第74話 《サリエリのアジト》のボス魔物(2)

「%%&%&#%&%&#%&#%####!!」


 ファイントの力を与えられたボス牛鬼は、【スタンブレード】の金色の爪を床へと突き立てる。

 突き立てられた爪は床へと吸い込まれ、そのまま雪ん子の足元の床からワープするように現れた。


「雪ん子、足元だ!!」

「《ぴぃ! 分かった!!》」


 雪ん子は俺の言葉に頷くと、左手に纏っていた冷気の勢いを強める。

 強められた冷気の力は、リンゴが木から落ちて行くように地面へと激しい勢いで落ちて行き、足元の床から現れた爪を凍てつかせる。

 凍てつかせることによって動かなくなった爪の周りを、そのまま黒い靄による浸食が襲う。


 今は凍り付かされて動かないようだが、後もう少しで黒い靄によって、さっきの壁や床のように崩壊してしまうんだろう。


「《ぴぴっ! 主、下!》」

「おぉ! 俺もか!」


 俺の足元からも、雪ん子の下から出たのと同じような爪が現れ出でていた。

 その対策として、召喚陣から召喚獣を呼び出す。

 呼び出された召喚獣は俺を背中に乗せたまま、そのまま浮き上がっていく。


 俺が呼び出したのは、レベルⅢの召喚獣----【コウテイスズメバチ】である。



 ===== ===== =====

 【コウテイスズメバチ】 レベル;Ⅲ

 とある皇国の固有種である、巨大且つ狂暴なスズメバチの召喚獣。人間を乗せるほど大きな巨体を持ち、高度に組織された軍隊能力を持ち、その軍隊能力で騎士団をも壊滅に貶める事が出来る

 「鋼のよう」と評される外骨格は他の生物どころか人間が作り出した武器すら生半可なものは受け付けず、騎士や侍の甲冑すら容易に貫く毒針からは「毒のカクテル」と評される、多種多様な毒物が混じった毒液を体内に注入して死に至らしめる

 ===== ===== =====



 このコウテイスズメバチは、1匹でもそれなりに使える召喚獣だ。

 集団で召喚してこそ高い効果を発揮するのだが、1匹でも武器を弾き飛ばす硬い身体、そして説明にもある強力な毒。

 流石に人間を乗せる巨体なスズメバチを大量に召喚する勇気がないので、1匹しか召喚しないけど……。


 なにせ、奴らうっかり、俺の服に毒液を垂らしやがったんだぞ!

 試しに召喚してみたあの時は大勢いたから、動きづらくて仕方がないのは分かるが!!

 でも、服を溶かし、さらに俺の身体に毒まで入れられて死にかけた!!


 なので、もうこいつは1匹ずつしか召喚してやらんのだ!

 有能だが、雪ん子を初めとして、俺には強い召喚獣が既にいっぱいいるしな!


「よし、コウテイスズメバチ! あのボスに向かって、毒針を放て!」

「ギギギッ!!」


 俺の指示の元、コウテイスズメバチは毒針をボス牛鬼めがけて放つ。

 すると、ボス牛鬼の背中にプロペラのようなものが現れたかと思うと、それがくるくる回転して竜巻を生み出す。

 そして生み出された竜巻が、コウテイスズメバチの毒針を飛ばした。


「【ハリケーンプロペラ】の力か……」


 確か、俺が覚えさせた青魔法の力だ。

 あの回転による竜巻の力がある限り、毒針を飛ばすという戦術は見送った方が良さそうだ。

 かと言え、接近戦もこのコウテイスズメバチなら出来るが、俺を乗せたまま、しかも人間の武器なんかとは比べ物にならないくらい強そうなあの鋼の脚と相手するには……。


「うむ、無理だな」


 という事で、雪ん子にお任せしようじゃないか。

 あぁ、その前に----こいつも呼び出しておこう。

 コイツならきっと、雪ん子の助けになるはずである。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「###%#%&%%&#%%#&#%&!!」


 カパッと、ボス牛鬼の大きな口が開く。

 口が開き、そこから赤い炎の銃弾が生成されて放たれる。


 ファイントが覚えている青魔法の1つ、【ファイアーバレット】。

 その炎の銃弾をくるくる回転させて、雪ん子に放って来たのだ。

 雪ん子はそれに対し、なんの対策もせず、そのまま突っ込む。


 ----ばぁんっ!!


 炎の銃弾が雪ん子に当たる。

 しかし、ただそれだけだった。


 銃弾のダメージは確かにあったが、ただそれだけ。

 氷属性の雪ん子には大ダメージだった炎属性の効果は、ポリアフへと進化した事で無効化されていた。


「《ぴぃ! ただの銃弾! ただの銃弾!》」


 レベルⅢとなって大幅に強化された今の雪ん子にとって、ただの銃弾程度など、受けたとしても優しく撫でられる程度にしか感じられなかった。

 だからこそ、雪ん子はそのまま突っ込んだのだ。


「#&#%%##%%%###%&#%%&!!」


 ボス牛鬼は自身の攻撃が効かなかったと悟ると、カサカサと何本もある脚を器用に動かして後退する。

 フロアの大きさも制限があるからそんなに逃げられないかもと思っていたのだが、ボス牛鬼が後ろへ逃げると共に、フロア自体も広がっているみたいだった。


 ボスの間は、ボスが支配している空間であり、ボスが一番輝くためのステージである。

 だから《風雲! ドラキュラブホ城!》のボス吸血鬼が空を飛んだ時に天井にぶつからなかったのも、今回のボス牛鬼が逃げ続けられるのも、同じ理由である。


 蜘蛛の脚を器用にガサゴソガサゴソと後ろに逃げながら、【スタンブレード】の爪を銃弾魔法として放ちつつ攻撃も行う。

 雪ん子も必死に追いかけるが、身体のサイズが違いすぎて、追いつける気配がない。


「《ぴぃ?》」


 ボス牛鬼が逃げるのを追いかける中、雪ん子は目の前に1匹の召喚獣が居ることに気付いた。

 それはさっきまで雪ん子が、1体1体バッタバッタと斬り捨てて行ったディマであった。

 ディマの姿を見て、雪ん子はこのディマが先程自分達に襲い掛かって来たモノではなく、主が召喚した召喚獣だと理解した。


 ディマは雪ん子の姿を見つけると「ぶもぉぉぉん!!」と大きく鳴く。

 その鳴き声から、雪ん子は1つの想いを読み取っていた。


(----乗れ、女)

「《ぴぴっ! 乗る!》」


 雪ん子がディマに跨ると、ディマはボス牛鬼に向かって走り出す。


 全速力で走り、ディマが魔力を身体に纏うとさらに速く。

 その魔力を雪ん子が炎属性の魔力を付与して、さらに速くなっていく。


 ディマは、魔力を纏って突撃するように生み出された召喚獣。

 普通の身体能力とは別に、魔力が強くなることでも能力が強くなる性質を持つ。

 今、そんなディマに、ランクが上の雪ん子が魔力を与える事によって、強制的に速度を上げているのだ。

 

 どんどんボス牛鬼と雪ん子達の距離は、縮まりつつあった。


「#%#%&%&##%&###%%%%&&&&&!!」


 ボス牛鬼は攻撃を切り替える。

 えんえんえんと、噓泣きかと思うくらい大袈裟に泣いて、真っ黒な涙を流していく。

 それは滝のように流れ落ち、黒い川のようにして広がっていく。


 広がっていく黒い川は触れたあらゆる物を、崩壊させていく。

 床を腐らせ、壁を崩し、ボスの間全体を崩壊させていく。


 ----全てを崩壊させる悪の力を纏わせた、ボス牛鬼の涙の川。


 そんな涙の川が、どんどん雪ん子達の方に近付いて来る。


「(行け、女)」

「《ぴぃ! 行くっ!》」


 「ぶもぉ!!」というディマの激励の言葉と共に、雪ん子はディマから飛び降りて、そのままボス牛鬼の方に向かって行く。


 そして、全てを崩壊させる黒い涙の川を、雪ん子は何の迷いもなく、踏み入れ、そのまま何事もなく・・・・・進んで行く。


「#%&&%?」


 ボス牛鬼は、黒い涙の川に触れても何事もない雪ん子の様子に、驚く。

 後ろのディマは、他となんの違いもなく、崩壊したのに、だ。


 その理由は、雪ん子が持つ、悪属性の力。

 ボス牛鬼の黒い力は、悪属性の力で、周囲の全ての物を崩壊させている。

 ----逆に言えば、悪属性を既に持っている雪ん子には、効果がないのだ。


「《ぴぃ! ここでっ!》」


 そして、遂に、ボス牛鬼の足元まで辿り着いた雪ん子。

 そのまま彼女の顔の辺りまで飛び上がると、


「《兜割りっ!》」


 頭に被る兜を割るような勢いで、ボス牛鬼の顔----つまりは泣き続けるファイントの顔を斬りつけた。


 眉と眉の間、ちょうど額の真ん中を傷つけられ、ファイントの顔から大量の黒い血が流れだしていくのであった。

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