第49話 オーラ VS スピリット(1)
ファイント無双によって、2体のボス騎士がやられていた、ちょうどその頃。
もう1つの部屋----つまり、雪ん子と【アイシクル騎士団長スティーリア】の姿があった。
純白を思わせる真っ白な鎧に身を包んだ、青いポニーテールヘアーの美少女----騎士団長スティーリア。
彼女の頭には姫である事を象徴するかのように氷のティアラが光り輝き、手にしている剣はまるで宝石のように静かに輝きを放っている。
そんな彼女は、女の子にしては険しい目つきで、2人の騎士の死を感じ取っていた。
「(ニパス、それにスリートまでやられましたか)」
本来、魔物達に同族関係や、友愛などの感情は存在しない。
ダンジョンの中に現れる魔物は、別世界に存在したとされる、ただの幻影に過ぎないからである。
幻影だからこそ、何度倒されても復活できるのだ。
騎士団長スティーリアも、この《雪山の騎士城》に相応しいボスとして呼び出されただけの、ただの幻影。
ニパスとスリートも、別世界の過去では共に戦う仲間であったが、今はダンジョンに発生する数多くの幻影の1体に過ぎず、そこに仲間意識はない。
そんな仲間意識がないはずのスティーリアが、ニパスとスリートの2体の騎士の死を感じ取れたのは何故か?
===== ===== =====
2体の 騎士が倒されました
スキル【騎士団長の誓い】が 発動しました
攻撃力 防御力が 上昇します
===== ===== =====
そう、それは彼女のスキルが発動したからである。
スキル【騎士団長の誓い】……それは騎士団長であるスティーリアだけが持つスキル。
仲間の騎士が倒されると、その効果で戦闘能力が上がるというスキルである。
このボスの間は、パーティーを2つに分断されてはいるが、《雪山の騎士城》のボスの間であることは変わらない。
故に、別のボスの広間で倒されたニパスとスリートの2人の死によって、【騎士団長の誓い】のスキルが発動したのである。
「(……まぁ、こんなスキルがなくても、わたくしの勝ちは確定ですけど)」
自分を強化するスキルを手に入れたというのに、スティーリアはさほど喜ばなかった。
なにせ、こういうスキルが発動して喜ぶのは、自分が
「----ねぇ、そう思いませんか? 雪ん子さん?」
スティーリアはそう声をかける。
自分が出した氷柱の中で、一生懸命に剣をやみくもに振るう、雪ん子に向かって。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パーティーが分断され、スティーリアがボスとしてこの部屋に現れた。
侵入者と対峙するために、だ。
雪ん子はそんなスティーリアに、初手から全力で斬りかかったのである。
「《ピピッ!》」
「(おっと!)」
その動きに、その速さに、スティーリアは一瞬驚いた。
速い事も確かに重要なのだが、それよりも思い切りの良さにびっくりしたのである。
「(驚くほど、思い切りが良い。わたくしの姿が見えると同時に、向かって来るなんて)」
普通、どんな生物も躊躇いがある。
全力で向かおうと心で決めていても、身体のどこかが「もしかしたら怪我するかも?」「罠があるのでは?」と言った風に、ブレーキがかかる。
しかし、雪ん子には
なにも考えてないとか、なににも経験してないのかではなく。
経験して
「(確かにこのスピードで、思い切り躊躇なく向かって行けば大抵の敵は圧倒できるでしょう)」
超スピードで相手の懐まで潜り込み、そのまま超スピードで相手を斬る。
身体能力強化に長けたオーラの力を、存分に活かした戦い方と言える。
「《行くヨ、【横薙ぎ払い斬り】っ!》」
そして、雪ん子は剣で薙ぎ払う。
オーラの力を使って、剣を握る筋肉に大量のエネルギーを与えて、斬撃を巨大化させる。
それはまさに、【斬る】という力を具現化させた壁のようであり、それは剣を離れてスティーリアの方に向かっていた。
「(大抵の敵は圧倒できる。
ビシッ、と彼女は自分の剣を振り抜く。
剣をきちんと最後まで振り切ることによって生まれた斬撃の軌跡は、雪ん子が生み出した斬撃の大きさに比べると、半分にも満たないほど小さな斬撃であった。
しかし、スティーリアが生み出した小さな斬撃は、雪ん子が生み出した巨大な斬撃を弾き飛ばした。
というか、斬撃そのものが"
「《ピピッ?! 斬撃が跳バサレタ?!》」
「(斬撃を跳ね飛ばしました。わたしの
アイシクル騎士団長スティーリアの職業、【魔剣士】。
スピリット系統の職業の1つである【魔剣士】には、オーラ系統のような力業は出来ない。
普通に戦えば、オーラ系統である雪ん子の斬撃の破壊力に、オーラを使えないスティーリアでは太刀打ちできない。
しかしながら、【魔剣士】は力こそないが、技術がある。
生み出した斬撃に特性を、相手の巨大な破壊力をも逸らせる弾力性を与えたのである。
伸び縮みするゴムのような特性を与えられたスティーリアの斬撃が、雪ん子の生み出した巨大な斬撃を弾き飛ばしたのである。
「(しっかし、全部は返しきれませんでしたね。流石はオーラ系統の馬鹿力、といった所でしょうか)」
よろよろと、よろけながらも、スティーリアは立っていた。
「(返せたのは3割、残りの威力はどこかに行っちゃいましたわ)」
地面に飛んだ物は抉り、空に飛んだ物は天井を穿ち、そして壁に飛んだ物は大きな穴を生み出していた。
「(でもって、何割かはあなたの方に飛んで行ったようですね。侵入者)」
「《ピィィ……!!》」
雪ん子は頭から流れる血を凍らせながら、スティーリアを睨みつけていた。
凍らせることでダメージを抑えているようだが、残念ながら出血状態は、体力が減り続けるという状態は続いていた。
「(あなたから逃げ続ければ、回復役がいないあなたは出血状態が続いて負けるでしょう。
しかしながら、そんな消極的な勝ちは、許してくれないみたいですね)」
「《【ぶっ飛び斬撃】!》」
雪ん子は、次の攻撃を始めていた。
先程は横に薙ぎ払う事で、その副作用として斬撃が飛んだ。
一方で、今放ったのは、初めから飛ばすために放たれた斬撃。
先程の【横薙ぎ払い斬り】の時の斬撃と違い、今度の斬撃はとにかく速く、かつ正確にスティーリアの方に飛んできていた。
「(正確性にこだわって飛ばしてきましたか、なるほどね。
確かにゴムのような弾力性だとちゃんと飛ばせない。それどころか、一点に集約させることで斬撃を打ち破ろうと言う訳ですか)」
「(ならば----!)」と、彼女はそのまま正確に飛んできた雪ん子の斬撃を、剣で
「(なら次は、弾力性ではなく、方向を変えましょうかね?)」
そのまま、スティーリアは斬撃を巻き取った剣を振りかぶった。
振りかぶると共に、雪ん子の斬撃はブーメランのように、くるくると回転しながら、雪ん子の元へ戻っていく。
雪ん子へと戻った斬撃は、そのまま雪ん子を吹き飛ばした。
「《ピピピッ?!》」
「(正確性にこだわった結果、力は先程の非ではありませんね。ブーメランのように、斬撃の向きを変えさせていただきましたよ?)」
スティーリアはそう言って、剣を雪ん子へと向ける。
「(オーラのような馬鹿力なんかで、このアイシクル騎士団長スティーリアのスピリット剣術を破れると思わないでください。
----さぁ、これからが本当の戦いの始まりと参りましょうか?)」
雪ん子とスティーリアの戦いは、ここからが本番なのである。
「《さっきカラ、なンデ喋らないノ?》」
一方で、先程から相手から会話が聞こえてこないスティーリアに対して、雪ん子は困惑するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます