第1話

華やかな舞踏会会場。煌めく宝石、美しく着飾った淑女達。

 そして、ピンク色のドレスに身を包み、潤んだ青い大きな目、さくらんぼのような唇、艶やかな金髪の少女が、俺の腕をとっている。これは、エスコートという奴だ。どうやら、俺は夢を見ているようだ。

 まあ、こんな可愛い子と手をつなげるなんて…中学のフォークダンス以来?

 寝る前に読んだ、『黒死病の仮面』のせいか?ここも、中世っぽい雰囲気だし。

 ところが、穏やかな雰囲気がなぜか一変した。人々の視線が入り口に集まる。

 人々のざわめきの中現れたのは、光る緑色の目、燃えるような赤い縦ロール髪の美女。血のような深紅のドレスを身に纏い、美しさより際立つそのきつい表情で、俺の隣の可憐な少女を指差して、叫んだ。

「殿下から離れなさい!一体、何様のつもりなの!」

 少女は俺の後ろにそっと隠れて、震える手で俺の服の裾をぎゅっと掴んでいる。なにこれ、めちゃ可愛い。彼女いない歴20年の妄想がこれかぁ…。

 美女は益々激昂しているようだが、俺の後ろに立っていた誰かが前に出て、

「侯爵令嬢レッドリア・レッドストーン、これまでの貴方の悪事の証拠がここに!」

と、書面を突き出した。

 うっ、と、絵に描いたように怯む美女。

「貴方は、王子の婚約者という立場を利用して、光の聖女であるリュミエラ・スターライト様に数々の嫌がらせをしましたね」

「そっ、それは…」

「光の聖女がどれほど国にとって大切であるかお分かりですか」

鋭い目つきで美女にたたみかける、ぱっとみてわかるいかにも優秀そうな奴。

「ですが、王子は、私の婚約者です!」

「婚約者?」

そいつは、そこで一拍空け、「殿下」と俺にうなづいた。

 えっ? 俺? 俺、王子なの?

 そいつは、訳の分からない俺に、小声で

「婚約破棄すると…おっしゃってください」

 えええ?

 嫌がらせしたから婚約破棄?

 いや、だって、婚約者がいる身で浮気した王子がいかんのじゃないの?逆に、婚約破棄される側なんじゃね?こんな舞踏会場で修羅場ですか?普通じゃありえない。

「殿下?」

不審そうに俺を見上げる可愛い女子。

 そうか。このシーン俺には解る!

 俺の探偵の勘が叫んでいる。

 これは、断罪イベント!

 昨今流行りの悪役令嬢シリーズ。そこで裁かれる悪役令嬢!

 …これは、夢じゃ無い。

 悪役令嬢が、悪役令嬢だから罪を犯した?それも、ただの嫉妬のために?いや、そんなことはない。何か、深い何かがある筈。

 そのために、俺は王子として異世界転生を果たしたのだ!

 探偵として、この謎を解くために!!

 





 



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