謁見に向けて -帝国-
帝国は王国との長い因縁がある。
昔、帝国と王国は一つの国家だった。
時の王は双子の息子に王位を譲った。
不和は王の死後に起こった。
双子の兄弟はどちらが王としての座に就くのか争いを始めたのだ。
もしかしたら2人に何かを吹き込んだ何者かがいた可能性もあるが知る由もない。
最初はテーブルを挟んでの討論だった。
だが次第に争いは大きくなり戦争となってしまった。
二人の始めた戦争は息子たちに引き継がれ、数百年の戦いになった。
土地は荒れてしまい食料飢饉が起こり、疫病が大流行したりなど戦争をしたツケは互いに被りながらも争いは止まらなかった。
そして気がつけば人口が全盛期の10分の以下にまで減ってしまっていた。
血で血を洗い続けた戦争は戦う国民が減ったというあってはならないような悲しいく悲惨な理由で止まった。
半ば自然消滅のような形で戦争を止めた2国は互いに牽制を続け、戦争終了後の数世代後でようやく平和の条約を結ぶことが叶った。
だが決着がついていないのが帝国と王国の立場である。
故に2国の法や暮らしなどは似たところが多い。
しかし長い歴史で2国で変わる部分もあった。
まずは一夫多妻を継続している帝国と一夫一妻へと変えた王国である。
帝国は平和条約を結んでも尚、自国こそが大国の後継であると主張している。
故に古い法も現存していることが多い。
王国はより暮らしやすく住みやすく統治しやすいように法を変えている。
そして王国の王は大国時代の継承を帝国と認めている。
これはどちらかが折れなければ再び戦争の火種になるのは明らかだと悟った王国の王が国ではなく王の個人的な主張として発した声明である。
王国の貴族の一部には大国の継承は王国であるとする思想はあり、そういう貴族は昔からの重鎮としての強い発言力を持つ家が多いため、国としての声明は避けた。
声明を受けた帝国は戦争の賠償を請求し、王国の宝を譲渡せよとの無理な要求をしてきた。
王国はそんな要求は飲めるはずもなく、国としては認めていないと主張することで少々の争いがあったりもした。
これが帝国と王国の長い因縁である。
2カ国の根底には大国の過去があるのだ。
話は変わり帝国について。
帝国は数多くのダンジョンを管理している。
ダンジョンとはモンスターが湧く人の脅威の一つである。
脅威とは言ってもダンジョンを上手く運用すれば富が手に入る。
一つは魔石。
魔力の結晶とされ、魔力で動く魔道具を動かす電池的な役割の代物が手に入る。
というよりもダンジョンではほぼ魔石しか手に入らない。
稀にダンジョンの中で手に入るダンジョン産のアイテムは高額で取引され、一攫千金も夢ではなかった。
管理は帝国が行っており、産業としてはとても大きなモノとなっている。
魔石があるということは魔道具を開発するのに優位な場所であるのは想像しやすい。
安く質の良い魔石が手に入る帝都では魔道具の事業も盛んで帝国を維持しているのは魔石の売り上げではなく、この魔道具産業である。
故に魔道具技師は国のお抱えとなり地位と給金が高い。
就職倍率も高く、序列も存在する。
人気の職はダンジョンに入る冒険者か魔道具を作る技師の2強であり、手先が器用なら技師へ、腕っぷしが強いなら冒険者へ行くのが若者の流れである。
あぶれた者が他の職に就いたり家を継いだりする。
国は違えど、国民性も王国とはあまり変わりはしない。
帝国とはそんな国である。
場面は変わり帝国の城塞内部、王座の間にて現帝王シャンマリンデ・リングリンデ・アル・マルフォマーナが王座に座っていた。
「余の前で話すことを許す。表を上げよ! 余の息子たちよ」
「「「ははぁ!!」」」
広い王座の間に10人ほどの男女が膝をおり頭を垂れていた。
この場で発言を許されても無用は発言には罰が下る。
なので誰一人言葉を発しない。
「余の子供なら知っていて当然の出来事だが、あえて話そう。我が国の片割れの自称王の子供に騎士団が作られたのは知っているな?」
誰も返事はない。
それもそのはずである。
ここにいる者たちに王国のことを知るすべがある訳もなく、誰も教えられていないかったのだ。
だというのに帝王は全員が知っている体で話を進める。
今日は機嫌が良いのか話をしてくれるだけマシだと思う者たちもいた。
「余興のつもりで手紙を送ったのだが不快にもこちらから出向くようにとの返信があった。そこでお前たちに任せようと思う。誰が行く?」
子供たちは必死に頭を働かす。
そして『王国にいる王の子供に騎士団を作った』『手紙を送った』『出向く』『誰が行く?』の言葉を繋ぎ合わせて帝王の真意を読み取る。
「……余の待つ時間はそこまで長くはないぞ」
その言葉を受け、一人の人物が手を上げた。
「名乗れ」
「はっ! ラークハット、ここに」
帝王は子の名前を呼ばない。
「お前が行くのか? 成人の儀式前のお前が行ってなんとする?」
「王の息子の力量を正確に見定めてきましょう」
帝王は不快な表情をした。
「お前には可愛げも愛嬌もない。あるのは自信か。お前の父親にそっくりで嫌になる」
「俺は親父を越えてみせます」
「……アレは人であるのかが怪しい生き物だ。お前が生まれ人であったから人であると余は認識している程度にはな。お前はアレの人の部分だ。アレは修羅に魅入られた落ち武者よ。お前はあのようになるなよ」
「もちろんです」
ラークハットは思う。
どのようにして父は母と結ばれたのか。
父はもういない。
死んだのではなく戦を求めて世界を歩いている。
父の記憶はない。
あるのは母たる帝王との短いやり取りだけ。
母は父を毛嫌いしているが、嫌ってはいないような感じを受ける。
父の話題を出すと目に見えて不機嫌になるが、嫌々ながら質問には答えてくれる。
だがある一線を超えると怒られる。
自分はそれが知りたかった。
そして父を超える。
「エレクタール姉さまとボルクもご一緒で構いませんか?」
「許可しよう」
「ありがとうございます」
何かあった時の保険も準備できれば怖いモノはない。
「では下がれ。余は忙しいのだ!」
「「「ははぁ!!」」」
子供たちはそそくさと王室の間を後にした。
「片割れの王の息子か。ラークハットの鼻を折れる存在かどうか……」
そう言って王座から立ち、帝王も王座の間を後にしたのだった。
「何故私を指名したんですの? 護衛なら他にもいるでしょうに」
王座の間を出てしばらくしてエレクタールに声をかけられたラークハット。
「姉さんなら来てくれるでしょう?」
「まぁあなたの頼みならやぶさかではないのだけど、理由を聞きたいってことよ」
「ぼ、僕も。なんで僕も行かないといけないのさ」
エレクタールの後ろからまん丸した子豚が二足歩行しているような風貌のボルクにも声をかけられる。
「エレクタール姉さんに同行してもらう理由は一つ」
「なにかしら?」
「姉さんはトラブルに愛されてるからね。それが理由だよ!」
「あなたはまた訳も分からないことを。たしかトラブルから私に近づいてくるのでしたっけ? あなたの考え過ぎよ」
「いやいや。俺の考えは正しい。姉さんはトラブルに愛されている!」
「厄介なモノに愛されてしまいましたね、本当」
エレクタールとしてはラークハットに言われるまで意識していなかったことだけに半信半疑だが、言われて見ればそんなこともあるようにも思えてくる。
これはラークハットが自信満々に断言するからそうなのかもしれないと思い込む、彼のカリスマも含まれるが。
「ぼ、僕は? 家で研究の続きをしたいんだけど」
「ボルク。俺はお前の目を信用している」
「ちょ! こんなところで何を言うのさ! 頭おかしいんじゃないの!?」
ラークハットが言った『目』とは視力的な良さではなく、スキルである。
つまり彼の目は魔眼なのである。
「すまない! だが、俺には見えないモノが見えるその目は今回の見極めには重要だ。それに俺はお前とは敵対したくない」
「わ、わかったから! 行くから! そんな近寄らないでよ!」
「おお! 助かるぞ、弟よ!」
「調子狂うな、もう」
そんな二人の様子を笑顔で眺めるエレクタール。
「準備の詳細は俺がまとめて数日中に回すからそれまでは自由にしていてくれ」
「分かりましたわ」
「分かったよ」
ラークハットは踵を返し来た道を戻る。
詳細を帝王に尋ねるためだ。
部屋に行っても合うことも話すこともできないのは分かってはいる。
メイドに執事長か外交大臣に尋ねるように言われるのが落ちだ。
「……私には足りないモノが多すぎる。この旅で何かを得られるか」
自信に満ちた表情とは一変してそこには10才にも満たない子供の顔があった。
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