4日目

犬が死んだ。

共にダックスフンドを追いかけた、

散歩中の私のしょうも無い出来事に

文句や抵抗一つなく付き合ってくれた犬だ。

名前はジョンと言った。

至って...本当にシンプルだった。

9歳、9月12日の9歳...亡くなった。


ジョンは私が4歳の時、

誕生日プレゼントとして家に迎え入れた。

私は生き物を「プレゼント」として

迎え入れるのは少し抵抗があったが、

ジョンは同じく並んでケースに入っている

ペットショップの犬よりふた周りほど

大きく成長していて、

売れ残ってしまったようだ。

しかも、殺処分されるかもしれないという。

まぁ、それならばと家族の一員になった。

家に初めて来た日、2012年5月の20日。

私の4歳の誕生日だ...。


ジョンの誕生日は1月18日。

我が家で誰よりも早く誕生日を迎える。

そこまで盛大に祝ってあげることは

出来なかったが、

少し高めのおやつをあげるだけでも

ジョンは大喜びしてくれた。

今思うと、もっと祝ってあげれば良かった。


ジョンは最初、室内犬だった。

子犬だし外は可哀想だと言って。

しかしソファを噛んでボロボロにするわ

うんこしたままのトイレシートの上で

寝るわで身体が汚れ正直言って散々だった。

毎日洗っている用じゃキリがないということで

室外犬になった。

古民家に住んでいたので馬小屋があり、

屋根もあるし壁も2面はあるから

雨もあまり入ってこないということで

馬小屋にワイヤーで繋いでいた。


ジョン、脱走。

成人の大人でも大人でもちぎるのは難しい

ワイヤーをぶっちぎって脱走。

ジョンはお婆ちゃん家にいた。

散歩途中にお婆ちゃん家に寄ると、

犬用たまごボーロをくれる事を

ジョンは覚えていたのだろう。


太いワイヤーに新調して再び繋いでいたが、

また脱走。

ワイヤーじゃ駄目だと鎖に変更。

今度は首輪のスナップを壊して脱走...と、

力の強い犬だ。

昨日まではスナップ2つにびた

鎖、赤くて太い革首輪で繋がれていた。


鎖で繋がれていたもんだから

トレーニングみたいになって、

筋肉量のすごい犬が完成してしまった。


ジョンは三度の飯より散歩が好き...

と言った性格だった。

ジョンは小さい頃からずーっと、

散歩をするとその小さい体から

どんなエネルギーが出てるのかという程、

大人の父やママ、ばぁちゃんをも

グイグイと先導して行っていた。

草むらが大好きで、見つければすぐに

突進して行った。

犬の成長はとても早いようで、

大きくなっても小さな子どものように、

毎日散歩に行っているのに

毎回はしゃいで、毎回嬉しそうに

短い尻尾を振って行こう行こうと...。

散歩の時間、夕方になると窓の外から

くつろいだり宿題したりしている

私達の方をじっ...と見て、

水を飲んで、伸びをして、

準備運動にくさりを引きりながら少し歩き回って、

「準備できたよ!」と言わんばかりに

またじっ...と見る。

気付かなかったら時々「ワフッ」と吠える。

そんなジョンは昨日までそれを

ルーティーンとしてやっていた。


ジョンはジャーキーが大好きだった。


そんな...元気いっぱいな犬が

今朝、眠るように亡くなったのだ。


前々、心臓にフィラリアが居ると言って

薬を飲んでいた。

それで肝臓や腎臓に負担が

かかっていたのだろう。

それと前立腺がパンパンに腫れていたそう。

繋いでいるからと言って去勢をしなかったから

死んでしまったのかもしれないと、

母がとても後悔していた。


動物病院から亡くなったと連絡が入ったのは

私がまだベッドで夢を見ている朝だった。

母に起こされ、「行くよ」と言われ、

愛犬ジョンが最期を迎えた場所に向かった。


ジョンはまるで眠っているかのようだった。

「ジョン!」と声をかければパッと顔を上げ、

「なに?どうしたの?」というように

こちらを見てくれる、そんな気がした。

いつも撫でればクーンと言うジョン、

お腹を触れば暖かみを感じるジョン、

ジョンは私たちの期待に答えてはくれなかった。

もう帰ってくることはないのだ。

明日、散歩道でジョンと鳥を

追いかける事も出来ないのだ。

他の犬と追いかけっこもできないのだ。

もう...おやつは食べれないのだ。


ジョンは散歩用のバックを見せれば

寝ていても飛び起きて飛び跳ねる。

今のジョンはバックを見せても起きやしない。

ワンワンと威勢よく吠えることもしない。

ご飯を食べることも、芸をすることもできない。


それはジョンにとって、私達家族にとって

とても悲しく虚しいことなのだ。

「悲しい」の一言で片付けられるだろうか。


ジョンが亡くなる前は雨が降っていた。


いつも雨が降っていれば、ジョンは

きちんと小屋に入って雨風をしのぐ。

なのに昨日は雨の中で小屋に入ろうともせず、

濡れながらもじっとしていたそうだ。

それはジョンからの「助けて」という

サインだったのかもしれない。

私はその場に居れなかった。


父はジョンの亡骸なきがらを抱え、

「ジョン...なんで死んじゃったの...?

 早すぎるよ...ジョン...」

と号泣していた。

いつも私を笑かしてくる父からは

想像できないような姿だった。


まぶたが開いた。決して生き返ったわけではない。

ソファに降ろした時にまぶたがずれたのだ。


まるで、私達家族を優しく見ているような目で。

その瞳は、もう瞬きする事はない。


昨日まで、一昨日まで走り回っていたのに。


首輪が付いていたジョンの首は、

固くなっていた。

ずっと縛り付けられていたと言うと

残酷な描写になるかもしれない。


死後5時間以上が経っている。

だんだん筋肉が硬直しているのを感じると、

もうジョンに会う事はできないんだという事を

実感する。


ジョンは病気と戦っていたのだ。

病院に最初に連れていった時も、

家族全員が元気になって帰ってくると、

また今度散歩に行けると、信じていたのに。


私達は大事な事に気付くことが出来なかった。


ごめんなさい、ジョン。

そしてありがとう、ジョン。


昨日まで目の前にあって、触って、

触れ合った命が、明日にはもう

戻ってこないかもしれないということを

地球上の全員に、全生物に実感して欲しい。

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