第29話


「大丈夫です。今度は何をすればいいのかをちゃんとお伝えしますから。それにあの悪霊があなたを襲うことは絶対にありませんから。身の危険を心配する必要もありません」

「野上さんも同じようなことを言っていましたが」

「彼女はいろいろと感じたのでしょう。しかし明確なことはわかっていなかった。だから諸星さんになにも教えられずに、あんな結果になってしまったんだと思います。とても残念なことですが」

「そうですか」

「とにかく今から仲間を集めます。除霊の準備も。ところで諸星さんはどうやってこの寺に来ましたか?」

「タクシーできました」

「それはご苦労様でした。タクシー代もばかにならないのに。それじゃあ帰りは私の車でお送りしましょう。夜にまたお迎えに上がりますので、家を知っておく必要もありますし」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえいえお礼なんて。こちらが言うことですよ。本当にありがとうございます」

滝田は深々と頭を下げた。

「いえいえ、頭を上げてください」

諸星は慌てて頭を下げた。

それを見て滝田は笑った。

「では行きましょうか」

二人して車に乗った。

道中、滝田はけっこう諸星に話しかけてきたが、諸星は緊張のあまり固くなり、「はい」とか「ええ」とかしか返すことができなかった。


家に帰ったが、まだお昼にもなっていない。

お寺が夜の九時過ぎと言っていたので、迎えに来るのは九時半過ぎくらいだろう。

それまで十時間近くある。

いろんな意味で落ち着かないのに。

諸星はあまりの自分の落ち着きのなさに、さっさと終わらせたいという気持ちでいっぱいだったが、こればかりはどうしようもない。

諸星はレンタル店に行って映画を何本か借りてきた。

そしてそれを立て続けに見ていたが、映画の内容がまるで頭に入ってこなかった。


夜八時四十分。

予想していた時間に滝田はやって来た。

道中、前と同じように滝田は話しかけてきたが、諸星はやはり緊張して、「はい」とか「ええ」とかしか返さなかった。

滝田も諸星の緊張を感じ取り、「大丈夫ですから」とか「あいつがあなたを襲うことはありませんから」とか言ってきた。

どうやらあの化け物とまた対峙するので緊張していると思っているようだ。

しかし諸星は言いたかった。

「こんなに緊張しているのは、あなたが隣にいるからよ」と。もちろん言わなかったが。


そのうちにお寺に着いた。

その境内はけっこう明るかった。

多くのろうそくが大きく円形に、そして三重に置かれていたからだ。

三重の輪の中に、五人の人がいた。

三人は中年の僧侶。

一人は三十代くらいに見える尼僧。

諸星は尼僧をテレビで見たことはあったが、実際にこの目で見るのは初めてだった。

そしてひときわ若い私服の女の子がいた。

中学、いや高校生くらいだろうか。

この中においては違和感がありすぎた。

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