MeTuberしていただけなのに⑤




『はい、ということでね! 今日も最後までみんな見てくれてありがとう! 明日の夜もまた配信をやるから、是非見にきてください!』


―――送られてきたのは本当に配信の最後の場面か。

―――何か問題でもあったっけ?


『あー、そうだね。 またリュカともコラボしたいね。 というより実は、既にリュカとの次のコラボの企画を考えていたり・・・!?』


リスナーのコメントを読みながら楽しそうに喋っている昨日の竜希。 画面上にコメントを表示しているため配信画面と同時に見ることができるのだ。


『そちらのコラボも楽しみにしていただけると嬉しいです! それでは、今日もお疲れ様でしたー!』


普段通りの最後の締めだった。 特に問題ないように思える。 ただ一つ気になるとすればリュカとのコラボを匂わせたことだ。

コラボとは基本的に配信者が同じ放送や企画をすることであり、楽しい上にメリットもあるのだが、視聴者の中には稀にコラボを嫌がる人がいるのを知っていた。


―――まぁ、そんなことを気にしていたら何もできないっていうことで気にする配信者はほとんどいないけど。


配信の最後は分かっていて、いつも通り終わるところまで見ても他に問題は見当たらなかった。


―――普通に終わった・・・。

―――何も問題はないじゃないか。


そう思い動画を閉じようとしたのだが、違和感に気付く。 動画の再生ファイルがまだかなりの量残していたのだ。


―――・・・あれ?

―――まだ動画は続いている・・・?


尺はまだ半分以上あった。 これは竜希の予想していなかったことだ。


―――・・・凄く嫌な予感がするんだけど。


そのまま再生を続けてみる。 そしてその嫌な予感は的中した。 配信を終えひと息つくとゲーム画面は終了し暗くなったのだが、着信音が聞こえてきたのだ。

つまり放送は続いていて、声だけが垂れ流し状態になっていた。


『あ、夕香里? 配信見てくれてた?』


―――ッ・・・!?


『マジで? 嬉しーッ! ・・・いや、俺が毎日頑張れているのは夕香里のおかげだって。 平日は動画投稿で休日は生配信。 夕香里はそれを毎日欠かさず見てくれているから、本当に感謝してる』


―――嘘だろ・・・。


配信の切り忘れ。 それにリスナーたちも気付いて反応していた。


“何これ? 茶番?”

“ガチなヤツじゃない?”


そして更に会話はエスカレートしていく。


『あぁ、明日のデート? 大丈夫。 約束通り、朝の9時に横浜駅で。 だから大丈夫だって。 もうこのまますぐに寝るからさ』


その言葉で今朝からの違和感とようやく繋がった。


―――だから横浜駅であんなに俺を認知する人が・・・ッ!


『明日は夕香里が前に選んでくれた、水色の爽やかなコーディネートで行くからよろしくー! 夕香里も早く寝ろよ? あぁ、おやすみ』


コメント欄もリスナーたちの間で祭りのようになっていた。 放送事故のため炎上し、配信が終わった後なのに視聴数が爆増していたのだ。


“うぉ、ヤベぇ! 同接3万とか初めて見た!!”

“切り忘れていますよーーーーーーー!!!!!”

“明日9時に横浜駅で水色のコーディネートした奴を探せば、この配信者を特定できるぞ!!! 更に女付き!!!”


普段はドラキのことを知る良ユーザーが視聴者の大半を占めている。 だがこの時は面白半分や荒らし目的のユーザーが大量に流れ込んできていた。 前日の今日ということで確認しなかった竜希も悪い。

視聴数を見てみれば明らかな異常事態に気付けたはずだったのに。 たっぷり15分程炎上し、そして突然動画は終わった。


「・・・」


呆気に取られているとリュカが言う。


『・・・配信を切り忘れたな?』

「・・・どうしよう」

『どうして彼女さんとの電話が終わった後に気が付かなかった?』

「早く寝て明日に備えようと思って風呂へ行っちまった。 スリープ状態が続くと自動で切れるように設定しているから、そのままパソコンの確認もせずにシャットダウンしちまったんだよ・・・」


思えば配信ソフトを昨日変えたのがよくなかった。 収入も多くなり少しでもいい画質いい音質や遅延のない放送、そのために高価なソフトを買い試運転していたことを忘れていたのだ。

電話越しに溜め息が聞こえてくる。 慌てて昨日の配信のアーカイブを削除した。 それをリュカも確認する。


『今更削除しても、もう出回っているから遅いけどな』

「そうだよな・・・」


もう遅いことも分かっていた。 色々なことが重なったために起きた事故であるが、やはり一番の要因は自身の不注意だ。


『ツウィッター見てみろよ。 今凄いから』


そう言われ恐れながらも見ることにした。 通知が普段よりもはるかに多く送られてきていて、通知表示がカンストしていた。


“ドラキくんを横浜で見つけちゃった!”

“配信で言っていた通り、マジで彼女持ちなんだけどー。 何か複雑ー”

“結構普通の大学生だった。 真面目そうでいい人”

“ついにドラキくん身バレしちゃったねw あんなに頑なにプライベートを守秘していたのに”


―――何だよ・・・。

―――それに、これ・・・。


ツウィートは文字だけでなく竜希が写った写真も投稿されていた。 それは明らかに盗撮されたものだった。


―――俺だけの写真ならまだ許せる。

―――でも流石にこれは・・・。


竜希の写真だけでなく夕香里の顔までも写ってしまっていたのだ。



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