第十五話 壊れ行くフレンズ・サークル
2004年8月15日、日曜日
今日は久しぶりに香澄の奴が泊まっていくって言っていた。
明日は一緒に春香の所へ行こうと言葉にもしていたんだ。
今、風呂上りのビールを飲みながら香澄と話している所だった。
風呂上りで逆上せていたからビール一本目にしてほろ酔い気分になっている。
「ごめぇんなぁ~~~、かすみぃ」
「何よいきなり?」
「おれってゆぅ~じゅ~ふだんだからぁ・・・」
「アンタの優柔不断は今に始まった事じゃないでしょ?それがどうしたの」
「おれってぇ~~~こんなだからぁ~~~、オマエにぃ心配かけさせることもぉおおいだろぉ。だあぁけどぉ、もうすこしぃ~~~だけまってくれよぉ。ちゃぁんとぉけっちゃくつけるからぁ」
呂律の回らない口調でそんなことを言っていたんだ。
香澄に俺の気持ちが伝わったか分からなかった。
でも彼女は俺に笑顔をくれたような気が・・・・・・・・・、する。
その後は酒の勢いに任せて香澄を抱いていた。そして気が付けば彼女と一緒のベッドの中で朝を向かえていた。
2004年8月16日、月曜日
朝、起きればどうしてか香澄の機嫌が悪かったんだ。
昨日、俺が酒の勢いに任せて彼女を犯ってしまった所為なんか、他に原因があるんかしらないけど?
彼女に謝ってその理由を聞いたが彼女は顔色を変えてもくれないし、教えてもくれなかった。
そんな気不味い雰囲気のまま慎治が俺達の所に現れ、奴の運転する車で春香のいる病院へと移動してもらった。
車の中では誰一人言葉を出すことはなかった。
そのまま目的地に到着してしまう。
その場所に着くと慎治が俺と香澄を促すように車から降りろと言ってきた。
「ホラッ、何突っ立ってんだ、移動しろよ」
「アァ」
「そうね、ここにいても意味ないわよね」
慎治の言葉通りここにいても仕方ない。
香澄の手を引くように春香のいる病室へと向かっていた。
春香のいる病室前に立つと慎治も香澄も先に入る気配がなかったんだ。だから俺が先陣を切って・・・、俺が一番先に入るのが当たり前なのかもしれない。
「春香、見舞いに来てやったぜ」
「ホラッ、かっ・・・・・・・、隼瀬も慎治も一緒だ」
香澄が隣にいた所為で一瞬彼女を名前で呼ぼうとしてしまった。
若し俺が〝隼瀬〟ではなく〝香澄〟なんて言えば春香は何かを変に思うだろう。
春香って一見トロそうに見えるけど実際にトロイとこがある・・・、ってじゃなくて鋭い時があるんだ。
変に勘ぐられるのも不味いと思ったから何とか言い留め、口からだす言葉を代えていた。
それからは俺に続くように香澄と慎治が春香に挨拶をかけていく。
「春香、身体の方どう?気分は大丈夫?」
「ヨッ、元気してたか?」
「ミンナ、来てくれて有難う」
「皆さん、こんにちはですぅ」
春香の妹がこちらに向かって挨拶をすると同時に極わずかな時間、香澄を睨みつけていた。
翠にとって香澄は俺以上に許せない存在だったのは知っていたんだけど・・・、それを目のあたりにするとこれほど息苦しいもんなのか?そんな感じだったんだ。
時間をきっちりと決めていた筈なのに貴斗と藤宮はまだ来ていなかった。
慎治からは二人は必ず来るって言っていたのにどうしてなんだろうか?
暫く二人がいない俺達だけで高校一、二年の時の思い出話をしていた。
* * *
「詩織ちゃんと貴斗君、遅いね、まだ来ないのかなぁ」
話題が尽きかけてきた頃に貴斗と藤宮が来ないのを心配して、春香がそんな言葉を口にしてきた。
すると彼女がその言葉を出したと同じタイミングくらいに藤宮が挨拶をしながらここへ足を踏み入れた。
「こんにちは、春香ちゃん、遅れてごめんなさいね」
藤宮はそう言って挨拶をしてきたのに貴斗は黙ったままだった。
「ウフフッ、二人ともどうしたの?ヒソヒソ何ってして?」
「ハハッ、なんでもない。遅れてゴメン、凉崎さん」
貴斗のヤツ、この場所にいるのがそんなに嫌なのか、表情が硬かったんだ。
藤宮、後から来たのにこの場を濁すことなんってなかった。
うまく話を作ってくる。
貴斗は相槌だけだった。
俺達の会話はヤツが上手く混ざれるような内容ではなかった。
なぜならヤツのいなかった時の話が多かったからだ。
* * *
「ワァーーーッハッハッハッハ、アァーーーッハッハッハ、アッハハッ!?」
どれくらいだろう話が盛り上がっている所で何の前触れもなく突然に貴斗は大声で笑い始めた。
その異常さに皆がそれぞれ声をヤツに向ける。
「どうしたのよ、急に大声を出して笑ったりして?」
「気でも狂ったのか?」
〈どうしちまったんだ、急に?何でそんな変な笑いをするんだ〉
これは俺の率直なヤツの見かただった。
しかも奴の眼に人が持つ普通の色を感じ取れなかった。
凄まじく荒んでいた。それは俺と貴斗の付き合いが浅かった高校時代の頃のように・・・、でもどうしてヤツはそんな目をするんだっ!
「何だ急に!」
「貴斗さん何か悪い物でも食べたんですか?」
「ハハッ、これが笑わずに居られるか!」
貴斗のその言葉からこの場にあるものが全て崩れ去ろうとしていた。
なぜヤツがそうするのか俺には理解出来なかった。
出来るはずもなかった。俺は貴斗でもないし貴斗は俺でもない。
親友って簡単に言葉に出来るけどすべてを分かり合っているわけじゃない。
だからヤツが何でアンなことを言うのか理解してやれなかったんだ。
「貴斗!アンタいったい何をたくらんでるの?」
「フッ!企む?何も企んでないさ。・・・・・・・・・、こんなぁ、茶番、付き合ってられるか!」
〈茶番?お前には俺達のやっている事がそんな風に映るのか?〉
貴斗の言っている意味に気付くのに大分時間を必要とした。
それに気付いた時、貴斗は・・・。
他の連中は何かに気付いたように貴斗のその行動を止めようとする。
俺は訳も分からず沈黙しているだけだった。
「貴斗君!」
藤宮はヤツの行動を制止しようと思ったのだろうヤツの名を叫んでいた。
「黙れッ!」
「ヒィッ」
「お前なぁー!」
貴斗、藤宮、それと慎治の遣り取りをただ俺は黙ってみている事しか出来なかった。
どうして俺は声を出せないんだ?
早く何とかしないと・・・。しかし、口は動かせなかった。だから、目で貴斗を威嚇していた、可能な限り鋭く。
「何だ、お前らその目は?お前ら、本当にこれでいいのか?こんな状態の彼女を見て何とも思わないのか?嘘、偽りの中に何があるってんだ!こんなこと、ずっと続けて春香さんは本当に嬉しいと思うのか?俺は、潰れそうだ。答えろよぉ!!!」
〈何でそこまで言える?誰の為に?何の為に?お前はそんな事を言うんだ。オマエの行動理念が理解できネェよっ!〉
心の中では叫ぶ事が出来たんだけど、それを口に出す事は出来なかった。・・・、それは俺の精神の弱さの所為。
「タッ、貴斗君、何を言っているの、私には分からないよ!」
春香はヤツの荒様に脅え、震えながら奴にそう言葉を返していた。
「春香、お前、今まで俺を『貴斗君』なんて呼んだ例えあるか?お前も、気付けよ、春香ッ!」
「クッ!ひっ、宏之君、貴斗君が睨むよぉ~!」
春香が脅えるような瞳で俺の腕を掴んでそう言ってきた。
俺の心の中で春香を泣かした貴斗に対して沸々と怒りの感情が込上げる。なぜだ?
貴斗は何かをしようとしていた。
それに気付いた香澄と慎治が驚いたような声を上げていた。そして、誰もヤツのその行動を止める事が出来ず春香は再び苦しみだし苦痛で顔を歪めていた。
それを見た香澄が直ぐに翠に指示を出し調川先生をここへ呼びつけていた。それから俺たちはここから追い出されたんだ。
* * *
今、俺達は病室の外にいる。春香があんな事になって俺は怒り爆発寸前だった。どうしてだ?
「貴斗っ!!」
「フンッ」
目の前のソイツは俺に一瞬なぜか嬉しそうな表情を浮かべてから、俺を嘲笑するように鼻で笑っていた。何も言わず勝手に歩き出していた。
他の連中はヤツを追うようにこの場を移動する。俺もやり場のない怒りを押さえ貴斗を追った。
最後に俺が病院の外に到着するとそれを見計らうように貴斗のヤツは言葉を発していた。
「病院内では静かに。ここなら、大声を出しても平気だろ」
コイツはいつも何かを考えて行動しているのだろうが凡人の俺の理解の範疇を超えていた。
「お前ら俺に言いたいことあるんだろ」
春香にあんな事をしたのにも拘らず至って平然とし態度で俺達にそんな事を言ってくる。
「貴斗、説明しろよ。何であんなことしたんだ!」
「説明?慎治、それなら病室内で言ったはずだが?それとも、もう一度言って欲しいのか?」
「ああいう事するにもタイミングってのがあるでしょ!」
「タイミング?それはイツだ?それは、明日か、明後日か?1年後?10年後?何時なんだよいったい」
こいつの言い分は判る。いつか、春香にそれを伝えなければならないんだろうな。
本当は俺がやらなければ駄目なんだろうけど。だけど、俺にはそんなこと一生無理だろう。そんな勇気を持って居ない。しかし、あんなやり方は酷すぎるよ。
「隼瀬、そんなこと言う割に俺がとった行動一度も止め様としなかったな。あれか?もしかしたら彼女また意識不明になり、宏之が自分の所に戻ってくれるとでも思ったのか?」
貴斗のヤツは既に俺と香澄の関係が終わっているって思っているのか?
きつい言葉で彼女を罵っている。
春香と同じぐらい怒りがまた込上げてきた。
「ナッ。・・・、アンタが記憶喪失じゃなかったらこんな風にはならなかった!」
香澄は一瞬だけ言葉を詰めたんだけど、そんな事を言い返していた。
彼女は確かに貴斗と幼馴染みだ。
だがヤツのその記憶と一体何の関係が有るのか理解に苦しむ。
「ホォ~自分でやった事を俺の所為にするのか?俺の記憶に何があるって言うんだぁ!」
香澄が自分の幼馴染みだって知らない貴斗にとってその言葉は当然なのかもしれない。
「貴斗!いい加減にしてください、香澄の気持ち考えたことあるのですか?」
香澄のもう一人の幼馴染み、藤宮は香澄の事をどれだけ信頼しているのかしらないがそんな事を藤宮の彼氏である貴斗のヤツに言っていた。
それを切り返すように強い口調で貴斗は口を動かしていた。
「考える余地など無い!」
きっぱりと俺達全員にそう言い放ってきたんだ。
その後、ここにいる者全てに冷たい視線を投げかけてきてもいた。
俺の中で色々な感情が渦巻く。それは・・・、
春香を再び苦しめあんな状態にしてしまったことに、
香澄をあんなにも罵ることに、
ヤツにとって大切なはずの藤宮にまで突き放すあの態度に、
そんな色々な感情が渦巻く中、貴斗を睨んでいた。
「何だ、その目は俺と殺り合おうっていうのか?手加減しないぞ」
貴斗はそう口にすると身構えて慎治と俺を見据えていた。
「テっメェ~、いい加減にしろーーーっ!!」
怒りが爆発していた俺は貴斗の挑発に簡単に乗りヤツに向かって殴りかかっていた。
慎治も同じようにそうしてきたが俺は怒りに我を忘れ周りの状況が見えなくなっていた。
「二人ともやめてぇ~~~」
と誰かが叫ぶ。
しかし、今の俺の耳には届いていなかった。そして、貴斗のヤツを滅多打ちにしていたんだ。
普段だったら俺の攻撃なんか簡単にかわせるはずのソイツは一度もその場を動こうとはしなかった。ただ、俺のサンドバッグとなっていただけだった。
避ける素振りも、防御する素振りも見せなかったんだ。
唯、俺に打たれるだけだったんだ。
まるでそれを望んでいたかのように貴斗のヤツは総ての打撃をその一身に受けていた。
「宏之ッ!いい加減にしなさい」
香澄が言葉言を掛けてきていた。だけど、そんな彼女の言葉すらも届いていなかった。
多分、春香が俺を止め様としても止まらなかっただろう。
それくらい俺は今、激怒していた。だが、そんな行動も慎治によって阻まれ、我に返って貴斗を見下ろした時の俺の感情は・・・・、酷い罪悪感に包まれた。
その場にいるのが怖くなった俺は貴斗の事を助け起こす事もせずその場から逃げ去ってしまった。
俺は何度目かの取り返しの付かないことをしてしまった事に気付くのに対して時間は掛からなかった。
自分が最低野郎だと理解するのに時間は掛からなかった。
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