第9話 奏

その年の大雷おおなりの日

御殿ごてん中央には

3つみつの姫達が円を描くように

座していた


1姫いちひめの右手には扇

2姫にひめの右手には鈴

3姫さんひめの右手にはさかずき

外は暗がり厚い雲が土地の全てを見下ろす


3つみつの姫達は舞う

扇は空気を切り

鈴は天に響き

さかずき縦横じゅうおうにまわる


かつてこのような舞があったであろうか

いな

あるはずもない

3つみつの姫達はと腹の底から息を吸い

次の瞬間


「「「参る!!!」」」


足裏で床を打ち鳴らした

扇、鈴、さかずきが重なる


暗雲から一筋の雷が落ちる

3つみつの姫達はその雷に掴まり

空へと昇って行った


空の上には角が幾本も生えた黒鬼が座していた

3つみつの姫達は迷いなく

その鬼の前に座した


鬼はひと睨みし

「して、何とする?」

3つみつの姫達に問うた


1姫いちひめは右腕の岩を出した

「人の時は書蒐しょしゅうの約を交わす」


2姫にひめは右腕のすすきを出した

「季は巡り人も巡りて共に豊かなり」


3姫さんひめは右腕の水を出した

「万物満ち しずく落ちて生まる」


鬼は最も大きな角を折り

にぎりこぶしで砕いた

粉々になった全てが

3つみつの姫達に降り注いだのであった

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