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Nora
01話.[常のことだった]
「
呼ばれたから来てみたら何故か書かれていた場所にいなかった。
一応ありとあらゆる場所を探したものの、親友が見つかることはなく。
早く帰らないと風が強くなるから諦めて帰ろうとしたときのこと、
「うわっ、いきなり現れるなよ……」
にょきっと目の前に現れて大きな声を出しそうになった……。
ただ、そこは男としてできないから頑張って抑えたが。
「お腹が冷えてトイレに行ってた」
「そうか、それよりもう帰ろうぜ」
「うん」
もうほとんど今年が終わるというところまできてしまっている。
一月になったら親友ともこれで六年関係が続いたということになる。
一緒にいられるようなにかを意識しているわけではないものの、彼女のことは気に入っているからこのまま関係を続けられればいいと考えることが多かった。
「
「俺はちょっと図書室に行ってたんだ」
小学生の頃によく借りていた漢字いっぱいのあの本が忘れられなくて行ってみたんだ。
ただ、残念がら高校にはそんなの置いていなかった。
なんであんなの小学校の図書室に置いてあったんだろうな。
みんな表紙に惹かれただけで読了した人間の方が少なそうなやつだから余計にそう思う。
「今日も宗二が作ってくれたご飯を食べたい」
「それはいいけど怒られないのか?」
もうこれで三日連続となる。
彼女も自分で作らなければ食べられない環境だから楽をしたいのかもしれないが……。
彼女の両親ともそれなりの関わりがあるから文句を言われることはない……か?
とにかく、彼女は頷いたから少し不安になりながらもこちらも頷き返す。
「それなら史の家に行くかな」
ご飯を作って帰ってくれば問題もないだろう。
ついでに両親の分まで作っておけば評価が悪くなることもないはずで。
そもそも任せておくとちゃんと作るのかどうかも怪しいからこの方がいいな。
できればたまには史とか誰かに作って欲しいところだけども。
「おい史、寝転がっていないでなにを使っていいのか教えてくれ」
「……もうコタツの住人だから」
「じゃあ適当に少しずつ使わせてもらうからな」
で、冷蔵庫を開けてみたら冗談抜きで卵ぐらいしかなかった。
俺の家のやつより大きい冷蔵庫なのにそれでいいのかと膝から崩れ落ちる。
……どうせならぱぱっと格好良く作ってやりたかったが不可能そうだったので、ここはもう卵料理にしておく。
味噌汁と卵焼きでもあれば十分白米は食べられるだろう。
「史、食べ終えてからでいいから買い物に行くぞ」
「宗二は食べないの?」
「そりゃまあ食べさせてもらうわけにはいかないだろ。あ、食べるのはゆっくりでいいからな」
洗い物も済ませてから大体十九時ぐらいに家を出た。
この強い風を浴びないためになるべく早く移動してきたのにこれでは意味がない。
でも、史のことが心配だから正直そんなことどうでもいいと片付けられた。
「お……っと、どうした?」
「手が冷たいから」
「そうか、それなら俺の速度に付き合ってもらおう」
それでも寒いのは確かだから急いでスーパーに向かって。
暖房が効いていて滅茶苦茶暖けえな、ずっといたいと揺れてしまいそうになったのを抑えて色々とカゴに突っ込んでいく
もちろん俺が勝手に決めるのではなく基本的に彼女が買いたい物を、だけどな。
「私も持つ」
「いいよ、それより早く帰ろう」
歩幅が小さいからもう背負って帰ることにした。
いやもう最近は本当にもう寒すぎる。
弱るとかなり症状が重くなる彼女を連れてきておいてなんだが、風邪を引かせないために急ぐしかない。
「ゴール」
「お疲れ様」
「さんきゅ、よし、俺はもう帰るわ」
あまり異性だけがいる家に居続けるのは不味いから今日はこれで終了だ。
明日だって学校で会えるんだからそう焦る必要はない。
「やだ、お風呂から出るまでいてほしい」
「すぐ出るか?」
「うん、三分で出るよ」
「ゆっくりでいいから温かい湯を味わってこい」
結局、こうして言われてしまうと受け入れてしまうのが俺の弱さだった。
もちろん彼女以外からの要求であれば断るがな。
そこはまあほぼ六年のそれで変わってくるわけで。
しっかし、洗面所前の廊下に座って待っているのもなんかそわそわするな。
「宗二ー」
「いるぞー」
「別に開けたりしないから中に入ってきてほしい」
いやそれ、開ける側に問題がありすぎるだろ。
真に受けて俺がここで入ってしまったらお終いだ。
流石にそれはできないとちゃんと断っておいた。
「ふぅ」
……外に比べるとここでも十分暖かいから眠たくなってくる。
で、寝てしまったのか出てきた彼女に起こされることになった。
「……ちゃんと暖かくして寝ろよ?」
「うん、いつもありがと」
「どういたしまして。それじゃあな」
なんとなく食欲よりも睡眠欲の欲求が大きかったから風呂に入って寝ることにした。
風邪を引かないようにしっかりと拭いて、寄り道もせずに部屋に戻って。
ベッドに転んだら割とすぐに眠気がやってきてくれたから逆らわずに任せたのだった。
「宗二、起きて」
目を開けて体を起こしたら無表情娘がそこにいた。
まあいつものことだから気にせずに制服に着替えていく。
それから朝ご飯作りを開始し、できたご飯をふたりで食べた。
「今更だけど髪が爆発してるぞ」
「宗二にやってもらえばいいと思ってなにもしなかった」
「じゃあ洗面所に行こう」
何気に彼女の物が結構置かれてあるこの家だった。
床に座らせて髪を梳いていく。
「今日の髪型はなにがいい?」
「ポニーテール」
「あいよ」
髪型は? なんて聞いておきながらなんだが、横で結うか後ろで結うかでしかない。
だからあまり聞く意味はなかった。
それでも一応日替わりみたいにしているみたいだから聞くことは忘れないようにするが。
「歯を磨いて行こう」
「うん」
櫛とかはともかくとして、歯ブラシやコップまで置かれているのはたまにいいのか? と疑問に感じるときがある。
彼氏彼女の関係ならともかく、俺達はそういうわけではないからだ。
長く一緒にいるけど幼馴染というわけでもないし……。
「今日の体育はバレーをやる」
「男子はサッカーだな」
できれば野球とかソフトボールとかの方がありがたい。
サッカーはいまいちルールがよく分かっていないし、経験者みたいに蹴りながら自由にできるわけではないから。
あと、大きいという理由で結構キーパーをやらされるから微妙なんだ。
だって失敗すれば全て俺のせいということになるわけで。
「あんまり得意じゃないから少し不安」
「協力的な態度でいれば大丈夫だよ、なにか文句を言ってくるやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやるから安心しろ」
「でも、相手は女の子だよ?」
「ぶ、ぶっ飛ばすのは無理でも言葉では勝てるからな」
「じゃあその機会がこなくなるように頑張るね」
い、いい子だな史は。
昔からずっとこんな感じだからずっと可愛げがあるということになる。
俺の方はうーんという感じだから少しだけ羨ましかった。
「着いたな、今日も一日頑張ろうぜ」
「うん」
よかった点は彼女と同じクラスだということだ。
友達と話しているところなんかも見ることができるから安心できる。
とはいえ、トラブルに巻き込まれていたりしなければそれでいい。
あんまり過保護すぎても気持ちが悪いし、求められてもいないから。
「どーん!」
「……いきなり物理攻撃を仕掛けてくるのはやめろ」
史の友達のくせに全く似ていないのが彼女、
「史のところに行かなくていいのか?」
「楽しそうに話しているところを邪魔できるわけないじゃない」
まあ確かにそれに比べたら俺はひとりだからこうして来やすいか。
何故なら友達の友達が周りにはいないから。
「あんたってなんかお爺さんみたいよね」
「騒がしくするよりいいだろ?」
「ま、私はそういう人間の方が好きだけどね」
おじ専門じゃないことを願っておこう。
とりあえずいつものように伊織と自販機があるところまでやって来た。
でも、ここで買わないのが俺らで。
「静かでいいわよねー」
「だな」
ベンチも設置されているから座っているだけで落ち着く。
離れるから多少面倒ではあるが、別に留まっていたい人間ではないから構わない。
「あ、そうだ、バレーのときに史のサポート頼むぞ」
「うん、まあチームとかが一緒になったらね」
俺の方は再度同じようなことにならないように願っておくしかない。
で、実際に体育の時間になったときのこと。
「またか……」
ひとりじゃ守りきれないだろと文句を言いたくなるなこれ。
ただ、攻める側になったところでなにができるわけではないから黙って立っておく。
一応経験者が結構いるみたいだから攻められまくるということもないだろう。
それにサボっているならともかくとして、頑張ろうとしていた人間を責める奴はいない。
「井手ー」
お、おいおい、サッカー部が多いんだから頑張ってくれよ。
固まっているわけにはいかないから少しだけ前に動いたらなんとかなった。
……正直、キャッチできるなんて向いてるんじゃね? とか自惚れてた。
とにかく味方にパスを出して関わらないようにする。
まあ、所詮は授業のそれだから緩いのはいいな。
で、なんとか守るを続けた結果、無事に終了時間がきてくれたと。
こうなれば気になることは史のあのつるつるおでこが赤くなっていないか、ということだ。
本人も言っていたように、残念ながら運動神経というやつがよくないから。
「宗二ー」
「おお、どこも怪我をしてないか?」
あと、こういうときはなんか兄になったような気持ちになる。
とはいえ、いつだってそうというわけではなく。
たまに物凄くお姉さんのように見えるときがあるからギャップもあっていいと感じるときもあるぐらいだった。
普段は無表情キャラのくせに強すぎる。
「うん、みんなが優しくしてくれたから特に問題もなかった」
「それならよかった、おでこも赤くなってないな」
「さすがにそこまで下手くそじゃないよ」
あ、体育の嫌な点は制服から着替えなければならない点と、終了したら制服に着替えなければならない点だ。
冬に限って言えば制服の方がいいが……。
「ぎゅー」
「わぷ」
伊織はこうして史を抱きしめることが好きだった。
ちなみにその際はこちらをちらちら見てきたりもする。
多分、自分しかできないからと優越感でも得ているんだろう。
「史は温かいわね」
「宗二もだよ?」
「って、宗二にはできないわよ」
そりゃそうだ、史じゃない人間からされたら驚く。
いや、最近は史にされても驚くかと冷静に考えた。
やっぱりもう高校生だからそういう接触は避けなければならない。
お互いに本命ができたときに足を引っ張るようなことがあってはならないんだ。
ま、残念ながら俺の場合は(笑)ということになってしまうが。
「あとね、気軽に触れさせるのはやめなさい」
「触れる側だよ?」
「触れるのもやめなさい」
そうだそうだ、気をつけなければならないぞ。
ちなみにあまりにも距離が近すぎて離れようとしたこともあったものの、そのときは最強のやだやだ攻撃を前に敗北したことになる。
伊織からだって「もうやめなさい」と言われてしまったぐらいだった。
「そんなに気になるなら伊織も触れればいいと思う」
「だからそうじゃなくて……」
「後悔したりしないよ? 後で文句を言ったりしないよ?」
「私はあんたのために言っているのよ?」
「それはありがたいことだよ、でも、宗二が嫌じゃない限りはずっとこのままでいたい」
こっちを見てきたから降参ポーズ。
嫌なわけがない、嫌だったらとっくの昔に離れている。
つか、俺も癖でよく持ち上げたりすることがあるから問題だった。
「ぷふっ、大きな音ね」
「お腹空いた……」
「まだあと一時間あるから頑張るしかないわね」
が、そこは天然史さんによって流れを変えてもらえたから助かった。
そこを突かれると確実に負けるから俺としては感謝しかない。
「史、ちょっと宗二を借りていくわ」
「うん、ちゃんと返してね」
「大丈夫よ」
俺は犬なのかもしれなかった。
廊下に出ると彼女はすぐに振り返って言う。
「……史にとって私は嫌な存在かしら」
と。
「そんなことないだろ」
なんで急にそんなに弱気になっているんだとツッコミたくなったが、必要のないことだから必要なことだけ言わせてもらった。
いつもは堂々とできているのに途端に弱気になってしまうのは隠しているだけなのか?
あと、それを俺に見せてしまってもいいのか? と聞きたくなる。
「伊織はそのままでいいんだよ、正しいことを言ってるんだから」
「でも、あの子にその気がないなら余計なお世話じゃない?」
「俺はそうやって言ってくれる存在がいてくれて嬉しいと思っているけどな」
不安になる子だから彼女みたいな存在は必要なんだ。
少し拗ねたような顔をしながら「過保護よね」と。
大切な人間ができるまでは、史から来てくれている内は同じスタンスでいさせてもらうつもりでいる。
「あんたもね、史に甘くしてばかりじゃ駄目なんだからね?」
「分かってる、それに史の方がしっかりしているからな」
「いや、親友だけどさすがにそれはあんたの方がしっかりしているわよ」
違う、そういうつもりはないだろうがよくも悪くも正直なだけなんだ。
言うことだってちゃんと聞いてくれるし、なんにも不満はな……いとは言えないものの、基本的にいい子だから問題ない。
「む、伊織は失礼」
「なにが失礼よ、裸で宗二の前に行ったりしたくせに」
リビングでのんびりしていたらその状態で来たからかなりびびった。
慌てて目を逸らしたところでそういう姿というのは残ってしまうわけで。
まあでも、
「タオル巻いてたし、着替えも取りに行かなければならなかったから」
これだからそう時間もかからない内に捨てきることができたが。
そういうところが正に不満だと感じるところだった。
いや、どちらかと言えば不安と言う方が正しいかもしれない。
……俺だって正直やばかったわけだし、他の野郎になんか見せたら襲われてしまうぞっ。
「じゃなくて、廊下でふたりで話していないで戻ってきてよ」
「もう戻るわよ、ねえ?」
「そうだな、結局は伊織が史を心配しているというだけの話だったしな」
仲が良さそうで結構だ。
それこそふたりは幼馴染らしいので、これからも関係が続くように願っている。
ちなみにそこに少しだけでも俺も含まれていたらいいな。
「授業始めるぞー」
席に着いてすぐに切り替える。
話すこともなにかを考えることも放課後などにできるからいまは授業だ。
板書もしっかりしておいて、後の自分に役立つ情報を残しておく。
とかなんとか考えつつも、授業中はたまに史や伊織の方を見るときがある。
片方は寝ていないか不安になるし、片方はよく落書きをしていることがあるから不安になる。
もっとも、どっちもテストの結果は俺より上なんだけども。
ただ、伊織は絵を描くのが上手だから何気に楽しみだったりもする。
頼まなくても勝手に見せてくれるからその時間は結構……。
って、これじゃなんにも集中できていないからふたりの情報を内から消した。
平均点以上を取るためにも普段から集中しておかなければならない。
小学生のときみたいに、最終日付近になって慌てるような思いを味わいたくないから。
「はぁ」
結局、毎時間こんな感じだった。
避けられない授業中に異性の背中を見続ける、とまではいかなくても見るのがキモい。
「ご飯食べよ」
「食べるか」
昼は移動して食べるのが常のことだった。
何気に伊織は女友達を優先して一緒に食べるからふたりだけのことが多い。
「「いただきます」」
こういう挨拶だけは忘れないようにしていた。
ま、言ったところでなにか損なことが起きるというわけでもないからな。
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