第3話 少年たちのように-3

 見晴らしのいい二階の宴会場でミユキらの十数人のグループに合流した涼子だったが、ぼんやりと外を眺めていた。薄暗くなってきた路上をイルミネーションが照らし、その中を大勢の見知らぬ人々が歩いている。信号が赤になって流れが変わって、そしてまた元の流れが戻ってきた。喧騒とはお構いなしにそんな風景をただ眺めていた。

 「どうしたのよ、リョーコ。おかしいわよ、アンタ。全然っ元気がないじゃない」ユキ

テンションの上がったユキが物静かに外を眺めている涼子に気づいて声を掛けた。

「そんなこと、ないんだけどね」涼子

「飲んでないんじゃないの?」ユキ

「ん、ちびちびね」涼子

「だめよ、飲まなきゃ」ユキ

ユキに促されてグラスを手に取り口にすると、ユキは手拍子を始め、涼子の名前をコールし始めた。それに気づいた周りの連中も、ユキのコールに合わせてリョーココールを始めた。注目が涼子に集まる中で涼子はグラスを口に付け、リョーココールがイッキコールに変わるのを聞きながらひと息に飲み干した。果実の甘いあと口とアルコールの香りが口に残った。拍手の中で、ユキは、

「こんどはアタシがいきまぁす」と手を上げて立ち上がり、ユキコールの中で一気飲みをした。カナがスマホで写真を撮るフラッシュが涼子の網膜を刺激して少し目が眩んだ。それを支えるように隣にいた男が涼子の肩に手を添えた。

「大丈夫か。中坊だろ?」

「まぁね」涼子

涼子は熱い吐息を漏らしながら答えた。

「いいのか。あんた、私学だろ。学校にばれたら、退学だぜ」

「大丈夫よ。適当にごまかすから」涼子

「でもさ、ミユキも中坊つれてくるなんてな」

「何か都合悪いの?」涼子

「まぁ、飲み屋だしさ、それといろいろとね」

「ふーん」涼子

涼子は火照ってきた頬を扇ぎながら、ますますテンションの上がってきた場を眺めていた。いつものようにカナは写真を撮りまくっている。涼子は冷静に見ていた。いつもなら、アタシもあの被写体になっている。そう思いながら、全景を見渡していた。今度は、あざみが立ち上がった。

「イッキ、いきまぁす」あざみ

ノ~ンデ、ノンデ、ノンデ~、ノ~ンデ、ノンデ、ノンデ、ノンデ~、

ハ~イテ、ハイテ、ハイテ~、ハ~イテ、ハイテ、ハイテ、ハイテ~、

ヨ~ッテ、ヨッテ、ヨッテ、ヨッテ、ヨ~ッテ、ヨッテ、ヨッテ、ヨッテ、

ハ~イテ、ハイテ、ハイテ~、ハ~イテ、ハイテ、ハイテ、ハイテ~、

プシュ~。

 イッキコールの中であざみも一気に飲み干した。場のテンションはどんどん上がっていく。しかし、涼子は目の前の食べ物をちまちまとつまみながら、酔いが鎮まるのに合わせて冷めていった。


 夜更けになって、解散になった。涼子はふらふらになったあざみを支えるように体を貸しながら、引き止めるユキに手を振って帰途に着いた。銀座街を抜けてバスターミナルに辿り着き、ぐるりと回り込んで目的地行きの停留所の前にやっと着いた。ゆっくりとあざみをベンチに座らせてバスを待った。酔い潰れかけている女子中学生を、バスを待っているサラリーマンやOLが胡散臭そうに見ている。涼子はわざとベンチにふんぞりかえり、足を組んで口笛を吹いた。暗闇に浮かび上がるバスターミナルの停留所の隅々まで、その音は響いていた。


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