第15話:疑念の影


「この街に俺がゴブリンを呼んだって言いたいの?」



「だってそれしか考えられないじゃないか! 君はあの本の"ミミック"だろ! それに君がこの街に来てから、ゴブリンの襲撃こんなことが起きたんだぞ?」



「はぁ…」



ハコミは呆れたようにため息を吐く。

クライブはそんなハコミを怒りをたたえた目で睨みつける。



「…俺があの本に載っていたミミックで、君のご両親の死に関わっていて、それでこの街に厄災ゴブリンを呼び込んだって? 本当にそんなことを考えてるのか? 信じてくれないだろうけど、全部俺は関係ないよ」



「嘘だろ! それにうちに転がってたあのゴブリンの死体、あれ、君が殺したんだろ!」



「ゴブリンを殺したのは認めるけどさ。あんなん、正当防衛だし。というか、もし、俺が厄災の原因としてさ、それを街に持ち込んだのはクライブ。君だぞ」



「…っ」



 クライブはそこで言葉に詰まる。

ハコミをこの街に連れてきたのはクライブ本人であり、一番の原因はクライブであることは明白であった。




「それに、だ。もし俺がこの街に厄災を運んできたなさ。こんなところにいないでしょ? 何日間か一緒に居て、俺がそんな"男"だと思った?」



「…小さい女の子に見える」



 ハコミの問いに少し間を置いて紡いだ答え、それを聞いてハコミは『論点はそこじゃないだろ』と思わず声にだす。



「…いや、論点はそこじゃないんだけど。まあ、いいか。で、クライブさ。この災厄が全て俺のせいだと思ってるんだろ? 俺が死ねば、はいおしまい。いつも通りの日常が帰ってくるって。まあ、確かに俺の世界の神話や伝承には街に入り込んだ悪党の話はいくらでもあるさ。例えば街の子供たちを連れ去った"ハーメルンの笛吹き男"とかね」



「っ、自白か!?」



 クライブは突きつけた短剣を再度ハコミの首へと強く突きつける。その拍子にハコミの首が薄く切れてじんわりと血が滲んだ。



「まあ、最後まで話は聞きなよ。こういった話には共通点があってね、必ずそういった事件の犯人ははっきりしてるんだよ。実は別の人間が犯人でしたーって言うのはないんだよ、騙りの神様が犯人って言うのはあるけどさ。さて、なんでだと思う?」



「いや、それは犯人が明白だからで」



「違うよ。証拠もないのに『こいつが犯人』って決めつけるからさ。それが正義って思い込んでるからね。犯人にされた方は反論も出来ずに"正義"によって殺されるか、あるいは追放か。まあ、碌でもない末路を辿るよ。 …っと」



 ハコミは自身に突きつけられた短剣に優しく息を吹きかける。途端に短剣の刃は紅くなり、短剣を握っていたクライブは突然の熱さに短剣を投げ捨てる。その瞬間にハコミはクライブを正面から抱きつくように倒すと、腹部の辺りへと跨る。



「まあ、いくら口で言っても信じてくれないだろうし、"行動"で示すしかないよな?」



「は、離せっ!」



 次に何をされるのか。

クライブはハコミをどかそうと体を必死になって動かそうとする。だが、少し力を入れただけでハコミはクライブのお腹から立ち上がる。



「えっ、あれ?」



 困惑するクライブをよそにハコミは再度、窓辺へといく。そして窓を叩くと、大きな声で叫ぶ。



「その生贄役、私が行きます!」



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