第77話 エピローグ

 ----色々と、吸血鬼ココアの話には気になる所はある。

 しかしながら、事実は事実として受け止めるしかあるまい。


 レベルⅡとなって、さらにレベルアップという形で強化された吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世。

 それに対して、【甘言のシーヴィー】が繰り出したのは、レイスとドラゴンエッグの、レベルⅠの召喚獣2体だけ。

 ----それなのに、ココアが一方的にぶちのめされた。


「(自称最強の【召喚士】の、【甘言のシーヴィー】、か)」


 別に、俺自身が最強だと言い張る気は毛頭ないのだが……。

 だがしかし、ココアを倒したそいつの実力、気になる所である。


「(なにより、佐鳥愛理の仲間だと言っているところも、気になるよな)」


 俺の召喚獣----ファイントを誘拐した冒険者、佐鳥愛理。

 彼女が何者かとか色々と気になるし、またファイントや他の召喚獣を誘拐して、俺の冒険稼業を邪魔したりしないだろうな……。


 俺は正義漢って訳じゃないし、どちらかと言うともう関わりたくはない。

 佐鳥愛理は俺の中でのカテゴライズ的には、凶悪犯罪者、もしくは殺人鬼の類に入ってる。

 そんな犯罪臭ぷんぷんの相手が出来るのは、一般的感性の持ち主たる俺なんかじゃなく、同じように犯罪臭をまき散らす奴らか、そういうヤツらが許せない系の正義漢勇者さんだけで十分だ。

 出来れば、俺とはまったく縁も所縁もないところで、静かに倒されて安心したいところだが。


「そう言えば、【甘言のシーヴィー】って、私が消滅させて出したドロップの中にありませんでしたか? ご主人?」

「あー、未完成の魔導書、な」


 確か、ドロップアイテム候補の3つ目にあった、未完成の魔導書だな。

 その魔導書を書いていたのが、【甘言のシーヴィー】だったはずで、俺も使って、スピリットを使えるようになった。

 使えるように……なったのだが、未完成だからスキルとしては何も増えておらず、ただスピリットも使えるようになっただけだ。


 例えるなら、引換券を貰ったのは良いけれども、なにが当たるか分からないし、交換所もどこにあるか分からない、的な感じで?

 俺の中では、あの3つの中で一番、(今ん所は)要らないアイテムだ。


 俺の職業の【召喚士】は、四大力の1つで、魔術を司る《マナ》を使って召喚獣を召喚している。

 そして、この【召喚銃の魔導書(未完成)】を使うと、付与を司る《スピリット》を使うことが出来るのだが----正直、マナだけではなく、スピリットを使えるようになっただけ。

 どういう風に扱うのが正解なのか分からないから、貰った所で、なぁ……。


 せめて、ココアが相手の戦法を覚えてくれてたら、なにか活用方法のヒントみたいなのが得られると思ったんだけど……。

 ココアは、なにも覚えてないみたいだし。


「後の2つは、それなりに活用方法があるんだけど」


 まず、【帰還渦の魔導書】。

 これを使ったら、スキル【帰還の渦】という、ダンジョンから一瞬で帰還できるスキルが使えるようになった。

 今まで攻略したダンジョンは1日で攻略できるダンジョンが多かったのだが、これから先----上位のダンジョンでは使うことが多くなるスキルだ。


 例えば以前クエストでお世話になったCランクダンジョン《東神話大陸》。

 あれはアメリカ大陸とほぼ同じだけの規模に、10体以上のボスがいるというダンジョンで、一度に10体全員を倒す必要はないが、完全クリアするには10体全員を一度は倒さなければならないというダンジョンだ。

 そこまでではないにしても、これから先----ボスに辿り着くのに長時間かかるくらい巨大だったり、あるいはボスが複数いるダンジョンが増えてくるらしく、それを考えるとこの【帰還の渦】というスキルは入手しておいて損はないだろう。


 続いて、【非道なる注射器】。

 なんだか俺のレベルアップしている召喚獣って、悪属性というか、悪性みたいな奴が多いし、使っておいて良いのかもしれない。

 ただ悪属性で固めるのが、本当に正解かは分からないので----とりあえず、保留で。


「ほら、そろそろ家に着くから、ファイント。もう、お前は帰っておけ」


 流石に、ファイントが家にいるという状態は2回も経験したくないので……。


「まっ、確かに今日は、私のために頑張ってくれたみたいですし……。

 色々と確認・・も出来ましたので、まっ、いっか☆」

「確認……?」


 なんだろう、ファイントが言うとなんでも意味深な言葉に聞こえてしまうな。


「では、私はこの辺で!! また、ダンジョンで会いましょうね、主様☆」


 そう言って、ファイントは懐から出した召喚陣が書かれた紙を使って、自ら発動させると、その中へと消えて行った。

 完全に光が消えたのを確認して、俺は召喚陣の紙を回収する。


「ふぅ、これでゆっくり出来そうだ」


 俺はそのまま、自宅へと帰って行ったのである。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 自宅へと無事に帰って、今日は疲れたからシャワーでも浴びようかと思っていると、1本の電話が。

 どうやら、網走海渡からの連絡みたいだ。


 俺と同時期に、しかもめちゃくちゃ良い感じの命題を引いた【剣士】の、網走海渡。

 彼はバランスの取れた4人組パーティーに配属され、今では学校にいる時間よりも、ダンジョンで冒険する時間の方が長いという、自称"ダンジョン中毒"な冒険者である。

 確か、この間レベルⅣになったのとか?


 身近に、同期(同じ時期に冒険者になったという意味にて)でもある網走海渡が、自分よりもレベルが高いとか聞くと、自分ってまだまだだなとか思ってしまうな。

 【剣士】と【召喚士】では、まるで違うって事は分かってるんだけど。


「……あっ! そうだった、電話。電話」


 俺は慌てて、電話を取る。


『おー、やっと繋がった。どうした、忙しかったりした?』

「いや、ダンジョンにさっきまで居てて、攻略した帰りだったから」

『あー、分かるわー。ダンジョンって楽しいけど、けっこう神経を使うよなー』

「だなぁ~」


 ってか、そんな冒険者あるあるを話すために、電話をしてきたんだろうか?

 俺と海渡は友人ではあるが、流石にこんな事で電話するような奴ではないと思うんだが?


『ってか、そういう事を言いたいんじゃないってか。1つ、聞きたいことがあるって言うか----渉、お前、《木こりが暮らす水辺》ってダンジョンに、変な入り方してない? なんか、後ろ向きにって言うか?』

「----?!」


 なんで、だ?

 なんでいきなり、海渡がそんな事を聞いてくるんだ?

 

 その入り方って、《サリエリのアジト》に入る方法そのものじゃないか!!


「(とりあえず、黙っておくとするか)」

『----?? おーい、聞こえてますかぁー、渉くーん?』

「あ、あぁ、ちょっと気分が良かったらふざけて入ったんだけど、別にいつもの《木こりが暮らす水辺》ダンジョンだったぜ?」

『あー、そっか』


 俺の話を聞いて、後ろ向きに入られても問題はない。

 既に証拠は、ダンジョン自体は消滅させてあるんだから。


『そっか、そっか。お前は関係なかったか。いや、ギルドから変な入り方をしていた冒険者が、俺の友人って聞いたから確認のために、なっ!!』

「いや、別に良いんだけど、いきなり何? 若干怖いんだけど」

『あ~、だよなぁ~。よし、俺が頭が狂ったんじゃないってことを証明するために、ぽぽいっと!!』


 ピロロンッ、と、なにかメールが到着しましたよという音が。

 恐らくは、海渡からのメールだろう。


『後で確認しておいてくれ。俺はそれの対応で、今忙しいし、色々と片付いたらまた連絡しておくわな!』

「あっ、ちょっ!!」


 ぷつんっ、と、唐突に電話が切られてしまった。


「俺も、ちょっと相談したいことがあったのに……」


 まぁ、メールを見れば、なにか分かるのだろう。

 そう思って、メールを確認すると、やはり来ていたのは海渡からのメールで、画像が1つ添付してあった。


 そこに貼り付けられていたのは、網走海渡の冒険者証。

 何かの自慢かと思っていたのだが、そこに書かれていた文章で、全てを理解した。



 ===== ===== =====

 【網走 海渡】

 冒険者ランク;D

 クラス;剣士

 レベル;Ⅳ

 命題;攻撃が2回攻撃になるが、大剣しか使えない

   ;佐鳥愛理を殺せ

 ===== ===== =====



「佐鳥愛理を殺せ?」



 俺は、網走海渡の冒険者証に書かれている一文を見て、驚きを隠せなかったのだった。

 その衝撃は、玄関前に置いてあったこれ・・以上かもしれない。



 ===== ===== =====

 【エルダードラゴンエッグ】 レベル;Ⅳ

 ドラゴンの中でも、長命種と呼ばれる超上位種の、ドラゴンの卵型の召喚獣。卵の中身はまだなんのドラゴンになるか定まっておらず、その身体は硬いドラゴンの卵の殻に覆われている

 条件を満たすまでは卵のままであり、長い時間を卵のまま生き残るために、普通のドラゴンと同等の力を手にしている



 攻撃力;D

 属性攻撃力;B

 防御力;A

 素早さ;E

 賢さ;B


 固有スキル;【不滅長寿(卵限定)】;死ぬこともなければ、成長することもないという不老不死スキルの劣化版。卵の状態のときのみ、適応

      ;【孵化選び】;孵化させてもらうための相手を、自ら探し求めるスキル。ダンジョンの外でも適応され、孵化と同時に消滅します

      ;【ドラゴンパワー】;ドラゴンの力により、全ての攻撃が強力となります

 ===== ===== =====



 俺の前に現れた、ドラゴンの卵----【エルダードラゴンエッグ】の召喚獣。

 コイツの上に、【ボスを倒した褒美として、差し上げます♪ By佐鳥愛理】と書かれた紙。


 ----考える事は、山積みだ。



《2章 完》

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