第15話 友人に誘われ、クエストを考える(1)

 今月の収入が、ヤバい。

 ヤバいとはいい意味ではない、ダメな方の意味だ。


 俺の今月の冒険者としての収入が、先程確定した。

 およそ2万円とのことだった。


 俺はその事を知り、市役所の上の冒険者待合所なるカフェもどきっぽい場所で、頭を抱えていた。


 平日の昼間は学校に通ってるし、そもそも羽目を外して遊びたいとの事もあったので、ダンジョンに潜った時間はおおよそ20時間程度だろうか。

 時給で換算すると、おおよそ1000円くらい。

 どこかのコンビニで働くのとどっこいどっこいだ、しかもあんな死ぬかもしれない目に合って、だ。


「(いや、ツリーアルラウネは良い稼ぎになったけどさー)」


 Fランクダンジョン、《魔獣の狩場山》。

 このダンジョンの名前は、人間がつけたものではない。

 俺達にジョブだとか、レベルとかをくれた神様が、「ここは《魔獣の狩場山》と言うダンジョンですよー」とシステムを通して教えてくれていたものだ。

 ダンジョンの名前というのは、そのようにして付けられている。


 《魔獣の狩場山》のボスは、後ろからの攻撃でも対処できる【梟熊アウルベアー】。

 ボスが熊だから、このダンジョンは、"魔獣が狩場とする山"----だから、《魔獣の狩場山》という名前なんじゃないかって言われたくらいである。


 しかしながら、本当は【大樹妖花ツリーアルラウネ】という、植物型の魔物。

 つまりは、"魔獣が狩場とする山"ではなく、"魔獣を餌として狩場にする生物がすむ山"という意味だったのだ。


 あんまり違わないかって?

 Cランクのダンジョンに、《上級魔獣の狩場山》があるとしても?

 そしてそこのボスの間に【狂暴なる梟熊バーサーク・アウルベアー】という獣型の魔物が居て、そいつを倒したのに、誰もドロップをゲットしていなくても?


 俺の情報は、《上級魔獣の狩場山》のドロップ発生のヒントとして、けっこう高めに買い取ってもらえた。

 【狂暴なる梟熊バーサーク・アウルベアー】を殺さずに瀕死に追い込めば、もしかすると【大樹妖花ツリーアルラウネ】の上位種へと変貌を遂げ、そいつを倒すことで初めて、ドロップが出てくるんじゃないかって。

 そのダンジョンはこっちと違って、けっこう稼ぎ場らしいので、この情報はかなり高く、証拠となるツリーアルラウネの魔石と共に、買い取ってもらえた。


 その高い報酬のほとんどを、俺が貯金を切り崩しながら得てきた情報料と、効果がなくなってしまいただの棒きれとなってしまった《獣狩りの剣》のレンタル代+弁償代で、消えてしまった。

 あの後、《獣狩りの剣》を市役所の人が鑑定したところ、重要な獣型魔物の特攻スキルが消えていたらしい。

 恐らくは、雪ん子に【剣技】が宿ったのと引き換えに、《獣狩りの剣》の力が消えてしまったのだろう。


「そして手に入れた仙丹も、まさかの譲渡不可能アイテムとは」


 雪ん子が選んだ仙丹、【ツリーアルラウネの仙丹】。

 これは俺だけしか持つことが出来ず、俺だけしか飲めないという、他人に譲渡が不可能なアイテムだったらしい。

 つまり、俺が飲んだら、【女傑】という、女性しか使えない力が手に入るだけ……。


 まぁ、飲んだ後のスキルの状態なら交換できるらしいのだが、その方法も分からないし。

 そもそも、交換相手も居ないし。


 ……失敗したな。

 これだったら、【アウルベアー・ナックル】を選んで、売り払えば、もっと行けただろうに。


 まぁ、後でなにかの役に立つかもだし、気にせず、取っておこう。

 RPGでいうところの、ステータス上昇系の種系アイテムは最後に使おう、という感じの。




 問題は他にもある。


 ダンジョンから帰る最中、雪ん子はけっこう沢山の【転がす草タンブルウィード】や、襲い掛かってくる魔獣を、軽く伸して倒してきた。

 しかし、その最中に、



 ===== ===== =====

 雪ん子は 魔物を 倒しました

 経験値を 取得できません

 ===== ===== =====



 などという文言が出てきたのだ。

 多分、あまりにも弱すぎて、経験値として得られないってことだと思う。

 その証拠に、レベルⅡの魔物を倒した時は、ほんのちょっぴり経験値を得られたから。


 Fランクダンジョンでは、もうこれ以上レベルアップできないし、となると稼ぎもこれ以上は上がらない。

 一度、大金を得られるかもという事情を知ってしまった以上、これで満足できない。


 Fランクダンジョンの上は、Eランク……!

 そこに入るには、市役所から許可を、Eランクに入っても良いよという許可が要る。

 普通なら、上級冒険者についていけば済む話だが、俺は"魔力量が上昇するが、人間とパーティーを組むことが出来ない"という命題のせいで、審査が厳しいからな……。


 さて、雪ん子という、俺だけの特別な召喚獣というカードを切るべきか。

 

「うーん……出来れば、このまま隠しておきたいし……」


 どうすれば良いか迷っていると、


「おっ! 居た居たっ! やっぱここに居たか、渉!」


 実に懐かしい声が聞こえてきた。


「……海渡、か」


 声の主は、"攻撃が2回攻撃になるが、大剣しか使えない"という当たりの命題を引き、ただいまレベルⅠの【剣士】として、絶賛大活躍中の少年だった。

 高級そうな腕時計、高そうな宝石のはまったネックレス、そして分厚そうな財布……どれを見ても、最近稼いでますよ感を出す彼。


 そう、俺と一緒に冒険者登録をして、良い思いをしている、網走海渡であった。

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