第18話 リーノたち、旅立つ

 

「ハイ・マスカレードっ」


 もわああああっ!


 レベルアップにより使えるようになった幻惑魔術を発動させる。


 スキルの名前通り”変装”するための上位魔術で、外見だけじゃなくて、実際の身長や体重まで偽装する凄いスキルである。


 声色なども変えられるし、探査魔術への耐性もある。

 ギルドに見つからないよう、王都を脱出する僕たちにとってぴったりのスキルだ。


 なので、ふたりとも普段の自分とは全く違う姿に化けた。


「って、オレはおっさんに化けたけど、リーノ……お前……」


「んんっ? なに?」


 自分の口から鈴が鳴るようなが発せられる。

 我ながら、ちょう可愛い声だと思う。


「……なんでお前は獣人族の女の子になってんだよ!」


 小太りのさえないおっさんに化けたランから激しいツッコミが入る。


「いやだって……王国一の獣人好きとして、獣人になるのって最高の夢じゃん?」

「”ハイ・マスカレード”が使えるようになったらぜひやってみたかったんだ!」


「見てよこれ、可愛いだろ?」


 そう言いながら自分の姿を確認する。

 すらりと伸びた手足はどこまでもしなやかで、ふわりと広がる若草色のネコミミと尻尾の手触りは最高だ。


 蒼い瞳が日差しに輝く。

 うっ、ララに負けず劣らずカワイイかも……ってあれ?


「……なあラン、自分に惚れてしまったとして、?」


 僕はララ一筋のはずだけど……”化けた自分”のとてつもない愛らしさにときめいてしまったのも事実だ。


 これは、このスキルを手に入れた達人が直面する新たな命題だろう。

 僕は果てしなく真剣に尋ねたつもりだったのだけれど。


「いやいや、知らねーって!」

「お前の獣人族好きは分かっていたつもりだったけどな……そこまでとはある意味あっぱれだぜ」


「ていうか、おっさんなオレと獣人美少女が一緒に歩いてたら、ただの援○交際だろ!」

「逆に目立ってどうすんだよ!」


 なぜか彼はこの姿がお気に召さなかったらしく、頭を抱えて叫んでいる。

 ……ああなるほど、ゲスな円光オヤジと思われるのが嫌なんだな?


 大丈夫……対策はバッチリだ。

 僕は懐から首輪 (犬に付けるヤツだ)を取り出すと自分の首につける。

 そして、リードの紐をランに手渡す。


「……はっ?」


「こうすれば、”奴隷にした獣人族少女を売りに行く犯罪組織のおっさん”にカモフラージュできるよ」


「おい! 余計悪いだろ!?」


「最後まで聞いて……どうせ襲ってくるのは暗殺組織とかだろ?」

「連中も同業者かと思って見逃してくれるって」


「…………」


 僕の深慮遠謀?に、0.5理くらいはあると思ったのか、思わず空を見上げるラン。


「……お尋ね者扱いで逃げるなら、さらにヤバい奴になれってことか……理屈は分かるが、そのためにそこまで自分を捨てられるなんて……」

「今日ほどお前のことをやべぇと思ったことは無い……味方で良かったぜ」


「?? 僕は楽しいだけだけど」


「マジかよ……」


 ランがSランクモンスターを見るような目で僕を見て来るけど、何かおかしいことを言っただろうか?


「……しゃーない、行こうか」


「……あうう、ご主人様、酷いことはしないで……」


「そういうロールプレイはマジでやめてくれ……なまじカワイイだけに鳥肌が立つわ」


 悪乗りで放ったセリフが、ランのトラウマになってしまったかもしれない。


 ともかく、奴隷商人のおっさんと獣人少女に化けた僕たちは、ギルドやバルロッツィ家の手下に咎められることもなく、堂々と王都を脱出したのだった。


 ……道中、脂ぎったおっさんに買い取りを打診されてしまったけど、

 金貨10枚、3000センドとか安すぎない?

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