第十九話 ヒューマン’s・リンク
春香と香澄の関係に決着を付けないままズルズルと時間を過ごし新しい月を迎えてしまったんだ。
今月に入ってからあまり二人に顔を会わしていないような気がする。
2004年10月10日、日曜日
バイトが休みだった。
春香に会う度、電話で話す度に〝貴斗に会ったの〟と聞かれていた。しかし、いまだそれは果たせていない。だから香澄にも春香にも逢えず時間を持て余していた今日、貴斗のヤツに会う決心をつけた。
春香の話しだと大分、貴斗も記憶を取り戻したって口にしていた。
貴斗に会ったら一番であの時の事を謝ろうと思っていたんだけど・・・。
* * *
扉の隣の壁に【藤原貴斗】と書かれたプラスチック板がスライドに収まっていた。
間違いないようだ。
一度だけ足は踏み入れているけど確認するように名札を見ていた。
病室の番号は先月まで春香がいた病室の三つ隣だった。
こんなにも近い場所に貴斗は居たのに今日まで一度も一人ではここ足を踏み込む勇気はなかった。
あの時の誕生日会だって、結局大事な事は言いそびれちまった。だから今日こそは・・・。
ノックしその病室に入ろうと思ったとき半開きだった扉の隙間から話し声が聞こえてきた。つい立ち聞きをしてしまう俺がそこにいた。
「藤原君、身体のご加減はどうでしょうか?」
「見ての通りだ、驚くほどの回復振り自分が人であるかって疑ってしまう」
部屋の中から俺の知っている声が聞こえてくる。
一人は大人口調の調川先生、もう一人は・・・、懐かしい淡々とした言葉の貴斗の口調だった。
二人の会話は続いていた。そして俺の盗み聞きも続いていた。
「確かに藤原君の言う通り、貴方の回復は異常なほど急速です。それでⅩ線、MRI、CTスキャンや他の測定器で調べた先週の結果を貴方にご報告いたします。心苦しい結果ですが貴方の間脳・視床下部に異常が見られました。」
「それの所為で貴方の新陳代謝が不安定になり治癒力が速くなったり遅くなったりしているのでしょうと私は判断いたしました。このまま新陳代謝の緩急が続けば貴方の命を確実に蝕まれていく。残念ながら今の私達の医療技術ではそれを治す術はないです。申し訳、御座いません」
「愁先生が謝ることじゃない。無理なものにすがる程、俺は馬鹿じゃない望みがあれば別だが・・・。愁先生、これだけは答えて欲しい。俺は後どのくらい生きられるんだ?」
「それは判りません。今、私がこうして話している最中に逝ってしまわれるかも知れません。でも運がよければ普通に寿命をまっとう出来るかもしれません。しかし・・・、の移植・・・こともありますので・・・考慮・・・、絶望的かも知れまさえんね」
「愁先生、隠さず言ってくれて有難う御座います」
〈絶望的だってっ!!!・・・、貴斗、なんでそんなに冷静な口調で答えられるんだ?〉
ドア越しに会話を聞いていた俺は心の中でそう呟いていた。
しかし、それと同時にそんな会話を聞いてしまった俺は動揺し足元がふらついてしまい目の前の扉に『ドコッン』と頭を打ってしまった。
その音に気付かれてしまい病室の中からこちらの方へ二人の声が投げかけられてくる。
「どなたでしょうか?」
「誰だ!」
ドアはスライド式だったから俺のそれに開く事はなかった。そんな状態の貴斗に会うのが怖くて何も答えず、何も言えずこの場所からまた逃げていた。
貴斗のヤツを春香や香澄と同じくらい失いたくなかった。
なぜそう思うのか?今の混乱している俺には何を考えたって答えなんかみつかりゃしないよ。
混乱している為なのかバイクを運転して自宅に向かっている途中事故りそうになった。
だけど俺も相手も傷一つなく不幸中の幸いだった。
* * *
自宅へ帰ると香澄が来ていた。玄関で彼女が迎え入れてくれた時、何とか平静な面で彼女に顔向けできていた。
香澄や藤宮に俺が盗み聞きした事なんて絶対言えない。
言えば必ず二人は悲しみ悲痛の表情を浮かべるだろう。だから言えるはずないんだ。
だからこの事俺からけして口にはしない。
「宏之、どうしたの、何か心配事?」
「ハハハッ、両親がいつ帰って来るか心配してるだけだよ」
ヤッパ俺って嘘が下手なようだ顔に出ていたみたいだった。誤魔化す様にそんな事を言って返していた。
「ねぇ、それより宏之、アンタ春香にはもう言ったの?」
「まだ・・・、まだいってない。だけど、今月の終わりには必ず言うそれまで待ってくれ」
香澄は逢えば何時もその事ばかり口にする。
俺の返すことは何時もいい加減で先送りするばかりだった。
「分かった、今しばらく我慢する。でも・・・、でも、必ずアンタの口から言ってね」
「あぁ・・・・」
その後、場の雰囲気がまずくなる事はなかった。
香澄としばらく世間の極一般の話をしてから、彼女と久しぶりに一緒に夕食をとった。
それから、ちょうど食べ終わった頃にここに二人の来訪客が現れる。
『ピィ~ンポォ~~~ン♭』
香澄は洗い物をしている所だったから彼女が玄関に向かう事はなかった。それはよかった事なのかもしれない。
「どちらさんですか?」
「息子よ、父さんも美奈も両手が塞がっているんだ、扉を開けてくれ!」
「おやじかぁーーー?」
そういって玄関の扉を開けた。その瞬間、お袋が持っていた荷物を下ろし、
「宏之、元気でしたか?」と言いながら俺に抱き付いて来た。
この歳でお袋にそんな事をされるのは恥ずかしい物があるぜ。
「ああ、俺は元気だ、母さんこそ元気そうで良かった。ついでに、親父も」
「私はついでかぁ?連れないなぁ~~~息子よ」
お袋に抱き付かれたままの状態で親父にそう言ってやった。
玄関の慌ただしさに気付いた香澄が現れ俺達に言葉を掛けてくる。
「宏之、誰が来たの?」
「俺の両親だ」
「お嬢さん、初めましてこいつの父親をやっている司です」
「はじめまして、母の美奈と申します」
「宏之、この可愛らしいお嬢さんは誰だ?」
親父のその問いに春香と香澄を未だ天秤状態にしていた俺の口から出た事と言えば、
「徒の女ダチだよ」だった。
「なんだ、てっきりお前のこれかと思ったんだが」
親父は小指を立て、ここにいる全員にそれを見せた。
俺の言葉を聞いた香澄は表情を変化させる事はなかったが怒った口調で口を動かす。
「アタシ、アンタの両親との団欒邪魔したくないから帰る」
そう言い残すと俺やそこにいた親父とお袋を押し退け出て行ってしまった。
「宏之、あの方、怒っているような感じでしたよ。追いかけなくてよろしいの」
「オマエ、女性の扱い方下手だな、父さん、悲しいよ」
「だから、別に彼女でも恋人でもなんでもないって言ってるだろ」
そんな両親の言いように腹が立ち、ついそう言ってしまったんだ。
香澄と逢えない日々が多かった。
彼女との距離が開いていた。しかし、俺の香澄を思う気持ちは依然として変わっていなかった。ナノに・・・、俺はあんな事を言っちまった。
・・・後悔している。でも今更、追いかける事も出来なかった。・・・、最低だぜ、俺は。
玄関口に立たせっぱなしだった両親を中にいれ旅の疲れを癒させた。
寛いでいる二人と今までの事、嫌な事以外を話していた。
「そうですか、宏之大分苦労していたようですね。ごめんなさいね」
「別に母さんが謝ることじゃネェよ。悪いのは全部親父!」
「何だ、酷い事を言うなぁ息子よ。私だって心配していたんだぞ」
「嘘、言うなよ!」
その言葉と一緒に苦笑の色を親父に見せていた。
「ところで、宏之、藤原貴斗さんって方とは上手くやっているの?」
お袋がそんな事を聞いてきたので俺と貴斗の関係を教えてやった。
それと今の貴斗の状態もあの調川先生と貴斗の会話以外を話してやった。
するとお袋は驚きと同時に気を失ってしまった。
「アッ、母さん」
「美奈!」
親父は倒れてしまったお袋を抱きかかえ、昔二人が使っていた部屋のベッドの場所へ移動させていた。
「おぉ~~~、父さんビックリ、この部屋ちゃんと掃除してくれていたんだな」
「ハハハッ、まあね」
この部屋を何時も掃除してくれていたのは春香や香澄だった。
彼女たち二人はいつ俺の両親が帰ってきてもこの部屋を気兼ねなく遣えるように掃除してくれていた。
一〇分くらい俺と親父はお袋の傍に居た。やがて彼女も目を覚ます。
そんなお袋に俺も親父も心配した面を見せていたんだ。
「ハァ~~~、私あのことで気絶してしまったようですね。司さん、宏之、心配掛けさせてごめんなさいね」
「でもどうして、母さん気絶なんかしたんだ?」
「それは・・・」
お袋はなぜか言葉を詰めていた。そんな彼女を見た親父が代弁してくる。
「フゥー、息子よ、お前忘れちまっているようだな」
「何をだよ?」
「藤原貴斗君、彼は美奈のお姉さん、私の義姉である美鈴さんの子供。宏之、オマエの従兄だ!」
「馬鹿言うなよ。そんなの聞かされてもいないし、憶えてもいないぞ」
「貴斗君は間違いなくお前と血を分けた従兄弟だぞ。まぁ、あの事もあるし、それと一緒に忘れていてもしかたがないか」
「何だよ、そのあの事って?」
「それはお前の」と親父が言い掛けた時、お袋がそれを邪魔するように口を挟んできた。
「司さん、それ以上言わないで。宏之、私達がいない間、大分苦労しているようです。あの事を思い出させてしまうのはこの子には辛いでしょうから」
「って美奈が言っているからこれ以上は教えてやらん。許せよ息子!」
「そうか・・・、分かった」
それから両親の予定を聞かされた。
出張先シンガポールでの仕事を終えたらしくしばらくは一緒に暮らしてくれる事を教えてくれた。しかし、この歳になっても両親と一緒に暮らしてくれるのを嬉しいと思うのは俺が甘ったれているだけだろうか?・・・、そんなことないよな、アハハハハッ。
2004年10月16日、土曜日
普段の嫌な事を忘れたくてバイトに出ている時は仕事に集中していた。仕事に従事している俺はそんな嫌な事を忘れられる。そして、今日も懸命に仕事で体を動かしていた。
昼の客波が多くなり始めた時、一人の男が俺の前に現れ説教を垂れてきた。
仕事場に迷惑を掛けたくなかったから材料搬入口の裏手でそいつと春香、香澄それと俺の今の状況について話していた。
「どう言う事だ?宏之、答えろ!」
「どういう事もこうもない!。彼女の目を見ると、春香の瞳を見るとどうしても迷っちまうんだ!」
〈すまん慎治、迷ってなんかない完全に彼女に惹かれちまっている〉
「隼瀬を愛しているだって?」
〈俺のココロを今まで支えてくれた香澄を今更切るなんて・・・〉
「凉崎に見詰められると彼女に心を奪われるって?甘ったれた事、言ってんじゃネェよ!テメエの所為でどれだけ隼瀬が泣きみてっと思ってんだ?」
〈そんなの慎治、お前に言われなくたって判っている〉
「テメエがやってる事はなっ、世間一般になんて言うか知ってっか?」
「・・・・・・、さあな?」
「二股って言うんだ!男として最低だ!今は様子見だ、これ以上何も言わないだがな、これ以上隼瀬、彼女を泣かしたら俺も容赦しないから覚悟して置け!」
慎治はそれを強く吐き捨てるように言葉にすると一瞥をして、俺の言い返しも聞かないまま去って行った。
いや違うな、言い返せなかっただけなんだ。
慎治は香澄の事になると偉い剣幕になる。
それが何故だか計り知れなかった。
奴に『二股って言うんだ!』って言われて初めて気付いた。
俺が取っている行動は他の奴から見たらそう映るんだろうな。
慎治に『男として最低だ!』って言われても仕方がないのかもしれない。
「あぁ~~~、憂鬱になって来た・・・、仕事すっか」
独り言を呟き店内へと戻って仕事を再開する事にした。
* * *
慎治の言われた事を胸の片隅に無理やり押し込め仕事に集中した。
今日の与えられた役割をこなし、帰宅の用意をして外に出た瞬間、再び慎治に説教された事を思い出しブルーモードへと陥った。
そんな事を考えながら歩道に止めて置いたバイクにまたがると誰かが俺を呼んだ。だから、そちらを振り向く。
「よぉ~、宏之じゃネェか?ゲンき?・・・、なんだぁ~~~テエメぇのそのひでぇ面はよぉ」
「永蔵のおっさん!」
周りは店々のネオンや街灯で明るかったからおっさんの顔がはっきりと認識できた。
「オメェさんわしに会うときは何時もそんな時化た面しやがって今度はどうしたんだ?手助けできるかわかんねぇが取り敢えず聞いてやるから言ってみな」
永蔵のおっさんにそう言われると不思議と話したい気分になっちまう。
それはおっさんの職業の所為なのだろうな。
春香と香澄と俺の関係、俺の親友でもあり従兄らしい貴斗の事、そして今日、言われた慎治の事を永蔵のおっさんに話していたんだ。
「ワアーッハッハッハァッ、宏之。人権侵害、扶養義務放棄、傷害罪、不正行為、及び結婚詐欺罪で現行犯逮捕だ!」
高らかな笑い声を上げ、からかうような口調で永蔵刑事は言ってきた。
「冗談、勘弁してくれよぉ~~~」
「ワッハッハッ、しょっぴこうとおもってんのは冗談じゃぁないが冗談にしておいてやるよ。オメェさん苦労してんなぁ、波乱万丈だなぁ、宏之よ。感情任せに男と女の縺れ合いって事で警察に訴え出てくる連中も少なくネェ。それくらいオメェさんが考えている事は有り触れてんだ」
「だからよっ、そんな辛気臭い顔しネェでもう少し前向きに考えたらどうだ。わしもこんなこぇ面してっけど、これでも昔は結構もてて苦労してたんだぜぇ」
おっさんは照れと苦笑めいた表情でそう口にしてきた。
「あぁそうだな、南さんを見ればおっさんの奥さんが綺麗だって事わかるぜ」
「うれしぃ~~~、こと言ってくれるねぇ、宏之」
「有難う永蔵のおっさん。何とか前向きに善処してみるさ」
「おう、頑張れ、だがよっおれんとこにその縺れ合いで駆け込むのは勘弁してくれよな、ワッハハハハハハッ」
「アァーーーッハハハハハハッ」
俺もおっさんの大笑いに釣られてつい笑っていた。
それから永蔵のおっさんに春香のあの事故の原因の一つであったドラッグ絡みの犯人は全て捕まえたと教えてくれた。
それの事実を聞いて結構気分が晴れたような気がした。
2002年10月17日、日曜日
今日のバイトは午後6時半で上がりの予定だった。
そんなバイトの終わりの頃だった。
「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか・・・?」
マニュアル通り挨拶を来客に向けて口にしていた。しかしその客は俺の知っている女の子だった。
顔を見るのは何日ぶりぐらいだろうか・・・。
春香、彼女はなぜか、瞼を閉じていた。そして、数秒後にそれを開き俺に言葉を掛けてくる。
「宏之君、遊びに来ちゃった」
「ハッ、春香?こんな時間に外、出歩いて大丈夫なのか?」
可愛らしい口調で春香はそう話しかけてきた。
そんなに遅い時間じゃなかったけど彼女の事を気遣ってそんな言葉を返しながらテーブルへと案内していた。
席に座ると春香はさっきの答えを返すような事を言ってくる。
「もう大分なれたの、後一月もすれば、宏之君と一緒に色んな所に行けるようになるよ」
「そっか、よかったな、春香。・・・、どうした春香?」
何故だか彼女の表情に不安の色を感じた。
だから心配するように声を掛けていた。
「ウゥン、何でもないの。気にしないで宏之君」
さっきまでの表情を一変させて、春香は言葉を返してくれた。
「ソッカ、そろそろ俺今日のバイト終わりだから家まで送っていく」
「有難う」
「それじゃ、俺は仕事、戻るから終わるまでなんか飲んでまってろよ」
それだけ春香に言い残すとカウンターのへ戻って行った。
夕食時で店内は忙しい中、夏美が俺に声を掛けてきた。
「ネェ、ネェ、あの人って凉崎先輩よね?」
「夏美ちゃん、今仕事中だぞ!私語やめっ!」
「いいじゃない、少しくらい!」
「ああ、そうだよ!それがどうしたんだ?」
「聖陵にいた時、何度かお目にかかったけどその時に比べると随分変わったかなぁ~~~って思って」
「どう言う風に?」
「高校の時は少女っぽいイメージがあったけど今は何だかすっごく綺麗なお姉さんって感じかな」
「知美さんだって綺麗じゃないか」
「それは知美お姉ちゃん本人の前で言ってあげてね、きっと喜ぶわよ」
「はいはい」
「あぁ~~~、私も後二、三年くらいたったらあんな風になれるのかなぁ」
「・・・・・・」
「ひっどいなぁ柏木さん、何でそこで黙るのぉ~~~」
「ハハッ、悪いな、俺ってなんでか?年下に興味ないし」
「柏木さんのばかぁ、ふんだぁ」
夏美は怒った表情のままキッチンへと行ってしまった。
無駄話をしてしまった。
〈仕事終わりまでその分一生懸命やるぞ!〉と心にそう言って仕事を再開した。
* * *
〝あっ〟と言う間にバイト時間も終わり春香と一緒に帰っている所だった。
帰りがけレジをしていた夏美が春香の事をジロジロと見ていた。
確かに彼女が言うように春香は高校の時と比べると格段に綺麗になっている。
確かに今の春香は綺麗だけど夏美にそんな事を言われるまで余り気にも留めていなかった。
バイト先にはバイクで通勤していたけど、それを店裏に置かせてもらっていた。そして、春香と歩いて帰る事にした。
どうしてかは今の春香の力では俺にしがみついてバイクの裏に乗る事は無理だと思ったからだ。
帰っている途中でも春香の足取りはふらついていた。そんな彼女を見た時、バイクに乗せなくて正解だと思ったんだ。
今、彼女に肩を貸しながら三戸駅に向かって歩いていた。
「なぁ~、春香、勉強、頑張っているか?」とおもむろに聞いていた。
「頑張ってるけど一人じゃ心細い」
「そっか」
そう答え、少しだけ考えてからまた俺は言葉を続ける。
「若し、若しもだ、俺も一緒になって頑張るって言ったらどうする」
「エッ!?宏之君が一緒だったらどんな大学だって頑張って見せるよ。一緒に行ってくれるの?」
「わからない、まだ自分の気持ちが判らないんだ。それが整理できるまでハッキリ言えない。こんな優柔不断な俺でゴメンな春香」
両親が帰ってきた時、一番初めに釘を刺されたのは俺の将来についてだった。
親父って普段アッケラカンとしていて馬鹿そう見えるんだけど・・・、そう言う事になると打って変わってとても厳しくなる。
親父のシンガポールへ海外出張が決まった時、俺を日本に残してくれたのは環境の変化で俺が駄目になっちまう事を心配してそうしてくれたから、そうしてくれたんだ。
親父は俺の精神的な弱さみたいな物を知っていたんだろう。
さすが腐っても俺の親父だと思う。
そんな親父に将来の事を良く考えろときつく言われた。だけど今の俺には何が向いている何ってわかりゃしない。だから春香と一緒に勉強すれば何かが見つかるんじゃないのかって思ったから彼女にはあんな風に答えていた。
色々話していると春香の自宅前に到着していたようだ。
「春香、家に着いたぞ」
「宏之君、久しぶりに家に上がって行ってよぉ」
「そうしたいけど、今のオレのままじゃ春香の両親にも翠ちゃんにも顔合わせ出来ないから、遠慮しておくよ」
「駄目なのぉ?」
「駄目だ、俺にもそれなりにプライドってモンがあるんだ」
〈春香ごめんプライドだ、何って嘘だ。今の俺に秋人さんや葵さんに面と向かって顔を会わせる勇気何ってないだ〉
「無理言って、ごめんなさい」
「春香が謝る事じゃないだろ」
「うん、でも今度誘ったときはオーケーしてくれないと泣いちゃうんだからね」
「ハハッ、それは困る」
春香が可愛らしく駄々をこねる様なしぐさをするからつい困惑しちまってそんな言葉を返していた。だけど、彼女の次の言葉でそんな態度もどっかへ行ってしまう。
「ネェ、宏之君、貴斗君には会ってくれたの?」
「うん、あぁ、あったよ。なんだか、あいつ相変わらずで安心した」
顔を会わせてもいないのにそんな嘘を言っていた。だけど、貴斗のヤツが今どんな状態なのかは知っていた。
俺のそんな言葉に春香は何かを悟ったような表情をしていたが周りが暗くてそれを実際に知る事はなかった。
春香の体を心配して直ぐにでも彼女を家に入れたかったけどわがままを言われ少しだけ立ち話をしてから別れていた。
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