第27話 進め、冒険者部!(1)
----幽鬼タケシ・ハザマが討伐された。
そのことが、市役所の方から伝えられたのは、俺がダンジョンの中で倒してから2週間後のことだった。
ここまで討伐確認が遅れたのは、やはり幽鬼が倒されたのがダンジョンの中。
そして、相手が倒されたら死体も残らない魔物の類だったからだろう。
定期的に続いていた幽鬼による襲撃がコロッとなくなった事、そしてMyTuberのマイマインさんが安全を確認したという動画を上げたことにより、市役所側は事件解決宣言を発表した。
"餅は餅屋"とは言うが、いくら冒険者として素晴らしい成績をあげているからといって、MyTuberの動画を公式の意見の1つとして発表することで、少しばかり批判はあったけど。
死者14名、うち一般人5名。負傷者38名。
冒険者が世界に浸透して初となる大規模事件は、世界に大きな混乱を巻き起こした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そんな幽鬼を陰で倒した男、つまりは
「(暇だ……)」
と言うのも、幽鬼事件のせいだ。
奴が一般人にも被害を出したせいで、「幽鬼が倒されたという発表があるまで、ダンジョンに入ってはいけない」という通達が出されたせいである。
俺としては、幽鬼が倒されたことも倒した当人だから知っているから、発表したかったんだけど。
それだと、俺の
「(早く、このスキルレベルⅡとなった【召喚 レベルアップ可能】を試したいんだけどね)」
俺は何度も見て擦り切れそうになってしまっているメモに、再び目を通す。
ダンジョンに入れなくなる前、つまりは幽鬼を倒したあの時に見といたスキルの説明画面を、メモしたものである。
===== ===== =====
【召喚 レベルアップ可能】(スキルレベルⅡ)……【召喚士】が召喚獣を召喚する際に使うスキルに作用し、召喚獣をさらなる高みへ連れていくだろう
効果;召喚獣1体を対象にし、レベルアップ可能状態へ変更します。それ以降、その召喚獣は送還しても、効果を引き継ぎます。
追加効果(レベルⅡ);通常では召喚出来ない、聖霊型召喚獣をレベルアップ可能状態として召喚します。ただし、聖霊型召喚獣の特徴から、スキルを1つ消失します
【聖霊型召喚獣】 特殊召喚型召喚獣
通常の召喚では召喚出来ない、スキルに基づいて作られる英霊の召喚獣。今までの召喚獣が種族指定なのに対し、このスキルでは特定の個体を選択するため、戦闘能力が今までの召喚獣よりも強化されてる召喚獣が召喚されます
スキルを1つ捧げる事で、そのスキルに関連する召喚獣を1体、特殊召喚できるようになります。なお、一度捧げたスキルは還って来ません
===== ===== =====
聖霊型召喚獣……スキル1つを犠牲にする代わりに召喚できる、英霊なる強力な召喚獣。
どれだけ強いかは今の所分からないが、通常では召喚できない、さらにはスキル1つをなくしてでの召喚……。
それなりに強いのは確かだろう。
スキル1つを失うのは痛いが、俺にはなくしても、捧げても良いと思っているスキルが1つある。
----【女傑】。
ツリーアルラウネの仙丹を飲むことで発現する、男である俺にはまったく使えないスキルだ。
だがしかし、捧げると考えれば、適したスキルと言えよう。
「(市役所も幽鬼の討伐を正式に発表したし、今日の放課後にでも向かおうとしようじゃないか)」
そういう形で、授業をなんとなく聞きながら、放課後を楽しみにしつつ、お昼を迎えた。
俺の高校は、学食が美味いというのが評判らしい。
まぁ、きつねうどんとか、生姜焼き定食とかは、値段もお手頃で良いお味だと分かるのだが……その分、競争率も高い。
授業を終えて向かうと、既に学食は生徒でいっぱい。
注文を聞くカウンターの方も10人ばかりが列を為しており、とてもじゃないが、すぐにどうぞという感じではいけなさそうだ。
「(仕方ない、今日はパンにするか)」
ちなみにだが、俺の高校は、購買のパンはあまり美味しくないというのも評判だ。
吐いてしまうほどマズいとかではなく、普通の美味しさなんだが、学食と比べると一味、二味ばかり劣っているのは確かだ。
そんなのを生徒皆が知っているから、俺の高校では購買の方はあまり混まないのである。
「今日は放課後は久しぶりのダンジョンでテンションを上げたいんだけど、購買のパンじゃなぁ……」
かと言って、食堂に並ぶのも面倒だし……。
よしっ、ここは1つ奮発して、購買で一番高いデラックスカレーパンを----
「ねぇ、良かったらこれとかどうかしら?」
どうしようかと食堂の入り口前でうんうん唸っていると、俺の前にすーっとパンが1つ差し出される。
それは俺が今、買おうと思っていたデラックスカレーパンであった。
「デラックスカレーパン!?」
「良いね、これ。流石は購買パンでも一番の大玉、620円もする事あるのですけれども」
すーっと、パンを差し出してくれたのは、可愛らしいリボンを付けた少女であった。
ふんわりと、肩の辺りまで伸ばした髪。
最上級生であることを表す赤いスカーフに、学園指定の黒色とは違う真っ白なセーラー服。
全体的にスラッとした、スリムな身体をした少女。
「やぁ、私の名前は
「赤坂美南……?」
「えぇ、こういうモノです」
と、彼女は1枚のメモを渡してきた。
===== ===== =====
【赤坂 美南】
冒険者ランク;D
クラス;赤魔導士
レベル;Ⅱ
命題;制御が困難になるが、魔法の威力が大幅に上がる
===== ===== =====
「【赤魔導士】……?」
「えぇ、この高校で、"冒険者部"という物の部長をやらせてもらってるのですけれども」
……冒険者部?
そんな部活、あったかな?
「(部活紹介の時に、そんな部活があったら覚えてると思うんだけど)」
「今日の放課後、時間あります?」
記憶を蘇らせて、なんとか思い出そうとしていると、彼女はそう俺を誘ったのであった。
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