のスキルを持つ彼女が死んだのか、って?

 それはねぇ、【融合召喚】を行ったから、だよ」


 くひひっ!! と、まるで魔女の笑い声のような、しかし可愛らしい女の声で笑うシーヴィー。


「【融合召喚】は、召喚術であって、召喚術ではない。

 《スピリット》の力によって、安定状態にある2体の召喚獣の身体を不安定状態としてドロドロにして、2体の召喚獣を無理やり繋げただけの技」


 《死亡保険》赤鬼が、2つの風船を持って来た。

 シーヴィーはそれを受け取ると、その2つをぐぐっと、合わせるようにして押し込んでいく。


「不安定な状態の召喚獣と、同じく不安定な状態の召喚獣。どちらも不安定な状態の召喚獣が、合わさった所で完全な、安定状態になる訳がない。

 【融合召喚】で召喚した召喚獣は、大抵はこの風船のように----」


 ぐぐぐっ!!

 2つの風船は力を加えられ、お互いにお互いを押し退けて、向こうへ行こうとして、そして----


「----破裂する」


 ----ぼんっ!!


 風船は破裂し、シーヴィーはニヤリと笑う。


「これがうちの得意戦術、【融合召喚】の正体さ。おかげで、仲良しこよしの【三大堕落】内において、不老不死担当のダブルエムから、この戦術は嫌われてるけどね。

 なにせ、不老不死だろうと、不安定状態になったら、さっきの彼女のように、現世に留まれずに消滅するんだから。

 うちは即席インスタント大好きで、不老不死のような刺激なき人生なんてまっぴらだから、この戦い方は継続するつもりだけどね」



 ----さて、お喋りはここまでにしようか。



 シーヴィーがパチンと指を鳴らすと、俺達の身体は途端に重力を思い出したかのように、動き始める。

 恐らくは、【ミルキーボイス】というスキルの効果を解いたのだろう。


「シーヴィー!! 貴様だけは!! 絶対に許すまじ!!

 妹を、リョクチャを返してもらうのじゃああああ!!」


 ココアはそう言って、自分の周りに大小合わせて100個近くの火球を生み出すと、それをシーヴィーに向かって投げつける。


「死ぬのは嫌だな~。復活できるとしても、死ぬのは嫌だな~」


 シーヴィーはそう言いながら、手元に召喚した銃の引き金を引いて、禍々しい紫のエネルギーによって、ココアの攻撃を防いでいた。


「それに、君達はうちなんかよりも先に、倒しておくべき相手がいるはずだよ?」



 -----グォォォン! グォォォォンッ!!



 と、俺達の前に、紫骨のドラゴンが現れた。


「また、さっきのドラゴン?! いつの間に……!?」

「いや、ココア。良く見ろ、アイツの尻尾を」


 ココアに促すようにして、雪ん子とファイントの2人にも、俺は骨だけとなったドラゴンの尻尾に注目させる。

 ドラゴンの、骨だけとなったドラゴンの尻尾は、"蠍の尻尾のように、鋭い針となっていた"。


「----あぁ、紹介しておこう。この北海道の大地を飛ばす、【幽霊船世界】にも、2つの効果が存在する。

 1つはアンデッド----メガボタンデスドラゴンやレイスなどといった邪霊族の戦闘能力の向上。

 そして、もう1つは……"死んだ相手を、アンデッドとして復活させる効果"だよ」



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 【墓碑銘龍エピタフ・エルダーデスドラゴン】 ランク;☆☆ 屍龍族

 ドラゴンの中でも特異な、死ぬことによって生れ落ちる屍龍族の魔物。ドラゴンの中でも長命、長い年月を過ごしたドラゴンが死ぬことで、エルダーデスドラゴンとして蘇るとされている

 生前、文字を空中にも書くことが出来たその能力は、死して別の魔物となった後も健在であり、その文字は生きる者達を呪う悪意ある言葉として、敵にぶつけられる

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「頼んだよ、エピタフちゃん。では、諸君!! また会おう!!」


 そう言って、シーヴィーは《死亡保険》赤鬼と共に、影も形もなく、逃げ去ってしまう。


『ワラワ! ワラワオネエ! ワラワオネエ!!』

「リョクチャ……お主、そんな姿になっても妾のことを……!!」


 泣きそうになるココアを、俺は無理やり、【送還】させる。


「----!! 主殿、なにを!?」

「あれは完全に、リョクチャじゃない!! ココア、ここからは俺達で倒しておく! お前はもう限界だ!」


 そう、体力と魔力をほとんど使い切って、ろくに戦える状態じゃないってことは、【召喚士】である俺には良く分かる。


「あいつは! 俺達でなんとかしとくさ!」

「いや! 妾も共に……」


 ココアも手伝いたそうだったが、そのまま【送還】スキルによって、還っていった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「雪ん子、ファイント。と言う訳で、奴を倒すぞ。

 俺はもう、アイツを苦しませたくない」


 そう、俺だって、責任感はあるさ。


 なにせ、エルダードラゴンエッグを【融合召喚】したのは、この俺で。

 なんなら、めちゃくちゃ強いから、他の3人にも後でやろうかなぁ~と思っていたこの俺だ。


「(こんな危険なスキルだと知ってたら、使わなかった)」


 反省は大切だ、そして切り替えも大切だ。

 あのエピタフなんとかドラゴンは、ただの敵だ。


 断じて、アホの子で、ココアを「妾お姉ちゃん」と言って慕い、俺達の新たな仲間になってくれた、リョクチャではない。


「倒すぞ、2人とも」



「《----?? 倒す! 倒す!!》」

「うふふ☆ さーて、どこから潰そうかしら? 頭から? それとも尻尾から? 夢が広がるわねぇ♡」



 雪ん子とファイントは、俺の気持ちも知らずに、のん気に敵を倒す算段を付けてくれる。

 まぁ、2人とリョクチャの関係なんてペラペラ、ないに等しい。


 だけど今は、そのペラペラで、何の気兼ねもなく、あのドラゴンを倒してくれる2人の存在が、ありがたかったのである。

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