第 三 章 過ぎる時の中で
第十一話 閉ざされたままの想い
2004年6月21日、月曜日
ふぅ、今日はバイトもなく、香澄が出張のために何もやる事がないから、家でゴロゴロしているところだった。
彼女がまめに掃除をしてくれているから、フローリングは何時も綺麗だ。
そんなフローリングの上で仰向けになりながら、今日一日、何をしようか、考えて見たが・・・、何も思いつかないぜ。
「くをぉーーーーっ!何にも思いツカネェェエエっ!はぁ、独りがこんなに詰まんないとは・・・、かすみぃ、早く帰ってこぉ~~~いっ!」
誰もいない部屋で独り、大声を出してそんな馬鹿な事を叫んでいた。
はあぁ、腹減った。首を傾け、時計がかかっている壁を向くと午後一時を過ぎていた。
はぁ、そう言えば、朝飯もまだ食ってなかったっけ?どうしよう。
香澄がここへ来るようになってからインスタント類はなくなってしまっていた。だから、買いおきなんてあるはずがない。
せっかくの休日に自分の職場に食べに行くのも気がひける、近場にそれなりに美味しい食べ物屋もあるけど、一人で行くのは気がひけるぜ・・・。
「どうすっかなぁ・・・?」
はっ、そう言えば、慎治や貴斗が俺のバイト先に遊びに来る事はあっても、俺がやつ等のバイト先に足を運んだ事が一回もなかったぜ。
たまには行ってみようかな?居るかどうかわからねぇけど、いなかったら居なかったで、コンビに弁当でも買って帰ってこりゃいいか。
俺んちからだとバイト先とほとんど距離かわんねぇし。バイクでかっ飛ばして行けば直ぐだぜ。
そう思った俺は速攻で着替えて、駐車場にとめてあるバイクにまたがると火をいれ、暖気中にヘルメットなどを装着して、それを発進させた。
グリップ・クラッチとフット・ギアを巧みに操り、物の数秒で一般道の最高速以上の速度を叩きだす。
周りに注意しながら、走行。特にサツにつかまらないように。
そうそう、この前、おやっさん、永蔵のおっさんにスピード違反で捕まっちまってよぉ。
こっぴどく怒られちまったぜ。
まあ、おやっさんは交通課じゃなかったから、説教だけで見逃してくれたけど、本当にそっちに捕まったら説教どころじゃすまないからスピードを出しつつも警察車両には注意を払っていた・・・、・・・、・・・。
えっ、注意を払うのはそこだけじゃないだろう、って?分かってるよ、ちゃんと事故を起こさないように周りにも注意して運転しているぜ、口先だけだけど・・・。
さて、やつ等のバイト先は俺が通っていた高校の上り坂の上り始める前の大きな較差点の角にあり、その店がある方の斜線だと直ぐに入れて駐車場も広く使い勝手がよい。
そのコンビニの隣にはセルフのガソリン・スタンドもあるから、一石二鳥に使えるときもあってマジで便利だぜ・・・。
うん、おおちょうどいい。俺のマシンも腹を空かせているようだから、こいつにも食わせてやっか。
そう思って、俺はスタンドの方へとバイクを走らせた。
スタンドの所まで来ると、バイクのエンジンを落として、現金を投入してから給油を始める。
車と違って、こいつに食わせる量はそれほど多くないから、そんなに待つ事がなかった。
満タンだと思われる付近で、握っていたグリップが強制解除され、ガソリンが出なくなってしまう。
俺は少しずつ、グリップを握り締め、本当に満タンになるまで、注ぎ込む・・・。っと、その前に先払いしていた現金が尽きたようだった。
だから、諦めて、給油口から、配給ノズルを取り出し、近くに合った雑巾でノズル口と今までそれを突っ込んでいた周りを拭いてから、蓋を閉めた。
ノズルを元の位置に戻して、レシートを受け取らないで、エンジンも掛けないで押して、コンビニの方へと向かって行く。
すると、めったに見れなさそうなって言うか、今まで、見た事のない、衝撃的な光景を目のあたりにしたんだぜ。
なんと、あの貴斗が陽気に鼻歌を歌いながら、あいつの愛車を洗車してやがったんだ。
ありゃ、間違いなくアイツだぜ、車のナンバーも間違いない。もしかして、今日、貴斗の奴バイト休みなのか?
あいつの住むマンションから、ここは車でこなくていいほど近いはずだし・・・。
そんなアイツに、直ぐに近づき声を掛けてやると?
「うん?・・・」
俺に気付いたのか、めちゃ気まずそうな表情をサングラス越しに見せていた。
「ヒッ、宏之。なんで、おまえが・・・。聞いていたのか?」
「ああ、ばっちりな。お前が楽しげに鼻歌なんて、クククッ、笑えねえぇぜ」
「笑ってんじゃないか、宏之。くっ・・・、何故、それよりも、お前がここへ?今日、バイト休みなのか」
「ああ、そうだぜ。そう言う、貴斗お前は?」
俺がそう聞くと、こいつは一時間前に上がって、それから、今日は晴天が続くのを知っていたようだから直ぐに洗車を始めたそうだった。
「何だ、そんなに車磨きやがって、これから藤宮さんとデートにしゃれ込もうって言うのか?」
「違う、白だから、汚れが目立つんだ。それに愛車だからな。労わってやらねば」
「ふぅ~~~ん、そうかい。そうかい。その愛車とやらと、藤宮さん、どっちが大事なんだ?洗車している暇があるんなら、彼女と一緒にいてやればいいのに」
「泡まみれにするぞ、宏之・・・。詩織、今、何かの試験で忙しいんだ。邪魔したくないから、こんなことして暇潰しているだけだ・・・」
本音か、そうじゃないのか、分からないような口調でそんな言葉を返していた。
まあ、暇なら、ちょうどいい。久しぶりに、こいつど遊ぶかな。
お互いに中々時間が合わないから、たまにはいいだろう?会話しながらでも奴の車を拭いている動きは止まらなかった。器用な奴だぜ。
「じゃあ、なに、貴斗、お前、今暇なわけ?んだったらよっ、久しぶりに一緒にどっか遊びに行こうぜ」
「宏之、暇なのか?・・・、・・・、・・・、その隼瀬は?」
貴斗が香澄の名前を口にするときのその口調はどうしてだか、ぎこちなかった。だけど、そんな事、俺が気付くはずがないから、普通に受け答えをする。
出張しているって事を教えてやるとなんだか複雑な表情をして、手の動きを止める。
「そうか・・・。磨きもこんなものだろう・・・。それより、宏之?お前、飯を食ってないだろう?俺もまだなんだが」
「おっ、それは奇遇だぜっていうかなんでわかんだよ?」
「そんな事どうでもいいだろう。俺の後について来い」
「おうよっ!ついていってやるけど、俺のバイト先は駄目だかんな」
そう貴斗にいってやると、奴は鼻で笑って、車に乗り込んで、二、三回、エンジンをふかすと車を走らせる。それについて行く、俺。
運転し始めたから、約三十分。
近くに聖稜大学のキャンパスが見える。すると、奴はその場所に入って行ってしまった。
部外者の俺が勝手に入るのはまずいんじゃないかと一瞬だけ思ったけど、そのまま、奴の後を追っていた。
キャンパスの中、奴を追いながら走り続けて五、六分。
大学内のどこだか分からないけど、広めの駐車場に到着していた。そこで、奴の車が止まる。バイクを貴斗の脇に止め、出てきたこいつに
「大丈夫なのか?」って聞くと、いつもの奴の受け答え、
「問題ない」って言うのが返ってきた。
まあ、こいつがそういうなら問題ないんだろう。
奴の隣を歩き、会話を始めようとすると、奴はあごで目的地を示した。
そこは大学内にあるカフェ・テリアらしき所だった。
「なんで、態々、こんなところに」
「いいから、なにもいわず、ついてこい。さあ、はいれ」
貴斗は言葉の終わりに入り口の扉を開けてくれ、中にはいる事を促していた。
中に入ると、内装がどことなく、俺のバイト先に似ている気がしたのは、ただのデジャビュってやつか?
俺がそんな事を思っていると、貴斗はその店内を見回していた。
「ふんっ、やっぱりいたか・・・」
貴斗がそう呟くと何を見つけたのかしらねぇけど、そっちの言葉を向けた方へと歩き出す。
「うんぅ?貴斗じゃねぇか、おっ、珍しい何で宏之がこんなところに?」
「クライフ、邪魔する。・・・、偶然、街中で会ってな、慎治もサークルが終わってここで休んでいる頃だろうと思って連れて来たんだ。これから慎治も暇だろう?」
「言ってくれやがって、まあ、暇である事は確かだがな。まあ、いいから、二人とも座れや。クライフ、もう少し脇によけてくれないか?」
「おーけぇ~、ミスター。そちらのミスターもお久しぶりですね。私の記憶が正しければ、ミスター、カシワギでしたね。オォ、タカァ~トォ、今日はミス・フジミヤはご一緒でないのですか?ユゥ~は、ミス・フジミヤが居ないとノン・ピクチャァレスク」
「黙れ、クライフ、見て分からんか?別に絵にならなくともいい」
「何だ、貴斗そのつんけな態度は・・・、って、挨拶返さないとな。前会ったときよりも、日本語の発音よくなったんじゃねぇか?フォードさんだったな」
クライフに話しかけていると貴斗の奴がここのメニューを渡してくれた。そのメニューを見ながら、言葉だけ慎治に向けて会話を始めた。
大学内の飲食店だから、店員なんか居るはずがなかった。
食べたい物が決まると席を立って注文しに行こうとすると、貴斗が俺を静止させ、奴のとついでに頼んで来ると言葉にした。
注文したかった物を奴に教えると、一度だけ、俺に
「それでいいのか?」と確認を取りと、カウンターの方へと歩いて行った。
奴が戻ってくるまで、暫くの時間が流れた。
その間、クライフからはこの学校の事を聞かされ、慎治からは香澄の事やバイト先の事を聞かされた。
「それでは私はそろそろ失礼させてもらいます。シー・ユー・レェイタァーっ、ガァイズッ!」
「クライフ、レポートの事、忘れんなよっ!」
「フッ、問題ない、ミスター」
留学生のその男は慎治にそう言葉を返すと陽気な顔で手を軽く振って、去って行く。
「何だ、あの〝問題ない〟って言い方、貴斗にそっくりじゃないのか?」
「ああ、そうだな。クライフの奴、面白がって真似してんだよ、色々と貴斗の口癖みたいなもんをな」
「それにしても、貴斗の奴戻ってくるの遅くねえ?」
そういいつつ、カウンターの方を向くとトレイに食べ物を乗せて戻ってくるところで、ここまで来るとトレイから、俺が頼んだ物を丁寧に置いてくれる。
奴はそうしながら、遅くなった理由を話していた。
何でも、時間も時間だし、材料がいくつか切れていて、それが届くまでに時間がかかっていたそうだ。俺は頼んだセット物を眺めやった。
その量はそこら辺の普通のレストランで出されるランチセットさほど変わらなく見えた。
もう少し多く盛っているんじゃないかって期待していたんだけど。
「それじゃ、すくないか?」
「いやそんなことねえけど、大学の飲食店だから、量が多いんじゃないかって思っていた予想が外れただけだぜ」
「何だ、そんだったら別の所に移ればよかったんじゃねぇの?内の大学、広いだけあって六箇所あるからな食う所。そのうち二箇所が、量も多くて味もいい、運動系連中の屯って居るところがあるんだよ」って答えてくれたのは慎治だった。
「俺はあそこに行く事は拒否するぞ」
「どうしてだよ、貴斗?」
「ああ、それはな」
「言うな、慎治、泣かすぞ、こら」って貴斗は言うけど、慎治はお構いなしに喋りだした。
理由はスポーツ・サークルの連中に藤宮ファンクラブを作っている奴等が居るらしくて、貴斗を敵視しているようで、面を合わせれば、取っ組み合いになること必然だそうだが・・・、コイツに仕掛けるなんて馬鹿な連中だぜ。
尚、慎治の話によると貴斗の無敗伝説は今でも続いているらしくい。だけど、なんとこいつと互角に渡り合う奴が一人だけ存在するそうだぜ。
「慎治、マジかよ、それ?しかもおんなだってぇ。しかも、つえぇくせに可愛いって言うのかよ。貴斗、お前手加減してんじゃねえのか?女の子だからって」
「それはない、武に通ずる物に男も、女もない。手加減など失礼に値するからな。まあその子は俺と違って殆どの武術に通じているようだし、フッ、詩織ほどではないが成績もいい方だ」
自分の彼女を口にした所為か、貴斗は少し照れるような表情を作っていた。何でもその女の子は藤宮とは非常に仲がいいらしいぜ。
食事しながら、また、違った話題で盛り上がる俺たち、三人。
食堂で二時間くらい過ごすと、ちょうどその店の閉店時間に差し掛かっていた。
慎治の奴も特に用事がないらしかったから慎治の車で三人一緒に行動する事にした。
家電で最新物を手に取って三人で評価、ゲーセンでスポーツ体感ゲーム、リズムアクション、カーレースや、格闘ゲーム。
ジャンルによってその勝敗はハッキリとしていた。
ある程度遊び切ると、観客側に代わり、他のプレイヤーが遊んでいる所を眺めながら、他愛もない新聞やテレビ、雑誌の記事の話題で盛り上がる。
「こんな時間か・・・、どうだ、俺たち三人で飲みに行かないか?」
そう言って貴斗と慎治を誘う。
「いいんじゃねえの、滅多にこんな機会訪れないしな、貴斗もいいだろう?」
慎治と一緒にそいつの方を向くとほんの僅かあごに手を当て考えている素振りを見せるけど、
「ああ」と簡単に返してきた。
俺や貴斗なんかより飲み屋に詳しそうな慎治に任せて、その場所へと向かって行く。
店はオフィスビル街の一画にあった。
外から中の光景が見える。
かなり賑わっている様だったし、内装の出来が高級感を漂わせていた。
貧乏性の俺にとって入るのを躊躇ってしまいそう店だぜ。でも、慎治が俺を促す。
貴斗の奴も扉を開けて、俺が入れる準備をしていた。そして、最初に俺が足を踏み込む事になった。
中に入ってからは慎治がカウンター席を確保し、三人分、一杯目の注文を素早く、バーテンダーに告げていた。
凍らせてある小ジョッキのビール。
「よぉ~~~しっ、乾杯しようぜ。俺たちの仲はこれからも続くようにな」
慎治がそう告げると俺も貴斗もジョッキを掲げ、慎治の言葉をまった。そいつの言葉と一緒に三つのジョッキから甲高いガラスを打ち鳴らす音が響いたと思うと、一気に慎治も、俺も、貴斗もそれを飲み干し、
「ふぅっ~、びーるさいこぉ~~~っ!」
「ビールの味なんか俺には分からないぜ」
「マズッ、よくこんなものが美味しいなどと言えたものだ・・・」と三者三様な感想を吐いていた。
一杯目の後は各自飲みたい物を勝手に注文し、それを口につけながら、何も考えなしに、頭に浮かんで来る言葉をそのまま口にしていた。
俺は焼酎、慎治は俺が名前なんか知るはずのないカクテル、貴斗はロックでウィスキーを静かに飲んでいた。
慎治の飲み姿はまるで社交性の抜群のエリート商社マンって感じ、
貴斗はハードボイルド一直線。
俺はどんな風に見えるんだろうか・・・。どのくらい飲んだ頃だろうか?
殆ど話しに交わらないで飲んでいた貴斗が不意に何かを言葉にし始める。
奴の焦点はどこを向いているのか分からなかった。
「あれから、もう直ぐで三年だ」とそこで貴斗はいったん言葉をとめる。
酔っている俺には何の事だか理解出来なかった・・・。違うんだろうぜ、知らないふりを勝手に演じていたんだろう。そして、こいつは俺の答えを待っていた風でもなく、また話し始める。
「宏之、お前にとって、あの事件は・、・・、・・・、・・・・、心が逝かれる程の事だった。荒んで行くお前を俺は・・・、俺にお前を立ち直らせられる術を知らなかった。だが、今は、彼女のおかげで・・・、こうやって」
そこでまた言葉をとめて、少しだけ、グラスの中のアルコールを口の中に含む。
貴斗の手からグラスがテーブルに落ち着いたとき、表面がある程度融けて、尖った部分が無くなった氷がグラスに当たり響きのよい清んだ小さな音を数回鳴らす。そして、また・・・。
「時間さえ、お互いに作れば、飲むことも、下らない会話を交わすことも、遊ぶ事も出来る。本当は彼女に感謝すべきなのだろう、俺は。お前を立ち直せてくれた、彼女に・・・。だがな、宏之・・・、・・・、・・・、・・・、ふぅ~、お前はこれでいいのか?彼女を忘れたままで?彼女は死んだわけではない、眠っているだけだ。」
「いつか目を覚ましたときに、いや、必ず、彼女は覚醒する。その時にお前はどうするつもりだ?素直に、彼女に別れを告げられるか?謝れるか?それとも・・・、・・・、・・・、また、元の鞘に・・・、・・・フッ」
なぜか自嘲気味に笑う貴斗。
そんな奴を何も判断できない恍惚とした表情で俺は眺めていた。
慎治は黙って何かを考えているようだった。
貴斗の奴は俺の答えを待っているのだろうか?テーブルに置いたまま、右手でロックグラスの頭を抑え、ゆっくりと揺らし氷を回し、その中をじっと見詰めていた。
貴斗の俺に向けた言葉、俺の脳内に留まる事もしないで、そのまま聞き流し、宙に消えてしまっていた。
奴のいう彼女っていったい誰の事だろう・・・?
分かっているはずなのに、それを思い出す事を俺の深層心が拒否しているようだった。
だけど、俺の口は勝手に答えを返してしまう、あいまいな答えを。
「わからない・・・」って言う言葉をだぜ。いったい何が分からないんだろう?俺にもわからない。
「そうか・・・」
感慨も無い、貴斗の受け答え。
奴は右手に持っていたグラスを左手に持ち替え、頭上に掲げ、一回それを眺めると一気に飲み干し・・・、俺は現実とは思えないほどの光景を目にする。
奴は空になったその入れ物を中に入っていた氷ごと握りつぶしていた。
それを見て驚かなかった連中は居ないだろうというほどの出来事。
一瞬のざわめき、だが一瞬だけ、他の客たちはそんな事、空想だと思って、また自分たちの空間に没頭して行く。
新たな喧騒を広げるだけだった。だけど、俺と慎治の目の前は現実だった。
握りつぶした左手から、貴斗の血が融けた氷の水と混ざるようにして流れ、重力に惹かれ、床へと滴っていた。奴は痛みを感じていないのだろうか?
自分の手から流れ落ちるものをじっと見ているだけだった。だけど、俺はその炎のようにも紅く、暗闇のようにも黒く流れる物を見たとき、急に、目の前がふらつき・・・、意識を失ってしまっていた。
もう、その後のどんな風に場が流されたのかなんて分かるはずも無い。
「貴斗、お前、そんなに、宏之と隼瀬が付き合っていることが嫌なのか?涼崎と宏之があるべき形だと今でも思ってんのか?」
「意味がまったく違う。だが、こいつと答えは一緒だ・・・、分からない、今の俺にも」
慎治と貴斗、俺が気を失った後にそんな会話を交わしているなんて知るわけも無かったんだ。
翌日、俺は貴斗のマンションで目覚めた。
昨日の最後の会話なんて記憶に残っているはずも無く、ただ、酔い潰れたんだと思っている。
貴斗の左手の怪我の事を聞いたって誤魔化しの答えしか返ってこなかったし、それが嘘だと分かる由も無い。
三年経った今も、これから先の未来も、俺は貴斗の言う彼女って言う存在を忘れたまま過ごしてしまうんだろうか?
奴が言う彼女とはいったい誰の事なんだろうか?
忘れてはいけないはずのその彼女、深層の中で蠢く鼓動・・・、
それは、なぜか、胸がきしむ。なんでだろう・・・、わからない、今は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます