第26話

そしてその野上が諸星の見ている前で、化け物になったかつての友人に頭を喰われてしまったのだ。

諸星はその時、何をしていいのかわからず、何もできなかった。

それが心残りで仕方がない。

あの時諸星は何もできなかった。

だとすれば、これから私はどうすればいいのか。

諸星の頭の中は、ずっとそればかりだった。


世間もマスコミも相変わらずに騒がしい。

その中で諸星は考えていた。

私に何ができるのか。

しかし考えれば考えるほど、諸星の思考はもやもやと霧に包まれ、何一つ浮かばず、何一つまとまることがなかった。

それでも諸星は考えることをやめなかった。

そしてある日、諸星は考え過ぎて眠れなくなった。

それでも諸星は考え続けた。

そしていつの間にか眠りについていた。


目覚ましのベルで目が覚めた。

ろくに眠っていない。

明らかに寝不足だ。

しかしその時の諸星の頭は、何故かはわからないがいつになくさえわたっていた。

そして一つのことが頭に浮かんできた。

――野上さんは仏教派。そしてあのお寺、知り合いの寺だとか言っていたじゃない。

なぜ今まで思い浮かばなかったのか。

諸星は急いで会社に病欠の連絡を入れた。

そしてあの寺へと向かった。


滝田は考えていた。

数日前、うちの寺の敷地で首なし死体が見つかった。

しかもそれが野上ちかだと言うのだ。

大きな驚きと悲しみが波となって押し寄せてきたが、悲しんでばかりもいられない。

野上とは少し前にちょっとしたことがあって軽く疎遠になっていたが、その前は親しい交流があったのだ。

その野上が死んだのだ。

何者かの手によって。

このまま捨ておくわけにはいかないだろう。

死体が発見された状況から見て、野上が除霊を行っていたことは間違いがないだろう。

その結論はすぐに出た。

そうなるとその仕事も引き継がなくてはならない。

野上の仇は打たなければならないし、その前に人を次々と殺すようなやつは野放しにしておくわけにはいかない。

滝田も例の連続首切り事件は当然ながら知っていた。

全日本空手選手権三連覇の猛者が殺されたことも含めて、犯人の超人的な能力に驚いていたが、これで納得がいった。

強い悪霊なら、人間では極めて困難なことでも楽々とやってのけることができる。

するとそんな悪霊とはいったいどんなやつなのか。

悪霊自体はそう珍しいものではないが、人の命を奪うようなやつはそうそういない。

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