婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ

第1話 断罪

「ディーファン公爵家ルエナ・リル嬢!」

「は……はい……」

華やかなパーティー会場でざわめきが一気に静まり、楽団も邪魔にならないほどに抑えていた演奏していた曲すら止まってしまった。

今日学園の大広間で行われているのは、王侯貴族の子女ばかりが通う学園の学期末交流会で、いつもの控えめな昼用略装ではなく、煌びやかな夜会用ドレスを着こんだ令嬢や、訓練生として所属する兵の部隊服や正しい夜会服に身を包んだ将来の紳士たちが、成人した後に行われる夜会を真似たパーティーである。

その中、ダンガフ王国第一王子であるリオン・シュタイン・ダンガフ殿下が、中央の扉から登場して三段ほど高く作られた今日だけの拝謁席から立ち上がり、大声で自分の婚約者の名を叫んだ。

エスコートもされずに壁際に立っていたくだんの令嬢は、恐る恐る婚約者の前に出ると、横には立たずに正面で深く腰を落とす最上のカーテシーを行い、そのままの姿勢で次の言葉を待つ。

(この位置で礼をして待つように……と言われたけれど、本当にここで合っているのかしら?)

疑問は当たり前である。

本来ならば、ルエナ・リル・ディーファン公爵令嬢はリオン殿下に手を引かれ、その横に立たねばならないのだから。

だがその位置に立っているのは、冷たく光るプラチナブロンドをハーフアップに纏めて王太子殿下の目の色である青玉石を使った髪留めをつけた彼女ではなく、見覚えのないふわふわした柔らかいピンクゴールドの髪を安っぽい髪留めでまとめた、やはり安っぽくて少し流行遅れのドレスを纏った小柄な令嬢だった。

「そなたがこのシ……オイン子爵家シーノ・ティア嬢に対して他人ひとを使い、秘かに責めていたという非につき、沙汰を言い渡す!」

「……恐れながら」

「申し開きがあるのか?」

覚えのない罪状に、毅然と顔を上げたルエナは、婚約者から投げかけられるとは思えないほどの冷たい眼差しに顔を青褪めさせた。

しかしここで引いては、冤罪を認めたということになってしまうと思い、震える声をようやく絞り出して反論する。

「わ、わたくしはそちらの令嬢とは面識がございません。殿下が新しく編入されたご令嬢と親しくされているという言葉をお聞かせくださった方もいらっしゃいますが……」

「ほう?それは誰だ?」

「申し訳ございません。様々にお聞かせいただきましたので、どなたと申し上げることは致しかねます。しかし!そのように軽率にもひとりのご令嬢をお連れ遊ばすことはお控えいただけるようにと、私の侍女を通じまして殿下へご伝言いただくようにと、手配はさせていただきました」

「軽率?王宮に比べれば確かに狭小かもしれないが、そなたの実家よりも慎ましい暮らしをしているシーノ・ティア嬢が、慣れぬ広さの学園内に親しめるよう、私自ら案内をするのが軽率だと申すのか?そなたは『人の上に立つ』ということが単に椅子に座り、困っている者が目の前に現れても自らは助けず、身分が下の者に助けよと命じるだけで捨て置けという心持ちなのか?」

「そ…そのような……」

「何と狭量な……シーノ・ティア嬢を心無い立場に追いやったという自覚がない者を、私の婚約者と認めるわけにはいかない!」

「そっ、そんなっ……わ、わたくしと殿下の婚約は、殿下ひとりのご意志でいかようにできるものではございませんっ……」

青褪めた顔はさらに血の気が引き、洗ったように白くなるルエナを気の毒そうに見下ろし、リオン殿下はフッと唇を歪めた。

「ああ、そうだな……それゆえ、これはこの学園に所属する王族として臣下であるルエナ・リル・ディーファン嬢に命じる!次学期が始まるまでシーノ・ティア嬢を側付きとして自身の近くに置き、彼女に淑女としての嗜みや礼儀作法を教育せよ!その成果如何では、父である王陛下へ私の耳に入ってきたそなたの許しがたい行いの数々について、王妃たる資格があるかのご判断を仰ぐこととする!」



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