第21話 秀吉の小姓

 信長父子が三河から戻り、程なくして、

織田家の重臣が岐阜に勢ぞろいした。


 織田家連枝衆をはじめとし、柴田勝家、丹羽長秀、

滝川一益、佐久間信盛、池田恒興、明智光秀、羽柴秀吉、

斎藤利治、飯尾尚清、佐々成政、河尻秀隆、前田利家、……

枚挙に暇がないほどのそうそうたる顔ぶれで、

中には古参の重臣、亡き森可成よしなりの若き嫡男、

兼山城主の森長可ながよしも居た。


 言うまでもなく、長島一向一揆鎮圧の為の軍議で、

織田家の主だった将がほとんど集まっていた。


 諸将が従えてきた小姓は、仙千代が見知った者がほとんどだった。

信長に伴われ転戦する間に小姓同士、当然のこと、親しくなる。

 今回初めて見た顔もあって、その三人は仙千代よりも、

一才、二才、年下だった。


 三人は羽柴秀吉の小姓で、

石田佐吉、福島市松、加藤夜叉若といった。

 佐吉は近江の土豪の息子、

市松は秀吉の叔母の息子で父親は桶屋、

夜叉若もやはり秀吉の縁戚の子で家業は鍛治屋だった。


 秀吉は武家の出ではないことから、

つまの名字である木下姓でいたものを、

地位が上がるにつれ、丹羽長秀の羽、柴田勝家の柴を拝し、

羽柴姓となった。

 浅井攻めでの武功を表され、

浅井長政の所領地、北近江を受領し、一国の城主となると、

城があった地の名を今浜から、

信長の長を拝受し、長浜と変えた。


 羽柴様は自由だな……

人一倍の働きもさりながら、

明るく闊達な御人柄は、殿に好かれて当然だ……


 漂泊し、貧しく過酷な境遇に育った秀吉の心の蹉跌は、

未熟な仙千代であっても想像がついた。

それが陰で、いや、時に面と向かって出自を揶揄われからかわれようとも、

相手にせず、どうかすれば冗談で言い返す秀吉は、

時に、仙千代に眩しく映った。


 秀吉の三人の小姓が、

年若くして長浜から岐阜まで付き従ってきたのを見ると、

秀吉の三人に対する期待の大きさが見て取れた。

今回は評定のみで戦は無い為、

出仕して日の浅い小姓が旅での仕事を様々覚えるには良い機会だった。


 幼い小姓達は幼い者同士集まって、

「大人」の邪魔にならぬよう、

城の庭園を案内されるという名目で、場を外していた。


 評定が行われている公居館の次の間に、

竹丸、仙千代、石田佐吉らが侍っていた。

 

 評定が紛糾している様子はまったくない。

そもそも常より、信長の鶴の一声で決定されてゆくのが大方で、

しかも今回、掃討作戦の決行は既に決まっていることだった。

 長島一向一揆衆は、信長にとり、

弟の信興を自刃に追い込み、城二つを落とされ、

多くの家臣や兵を奪った断じて許されぬ怨敵で、

信興が亡くなった後、二回攻め、いずれも撤退し、

決着をみていないどころか、一向一揆衆は顕如の指令によって、

越前はじめ、各地で蜂起し続けている。

 復讐の念を晴らす為、また、見せしめの為、

今回こそ、完全制圧せねばならない難敵だった。


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