第61話 風雲! ドラキュラブホ城!(2)

 雪ん子とファイントと一緒に、俺は《風雲! ドラキュラブホ城!》のボス広間へと足を踏み入れた。

 中は今までと変わらず、原色で彩られた目に悪そうな部屋で、壁には大量のハートマークが描かれていた。


 そして、その中央に、この《風雲! ドラキュラブホ城!】のボスが居た。

 居たのだが……なんだか、変なボスだった。


「来たな、お前ら! この城のボスたる余、【モカ・ガールハント・ヒアリング2世】様が引導を渡してくれようではないか!」


 そいつは、大きな牙を見せつける、黒い高価そうなマントをひらひらとなびかせる男。

 まさしく、アニメやドラマとかで見る【吸血鬼ドラキュラ】のイメージそのものと言った容姿の男である。


 問題なのは、それ以外・・・・のヤツの恰好である。


 鎧代わりに硬そうな城壁のような何かで身を包み、手の代わりに砲台が2つ、肩や腰のも合わせると10を超える。

 背中の煙突からは絶えず黒い煙が絶えず出ており、光から目を守るためなのかサングラスを付けていた。


 機動要塞そのものを身に纏った吸血鬼。

 それがボスの間にいた、10mを大きく超える大型ボスの姿である。



 ===== ===== =====

 【《機動要塞》《エッチな》吸血鬼モカ・ガールハント・ヒアリング2世】 ランク;? 《風雲! ドラキュラブホ城!》ボス魔物

 機動要塞を相棒として戦う世界を閉じ込めた【世界球体=機動要塞世界=】の力を与えられた、吸血鬼のボス魔物。倒すと、マナ系職業の1つ、【機動要塞】を使用することが出来るようになる

 既成の装備品を一切装備できない代わりに、建物を機動要塞化して装備できるようになる。また移動速度が遅くなる代わりに、魔法を専用スキル【チャージ】を用いる事で溜めて威力を大きく上昇させることが出来る


(※)このボス魔物を倒した場合、マナ系統職業【機動要塞】が解放されます

 該当の四大力を持つ者に、職業変更の勧誘がありますので、了承した場合、その職業に変更できます

 ===== ===== =====



「【機動要塞】……?」


 初めて聞く職業ジョブ……と言うか、果たして【機動要塞】を職業ジョブの1つとして認めて良い物だろうか?

 全体的にゴツゴツしていて、背中の煙突やら沢山の砲台なんかもあって、まるで機動要塞を身に纏っているという感じはするのだが、どうしてもこの《風雲! ドラキュラブホ城!》というダンジョンには合わない感じがする。


「(さっきまでは《エッチな》関連の魔物が出てたのに、ここに来ていきなり【機動要塞】? どういう関連で出てきたんだ?)」


 まぁ、マナ系統は【魔法使い】やら【風水師】と言ったような後衛なのだから、近接系----つまりは雪ん子の使う【剣技】に弱いはず。

 なのだが、あの硬そうな城壁のような鎧に阻まれるだろうから、まずはあの鎧をなんとかしないと。


「とりあえず雪ん子、あいつに攻めこめ! あいつは【魔法使い】のような遠距離から攻撃するタイプみたいだから、近距離に弱いはずだ!」

「《ピッ! 了解!》」


 俺の命令を受けて、雪ん子は巨大なボス吸血鬼へと向かって行く。


「《火炎よ、相手を穿つ弾となれ! ファイアーバレット!》」


 敵のボス吸血鬼は、さっき戦った吸血鬼と同じ火炎の銃弾の魔法を放ってきた。

 さっきと違う所と言えば、その火炎の魔法を奴のいくつもある砲台全てから放ってきたこと、そしてそれらが比べようがないくらい強かった事だ。


 大きさ、速さ、それらがさっきまでの倍以上で放たれていた。


「【ハリケーンプロペラ=レーザービーム】!」


 ボス吸血鬼が放った炎の弾丸----いや、砲弾たちに対して、ファイントは青魔法で対処する。

 光線を放って相手に与える魔法を、【ハリケーンプロペラ】の力で回転力を加えて、だ。


「一発、一発が大きいので、雪ん子ちゃん早めにお願いよぉ!!」

「《ピィ! や・るっ!》」


 ファイントが炎の砲弾を青魔法で対処する中、雪ん子は剣を大きく振って斬りつける。

 しかしながら、レベルⅡの限界値のレベルまで達しているはずの雪ん子の剣技ですら、ボス吸血鬼の硬そうな城壁鎧に傷一つすら付けられなかった。


「《硬イっ!》」

「あぁ~ん☆ 【スキャン】してみたら、あそこら辺に弱点のコアがあるのにぃ~♪」


 ファイントはそう言いながら、ボス吸血鬼の背中を指差す。

 どうやらあそこに、敵の弱点があるみたいだ。


「(でも、その弱点コアを出すためには、あの硬い城壁鎧の装甲を破壊しなければならない。そして、雪ん子の力では不十分で----)」


 考えろ、どうすればあの鎧を破壊することが出来るのかを。


「《水よ! 相手を押し流す波となれ、マジックウェーブ!》」


 俺が考えているうちに、ボス吸血鬼は次の魔法を発動していた。

 本来は相手全体に波による水魔法を与える技なはずだが、ボス吸血鬼の砲台から出てきたのは水のレーザー。

 魔法の波を圧縮し、一直線にしてあらゆる物を切り裂く水のレーザー攻撃として、ボス吸血鬼は放ったみたいである。


「《ファイントっ!!》」

「はいはい、お任せあれ~!! ご主人! 逃げちゃいますよ! 【スキャン=マルチアーム】!」


 驚いて指示が遅れる俺を救われたのは、雪ん子が代わりに指示をしてくれたからだ。

 雪ん子が指示をして、ファイントが俺に青魔法をかけて、俺を逃がした。


「いやぁ~☆ 相手は固定砲台みたいに撃ちまくれるのに、こちらの攻撃は効かないとは~♪ で、どうすれば良いですか、ご主人?」

「……【スキャン】で、【ファイアーバレット】を【学習ラーニング】して、弱点コアの方に投げろ」


 ファイントはそれだけで、俺の言いたい事は理解してくれたようだ。

 にんまりと笑ったファイントは、炎の銃弾魔法をいくつも生み出し始めた。


「雪ん子ちゃん、当たらないでね☆ 【マルチ=ファイアーバレット】!」


 ファイントが放った大量の炎の銃弾魔法は、真っすぐにではなく、回り込むようにしてボス吸血鬼の背中へと放たれていた。

 放たれた炎の銃弾魔法は、弱点コアを守る城壁鎧に当てて熱していた。


「雪ん子! そこを冷やせ!」

「《冷やしマス!》」


 熱された場所に雪ん子は直接手を触れて、その場所を瞬間的に冷却する。

 雪ん子の攻撃にピクリとも傷一つ付かなかった城壁の鎧が、ほんの少しだけひびがついた。


「急激に熱した後、冷ます! 岩を破裂させるための方法の1つだ!」


 高温に熱した岩を、冷却すると体積が小さくなる。

 その冷却の速度が速いと、表面は縮むのに、内部は膨張しているという状態になって、歪みが生じるのだが、そこで生じた歪みにより、岩は割れるか、小さなひびが入り割れやすくなる。


 熱して、冷やして、硬い物を破壊する。

 いつか試したいと思っていた戦い方の1つだ。


「《火炎よ、相手を穿つ弾となれ! ファイアーバレット!》」

「こっちもいっぱい、行くよぉ~! 【マルチ=ファイアーバレット】!」


 ボス吸血鬼が火炎魔法の砲弾を放ち、ファイントが合わせるようにたくさんの火炎魔法の銃弾で撃ち落とす。

 ボス吸血鬼の攻撃を撃ち落としてなお、ファイントが放った火炎魔法の銃弾の方が多く、ボス吸血鬼の背中に何発も当てていた。


 当然ながら、それ自体ではボス吸血鬼の分厚い装甲は傷一つ付かない。

 しかしながら、その熱せられた所に、雪ん子の攻撃によって冷やされて、ひびが広がる。


「そろそろ壊れそうですね! 【マルチ=マルチ=ファイアーバレット】!」

「《ははっ……もうすグ! もうスグで、へへっ……!!》」


 先程とは比にならないくらいの大量の火炎の銃弾魔法を放つファイントと、スキル【殺意の目】の影響によっておかしくなり始める雪ん子。

 そんな2人の全力によって、ボス吸血鬼の背中の装甲は遂に限界を迎え、破裂して飛んで行った。


 飛んで行った装甲の下からは、赤く丸いコアが剥き出しになっていた。


「あれが弱点か!」

「《これ、壊……殺スっ!》」


 そして、丸いコアに雪ん子が攻撃を放とうかという瞬間----



 ----ボス吸血鬼の背中の煙突が外れ、そこから飛行装置ジェットパックを出して、空へと飛びあがる。



「飛ぶのか、あれは?!」

「《ピィ!! 届かないっ!》」


 飛びあがったことで、雪ん子は悔しそうに地団太を踏んでいた。

 近接系統である、【剣士】の雪ん子では、相手が悪い。


 ボス吸血鬼は、背中のジェットパックを使って、その場に留まっていたから、下に降りてきそうな気配がまったくなかった。


「な・ら♡ ここは、私にお・ま・か・せ☆」


 と、後ろでファイントがウインクをしていた。

 ここは、自分に任せろ、と言わんばかりに。


 ----でもまぁ、ここは遠距離攻撃が得意なファイントの出番だろう。


「《火炎よ、相手を穿つ弾となれ!》」

「ま~た、同じ手段で行くつもりぃ?」


 ファイントが言うように、ジェットパックで空を飛んで制止したボス吸血鬼はと言うと、さっきと同じように炎の銃弾魔法を放とうとしていた。


「空を飛んでいても、一緒ですよ☆ ぜーんぶ、撃ち落としちゃいますねぇ☆」


 そうして、ファイントは先程と同じように、【ファイアーバレット】の魔法で撃ち落とす準備を始めていた。


「《----ファイアーバレット!》」

「あれれぇ?  放たれ、ない?」


 ボス吸血鬼の砲台からは、炎の砲弾魔法は……放たれなかった・・・・・・・

 もしや、【鑑定】にあった、専用スキル【チャージ】というヤツだろうか?


「来ないなら、こっちから----」


 と、ファイントが放とうとした、その時である。



 彼女は、後ろから撃たれた。

 ボス吸血鬼のいる方とは、まったくの逆方向から。


「後ろっ……!?」


 振り返ると、そこにはボス吸血鬼の砲台と同じものが、地面から生えていた。


「あぁ……そうでしたね♪」


 ファイントは撃たれたのに、どこか嬉しそうな声をしていた。

 戦闘を楽しむ、そういう感じの声。


「《相手の背後に砲台を出現させて、魔法攻撃をする専用スキル》----確か、【射程無制限オールレンジ】でしたっけ?


 ……良いねぇ♡ やっぱ、戦いはこうじゃなくちゃ♡」

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