第24話
僕は列車に乗っていた。
父に会う為に。
今回は実家には泊まらずに日帰りで会いに行く事に決めていた。
母と姉に会う事は今の僕には少しばかり気が重かった。
元来僕は嘘や隠し事が苦手だった。
上手く立ち回れないのだ。
絶対に表情や態度に出てしまう。
僕は父に麗子さんとルカの事を報告したいと思っていた。
直接的ではないにしろ、父は僕に麗子さんとルカに会う為の橋渡し役を頼んだのだ。
僕はA県で麗子さんとルカに会った。
そして父の想いを伝えた。
この事を報告する義務が僕にはある様に思えた。
列車の窓からはG県の山々が見えた。
西から東へと流れていくその緑一色の景色の中に、時折赤茶けた部分が混ざっていた。
狂った様な夏から少し落ち着きを取り戻し始めた秋へ・・・
そんな季節の移ろいを感じさせる景色だった。
僕はこの在来線での移動が好きだった。
新幹線の倍以上の時間が掛かるが苦にならなかった。
何県もまたぐ移動になるが、それぞれの県の「表情」がより身近に感じられるのが魅力だった。
4時間程で目的の駅に着いた。
ここからはバスの移動になる。
市内でも大きな部類に入る病院だけに駅前からはかなりの本数のバスが出ていた。
10分弱で病院行きのバスが来た。
僕は駅前から少し離れた郊外へ向かうバスの車窓から外の景色を眺めた。
ショッピングモールやホームセンター、全国チェーンのファーストフードの店等、いかにも「田舎の郊外」といった風景がだらだらと続いていた。
僕はやはりこの自分が生まれ育った街を好きになれなかった。
もう少し年齢を重ねれば違った想いが湧いてくるのかもしれない。
ただ今の僕にとってのこの街は「レースを完走した直後のマラソン選手」の様な印象だった。
疲弊し、うなだれて息切れをしている街
15分程でバスは病院の目の前にあるバス停に到着した。
病院の中にはATMやコンビニ、イートインで食事が出来るカフェまであった。
僕は真っ直ぐ病室に向かった。
ノックするとすぐに返事が帰ってきた。
父は前回来た時よりもだいぶんやつれていた。
笑顔で迎えてくれたが少し辛そうだった
『結構痩せたんじゃない?』
『そうだな、抗がん剤が合わないみたいだ。症状が軽い人もいるみたいなんだが、俺は吐き気が凄い。ほとんど食べれないんだ』
『それじゃあ体力もたないだろ。無理してでも食べないと』
『栄養はもっぱら点滴だよ』
そう言って管が刺さっている左腕を軽く上げた。
身体はやつれてはいたがまだ悲壮感というものは感じられなかった。
病と闘う気力というものはまだまだ残っている感じだった。
僕はその事に少し安心した。
そしてようやく今日来た目的を果たす気持ちになった。
『俺、麗子さんとルカさんに会ったよ』
父は僕の方を見ずに、ただじっと窓の外を見つめていた。
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