神野蒐集録 怪異譚〜呪われ祈祷師と怪異の町〜

小谷杏子

第一話 モノノケの町

 とある家が怪我した猿を一匹飼っていた。やがて猿は快復した後、家主にこう言った。

「コノ御恩ハ、決シテ忘レマセン」

 猿はその家の子供を攫った。


 ***


 春が芽吹き、町もほんのり陽気になる。うららかな風が霧を吹き飛ばした。

 登った霧と書いて登霧とぎりと読むこの地は西に海、北から東にかけては山が広がり、南には田園と岩を切り崩したままのような崖がある四つの町で形成される。平成初期にはベッドタウン化が進み、若い家族が越してくるようになり、ますます賑やかになった。

 登霧南部の篠宮町しのみやちょうから東へ進めば田園が広がるのどかな風景が見渡せる。

 段々畑の中間に位置し、アスファルトの道から土道に切り替わると、不規則に生えているかのような蔓が石垣に張り付いている。奥まで入り込むと一軒の古い家屋が顔を出す。

 立派な玄関には重厚な鬼瓦があり、間口が広く昔ながらのガラス格子戸が閉じられた家。敷地はかなり広く、玄関前には白の軽トラックが無造作に駐車している。

 この家の主である神野じんの一茶いっさは居間でパソコンと、古びた蔵書や大学ノートに囲まれて作業していた。

「──ごめんください」

 頼りなげな女性の声がガラス戸を震わせる。インターホンがないので客人はガラスの引き戸から声をかけなくてはならない。しかし、作業中の一茶には聞こえていなかった。

「ごめんくださーい」

 もう一度声がかかり、一茶は顔を上げた。壁にかけた古時計を見やる。

「うわっ、もうそんな時間か。はいはーい、ちょっとお待ちをー」

 くたびれたTシャツ、浅葱色の作業着ズボンという姿だが身なりに構うことなく玄関まで走る。サンダルを引っ掛ける間際、用心のために目をつむった。

「どうぞ、いらっしゃい」

 戸を開けてすぐ一茶は柔らかな表情を見せたが、目をつむったままなので、客人は怪訝な声で「えっ」と驚いた。

「どうも、お待ちしてました」

 なおもにこやかに言うと客人はこわばって「はぁ」と返事する。

「まずはこの家に入って。説明はそのあとで」

 一茶は体を引き、家の中へ客人を招いた。女性は隣でうつむく小学生の息子とともに中へ入る。

 二人が敷居をまたいだことを音で確認し戸を閉めた。すると部屋の奥で焚いていた香が彼らを手招きするように芳香を放つ。

「家が拒まない証だ。どうやら歓迎されたらしい」

 一茶は満足して頷くと、ゆっくり目を開けた。親子の様子を見つめる。

「すいませんね。外から入るものにやられると困る体質でして。とくに、それを視たらマズいんです」

「はぁ……そうでしたか。私、てっきり、目が見えない方なのかと」

 一茶は「面目ない」と柔らかく笑った。つられて女性も緊張気味に笑う。

「それに、まさか神野さんがこんなにお若い方だとは思わず」

「怪しげなジジイが住んでると思いました?」

「仙人のような方かなと。なんだか祈祷師っぽくないですね」

 彼女の返答に一茶はむずがゆく苦笑した。

「今年でやっと三十になります。それに祈祷師って言ってもその役割はほぼ消滅してて……まぁ、何かと言われたらそう答えるしかないんだけど」

 一茶は年相応ながら、愛嬌のある半月型の目と和やかな笑みが大人しく呑気な性格をよく表していると自負していた。癖のある長い黒髪を後ろで団子状にまとめており一見怪しげに見えるが、落ち着きのある深い声と話し方が親しみやすいのだと依頼人たちは言う。

「家に入ってしまえば、もうこっちのもんです。なんの邪魔もなくゆっくり話ができる。さ、中へ」

 廊下を通り、散らかした居間の襖を閉めた。十畳の応接間の中心で広い卓を挟んで座った。

 一茶は用意していた電気ポットと耐熱ガラスの急須で、ゆるりと茶の準備をする。

「どうぞ」

 出された湯呑みを親子は悩ましげに見つめた。やがて母親が手に取ると息子も湯呑みを自分の方へ引き寄せる。

 女性は一口茶を含んだ後、固い口調で切り出した。

「連絡した志垣しがき陵子りょうこと申します。こっちは息子の琥太郎こたろう。この春、小学六年になります」

「話によれば、この琥太郎くんが赤ちゃんのように夜泣きするとか?」

 事前に聞いていた依頼内容をサラリと言えば、陵子は疲れた目元を見せ、恥ずかしそうにうつむいた。

「はい、夜中に急に泣き出して止まらなくて。それが毎日ありまして」

 琥太郎は物珍しそうに周囲を見ている。大人しい性格のようだが誰とでも仲良くできそうな凛々しい顔立ちだ。しかし、大人たちが自分の話をしていることに無関心だ。挨拶もせずに家に上がり込んでいたが、母親も怒ることはなく、ただただ困っている様子である。

「もう一週間になります。最初は怖い夢でも見たのかと思いました。でも、ぐずり続けたかと思うと明け方前に急に力が抜けたように寝入ってしまい……朝、訊いても覚えてなくて。それから日に日に話をしなくなりました。こっちが訊いたことに対して、頷くか首を振るかだけになって……」

「なるほど」

 一茶は双眸を少しだけ広げて、わずかに身を乗り出した。陵子がなおも語る。

「まぁ話をしなくなるのは年頃ですし、反抗期かなと思ったんですけど、それまでは素直で聞き分けのいい子だったし、やっぱりおかしいなと。病院に行ってもとくに問題があるわけではなく……」

「医者はなんと?」

「心因性のストレスでしょうと」

「匙を投げられたわけですね」

 一茶は小さく鼻で笑った。

「夜は毎日のようにぐずるし、私も眠れなくて困ってるんですけど……でも、どうしたらいいかわからないし、義父は『狐にでも憑かれたんだろう』と言うので」

「それで、うちに来たと」

 最後の頼みの綱とでもいうのか、寝不足らしい陵子の目元が疲労を物語っている。

 一茶は質問を変えた。

「この子、赤ちゃんの頃は夜泣きが激しかった?」

「いえ、これがまったく。大人しくてのんびりした子でした」

「なるほど。もともと疳の虫もない……奇妙と言えば奇妙な」

 そう言いながらおもむろに手帳を広げ、ペンを構えた。クルリと指先でペンを回す。

「ご家族のことを教えてもらえません? この子から数えて二親等までの」

 一茶の言葉に陵子は素直に頷いた。

「夫と義父と私とこの子で仁月町ひとづきちょうに住んでます。琥太郎に兄弟はいません。私の実家は御陵町みささぎちょうでして」

「おぉ、海の町ですね。あそこ、よく行くんです」

「はい。その御陵町に両親がおります。どちらも健在です」

 一茶は愛想よく相槌を打ちながらサラサラとペンを走らせていく。陵子は気遣いができる人のようでペンが止まるまで口を閉じていた。それに気づき、一茶は目を上げて微笑む。

「お義父さんと暮らしてるってことですが、お義母さんは?」

「一ヶ月半前、亡くなりまして……」

 思わずペンが止まる。一茶の動きと鋭さを帯びた表情に、陵子は口元を引きつらせた。

「……やっぱり、お義母さんが原因ですか?」

「うーん、まだなんとも。ただ変事の前に家族が亡くなっているというのは引っかかります」

 そして、義母が原因だと結びつける理由も。

 そこまでは言わず、一茶はふと琥太郎に目をやった。彼はよほど喉が渇いているのか、絶え間なく無表情で飲み続けている。

「おかわりするか?」

 訊いてみると琥太郎はこくりと頷き、湯呑をすっと差し出した。横から陵子が慌てて言う。

「すみません」

「いえいえ。たくさん飲んでくれたら、こっちも楽なんで」

「楽?」

「この茶は、浄化の作用がある井戸水を使ってるんです」

 それは神野家が昔から所有する井戸のこと。これに陵子は半信半疑で湯呑の茶を見つめた。

 一茶は湯呑に茶を注いで「たくさん飲みなー」と笑ったが、琥太郎はやはり黙ったまま受け取る。

「琥太郎くんはおばあちゃんと仲が良かったんですかね? ふさぎ込んでるというか。それこそ医者の言うようにストレスの可能性もありますし」

「いえ、そんなことは……」

 陵子は言いかけて止まり、痛みを訴えるように顔を歪める。一茶は鋭く切り込んだ。

「不仲だったんで?」

「私が見る限りでは、あまり仲がいいとは思えなかったです」

 陵子は琥太郎の様子を窺った。相変わらず黙々と湯呑に息を吹きかけている。

「そうですか……うーん、この子はまるきり喋らんのですね」

 一番引っかかっていることを言ってみると陵子は弁明するように言った。

「口数は少ない方ですけど学校ではよく笑い、よく喋るようです。家にいる時はそうじゃないんですけどね。でも挨拶くらいはできる子なんです」

「へぇぇ、家と学校での差が気になるなぁ。こんな風になってからは? 学校でも大人しくなったんです?」

「いえ、今は春休みなので……そう言えば義母が亡くなってからは遊びにも行かなくなりました。前は長期休暇の時はお友達の家に頻繁に出かけてたんですけど」

 陵子は思い出したように言った。しかし後には続かないので、一茶はペンを止めて訊いた。

「よほど家に居たくなかったんですかね?」

 これに陵子は恥ずかしそうに顔をうつむけた。触れられたくない秘密を抱えているような鬱屈とした色を浮かべている。

 一茶は鼻息を吹かせて神妙に唸る。すると陵子がおずおずと訊いた。

「あの、この子には何か悪いものが憑いてるんでしょうか?」

「と言うと?」

 鋭い質問返しに、陵子は眉をひそめた。そして、ためらいがちに言葉を紡ぐ。

「この町はほら、いろいろと迷信が多いですし……怪しいものに障ったとか、義父はそう言い張るんですけど」

 しかし陵子は納得がいかないのか疑念を浮かべている。

 一茶は手帳を閉じ、茶を一口含んだ。優しい丸みのある味を感じ、たっぷりと喉を潤して一息つく。

「んー……まぁ、まだなんとも言えません」

「でも神野さんはそういうものを祓うお仕事をされてるのでは……あ、でも体質が?」

「はい。俺は視ることができない。〝それら〟を直視すれば自動的に失神するから」

 陵子は眉根を寄せた。対し一茶は肩を揺すって笑った。

「直接視認したら失神するので、目をつむって心の眼で視なくてはならんのです。厄介な体質ですよねぇ」

 ケラケラと明るく笑ってみるも陵子は「はぁ」と反射的に返事するだけで理解できたようではない。気まずくなった一茶は咳払いした。

「ともかく琥太郎くんが何に障ったかは調べてみませんと。〝なにものか〟の正体を知って、それから対処法を考えます」

 きっぱり言うと母は子を見やって迷うように頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 藁にもすがる思いなのか彼女は、一茶の稀有な体質を問うことはなかった。


 ***


 志垣親子を見送った後、一茶は居間に入った。テーブルに広げていたパソコンとその脇に積み上げた膨大な草紙や本、ノートをそれぞれ見つめる。神野蒐集録と呼んでいるその膨大な資料集は蔵からいくつか持ち込んでいるものだ。

 だだっ広い空間は春の陽気な日差しをほどよく取り入れ、ゆったりと静かな時間をもたらす。

 あらゆる事象は時代を経るごとに各媒体へ記録され、その一つ一つを照らし合わせて考える材料となる。途方もない作業だが、依頼を受けた以上は突き止めたいと思う一茶だった。

 無意識にため息をつきながら手帳のメモをもとに資料をあさる。

 キーワードは「夜泣き」「子供」「祖母」「孫」「葬儀」「家族」。


・第二十三巻、五の章……子供が妙な夜泣きする時、家族の誰かに変事が起こる。子供を日の当たる場所に隔離し、一週間ばかり経過を見ると良い。原因は脳に巣食う闇虫の類。


・第三二五巻、五十九の章……子供が夜泣きする時、家族の誰かに変事が起こる。この時、子供は夜泣きする年齢だったため別の事象として取り扱う。原因は一族の先祖からなるしきたりを間違えたことによるもの。変事はどれも小規模の怪我程度に済んだが皆同じ場所を怪我したことで先祖の祟りを想起した。


・第四一五巻、十四の章……その家の孫が額縁を壊した。すると孫に変調が見られ、たびたび夜泣きし奇怪な行動(言葉を忘れる・動物の鳴き真似を繰り返す)を取る。先祖と相性の悪い狐に憑かれていたので祓えの儀を行い、経過を見た。子供は完治せず成人後は精神を病んだ。家族の献身的なサポートによって周囲への被害は最小限に留められている。


 一番近いものは第四一五巻十四の章だ。しかし狐の仕業であれば、あの子供を直視した瞬間、一茶は失神していたはずなので、どれも当てはまらない。

「ま、琥太郎が喋ってくれないんじゃ、にっちもさっちもいかんね」

 今のところは琥太郎だけに変事が起きている。経過を見るしかない。

「ともかく、夜泣きの現場だけ見ておきたいな。メールしとくか」

 もう家にたどり着いた頃だろうか。スマートフォンに入れていた陵子のアドレスを呼び出し、指をスライドさせて文字を打ち込む。

『琥太郎くんの夜泣きを動画に撮っといてください』

 それだけを送り、一茶は再び膨大な資料の海へ潜り込んだ。古い草紙のデータ移行を再開させようとしたが、腹がぐぅっと鳴る。

「気分転換にコンビニ行くか」

 スマートフォンを開くと、陵子から了承メールが届いていた。簡単に返信し、家を出てのんびりと田園を横切る。

 しばらく道なりに進むと、ぽつんと一軒のコンビニがある。大手チェーン店。そこに行けば大抵のものは手に入る。普段、一茶はジャンクフードを好まないが、二ヶ月に一度は無性に油っこいものが食べたくなる。今日がその日で、ポテトチップスを二袋買った。コンソメとのり塩が美味いのだと、下宿人の御法川みのりかわ富由ふゆが言っていたのをひっそり思い出す。富由のためではないと、すぐに頭の中で言い訳し、金を払い、もと来た道を引き返す。

「いい天気だなぁ。このまま河川敷まで行って昼寝でもしたい気分」

 ビニール袋をひっ提げ、なんとなく寄り道をしてみる。だが、すぐに頭の中で富由が頬を膨らませる姿を想像した。

『一茶さん、あまりフラフラ外を出歩いちゃダメよ。目的もなく、うろつかないで』

 つい先日言われたことを思い出し、顔をしかめる。

 ミルクティー色の髪の毛を揺らして目くじらを立てられても驚異ではない。十歳も離れた女子大生ではあるが、彼女は母親のように世話を焼いてくる。そんな富由を煩わしくは思わないが、脳内にまで登場するのは不本意だった。だが、一茶の意志とは関係なく脳内の富由は眉をつりあげて小言を続ける。

『失神した時、誰にも見つけてもらえなかったらどうするの? ほら、早く家に戻って。早く!』

「……そうだな」

 一茶は河川敷へ向きかけた足を戻し、田園の脇を通り過ぎた。

 富由が帰ってきたら、のり塩を開けよう──小さな水路をぼんやり見ながら考えた時だった。水路の中を白い蛇が悠然と蛇行していくのが見えた。

 目が合う。その瞬間、ふらりと意識が途切れた。


 一茶が目を覚ましたのは夕暮れ時だった。茜の空が視界いっぱいに広がり、紫色の細い雲がなめらかに移動していく様を認識すると、ミルクティー色の髪の毛が顔に垂れ下がってきた。

「一茶さん」

「あ、富由。おかえり」

「おかえりじゃない! もう! あれほど言ったのに、なんで失神してるの!?」

「すまん、やらかした……コンビニでポテチを買っただけなのに」

 おどけて言い、ビニール袋を探す。富由が持っていることに気がつき、すぐに渇いた笑いを漏らせば富由はふくれっ面で言った。

「バイトから帰ってきたら家にいないし。こんな水路の前で倒れてるし。心配するでしょ」

「ごめん」

 一茶は気恥ずかしくなって笑いながら、ゆっくりと起き上がった。顔にかかった井戸水を拭う。どうやら富由が水を思い切り顔にぶちまけてくれたようだ。

 家の裏手にある井戸水には古くから浄化の作用があり〝なにものか〟に遭遇した神野家の者が、その水を口に含めば失神を解くことができる。

 一茶はズボンについた砂埃を払いながら立ち上がり、天に向かって背伸びし体をほぐす。倒れる前に見た蛇を頭の片隅に追いやりながら富由の心配そうな顔に言った。

「富由。帰ったら、これ一緒に食べよう。仕事の話もあるし」

 一茶は富由からビニール袋をさっと取り、用心深く先を歩いた。後ろから「もう!」と富由の憤慨が聞こえるも相手にしない。

 数分の散歩のはずが数時間を要する。家に着いた頃には一番星が見えていた。

 富由はまっすぐ台所へ向かった。一茶はまっすぐ風呂場に向かい、父が亡くなる前に改装した風呂釜はこの家のどこよりも新しく清潔だ。払い損なった砂埃を落とそうとシャワーを浴びる。湯と水を半分の割合で調整し、ほどよい温度の水を浴びながら一茶はぼんやりと考えた。

「あの蛇、モノノケだったのかなー。まぁ蛇の話は数え切れんほどあるし、また会えるかなー」

 思考がどんどん脇道に逸れていく。一茶は頭を振って思考を元に戻した。

「それよりも依頼の方だ」

 蛇口を止め、風呂に湯を張ってから出る。枯色の浴衣に着替えて浴室を出ると廊下から味噌汁の香りがした。タオルで頭を拭きながら台所の暖簾をめくると、富由が新妻のごとくエプロンを着けて飯を炊いていた。

「いつもご苦労さん」

 労うと彼女はお玉で味を見ながら言った。

「まぁ、これくらいはねー。とはいえ私には味噌汁しか作れないから、あんまり貢献できないんだけどさ」

「十分だよ。ありがと」

 富由の頭にポンと手を置くと彼女は嬉しそうに笑った。

 台所の立ち位置を交代する。冷蔵庫にかけていたたすきを取り、袖をたくし上げた。冷蔵庫からあらかじめ処理をしていたスナップエンドウとカツオの切り身、春の山菜を出す。ベーコンとバター、白ワインも追加し、キッチンに並べて夕飯作りに取り掛かる。

 富由も自然とエプロンを外して配膳の準備をした。

「それで、お仕事の話って? 昨日依頼されたやつ? 今日面会したんだっけ」

「あぁ。話に聞いてた通り息子の方は異様だったな。でも狐が憑いてるとは思えんね。俺が失神しなかった。それがすべてを物語っている」

 一茶は山菜を手早く切りながら言った。味噌汁の鍋を火から下ろして別のコンロに置き、メインで使うコンロにフライパンを置く。

「やっぱり私も一緒に聞いた方が良かったんじゃない?」

「大丈夫だって。おまえの手を煩わせんでも、俺一人でなんとかやっていける。今までもそうしてきたんだ」

「そうだけど私は心配で心配で、バイト中も『いっさん、大丈夫かな? 倒れてないかな?』って考えてたよ」

「心配しすぎ。あと勝手に『いっさん』って呼ぶな……富由、スナップエンドウとベーコン、バターを取って」

「はいはい。どーぞ」

「ありがと」

 山菜をごま油で炒って醤油で味付けする。一茶はフライパンを振りながらまた話を再開した。

「それで、その子なんだが一切喋らんでな……不気味なんだけど〝なにものか〟の気配がないんじゃなんともわからん」

「ふーん。まぁ憑き物にしろなんにしろ、この町なら『突然そうなりました』っていうのも珍しことじゃないよね」

 富由は一茶の脇で、料理を見ながら言った。

 彼女はこの町の出身ではない。今は町の中央に位置する仁月大学に入学し、現在は二年生。そして犬神憑きだ。定期的に犬神を鎮めなければならず、そのため神野家に居候している。

「話を聞いてみれば嫁姑問題が絡んでそうだなーと感じたね。奥さん、旦那の実家で暮らしてて、義母さんが一ヶ月半前に亡くなったんだと。それからだ、息子の様子がおかしいのは」

「えー、なにそれ。んじゃ、おばあちゃんが祟ったっていうわけ?」

「さぁ、どうだかね。孫と祖母の関係も依頼主の知るところでは仲良くなかったそうだけど……」

 一茶は逡巡しながらスナップエンドウとベーコンを白ワインでさっと炒めた。味付けは塩コショウ、バター。ほんのりとバターの甘い香りが立ったら皿へ盛り付ける。

 ダイニングには山菜混ぜご飯とスナップエンドウとベーコンの炒めもの、カツオの刺し身、味噌汁、作り置きのほうれん草と木綿豆腐の和え物が並んだ。

「いただきます」

 二人同時にテーブルにつき、同時に手を合わせて夕飯にありつく。

「あ、これ美味しー」

 富由はスナップエンドウとベーコンを一緒に食べ、ニコニコと笑った。ベーコンの塩気を活かすため味付けはシンプルにしている。一茶は山菜混ぜご飯を食べた。こっちはしっかりと醤油の味が染みている。

「まぁ今日の夜、問題の夜泣きを録画してもらうから明日にはなんとか原因がわかるだろ。蒐集録にも似た記録はあるが当てはまるようなものはなかったし、単純に〝なにものか〟のせいかもしれんし」

「そうねぇ。現場を見てみないことにはわからないもんねぇ」

「それに憑き物だったら、あの浄化水も嫌がるだろうしな。逆にたらふく飲んで帰ったぞ。だから、やっぱりあの子は憑き物じゃないと思うんだよなぁ」

「じゃあ、誰に原因があるのかな?」

 富由が味噌汁を冷ましながら訊く。一茶ははたと手を止めた。

 ──誰に……。

「その子は、もしかすると誰かのせいでそうなったかもしれないよ。私ん家も親戚がよそで恨みを買って血脈をたどって私に巡ったわけで。本人じゃなく誰かのせいでそうなったっていうケースね」

 富由は味噌汁をズズッと飲んだ。彼女の言葉を聞き、一茶は再び箸をすすめた。

 食事を終えると富由は入浴を済ませた後、勝手にポテトチップスの袋を開けた。その横で一茶は連絡を待ちながら蒐集録をめくる。

「やっぱ、のり塩が一番ね」

 富由はのほほんと言った。

「ね、一茶さん、美味しいでしょ」

「んー」

 返事がおざなりになるのは、思考が仕事に向かっているからだった。

 子供が原因ではなく、別の誰かが琥太郎の夜泣きを誘発している可能性──そのヒントはどこか。

「あ、いっさん、いっさん。メール着たよ」

「いっさんって呼ぶなってば」

 一茶はすぐに訂正を促した。富由はどこ吹く風でポテトチップスを食べる。呆れながらスマートフォンを手に取りメールを開くと、送り主は陵子だった。

 午後二十三時半。思ったよりも早く届いたと一茶は思ったが、子供の就寝時間を考えれば妥当だ。

 さっそく添付動画を開くと、瞬時に子供の喚き声が響いた。富由がビクッと肩を上げ、食べる手を止める。一茶は音量を上げた。すると一層喚き声が響く。それはすすり泣きや夜泣きとは言い難い、悲痛に似た叫びだった。動物が興奮状態にあるような、そんな音にも似ている。

「ねぇ、これヤバくない?」

「ヤバい。思ったよりもひどいなこりゃ」

 添えられたメッセージには「助けてください」とあった。一茶は動画を止め、席を立つ。そして、冷蔵庫につけていたフックから車の鍵を取った。

「富由。車回してくれ」

「はーい」

 富由は素早く指を舐めて立ち上がった。一茶もアイマスクとペットボトルの水をリュックに詰めて準備する。着替えている暇はない。浴衣の上からモッズコートを羽織り、荷物を抱える。

「場所は?」

「仁月町。住所をナビに入れる」

「おっけい!」

 玄関前に停めていた軽トラックに乗り込み、すぐさま志垣家へ急行した。


 ***


 志垣家は一昔前の一軒家である。モルタルの壁と狭い庇が顔となり、庭もそこそこ広い。この町でよく見る造りの家だった。

 不思議と泣き声は家の外には響かない。しかし、父親の怒鳴り声は窓を突き破って聴こえてきた。「早く泣き止ませろ!」と、その怒号には明らかな焦燥がある。

 一茶は目をつむり、富由がインターホンを鳴らす。すぐにインターホンから「はい?」と怪訝そうな男の声が聴こえてきた。

「こんばんは、神野です」

 一茶が穏やかに言うも応答はない。だが、すぐに扉が開いた。

「早く、この状況をなんとかしてくれ」

 彼の後ろから子供の夜泣きが漏れてくる。

「あぁぁぁぁぁぁーっ!」

 目を閉じたまま家に入る男を彼はあまり問題にはしなかった。一歩家に入れば、あの動画よりも鮮明な子供の泣き声が耳をつんざく。

 一茶はかなり不快なものに感じた。琥太郎の夜泣きには〝なにものか〟が混ざっているのだと確信する。念の為、耳栓をしたあと心眼を開かせた。世界の色が反転して浮かび上がってくる。

「……視えるんですか?」

 ようやく琥太郎の父が訊いたが、耳栓をしているのでよく聞き取れない。大方、横で富由が説明してくれているだろう。

 〝なにものか〟を見ると失神してしまう神野家は子供のうちから視覚、その他の感覚を塞いでもある程度の行動ができるように修練している。

 北の方角。まっすぐその突き当りを右、階段を上がってすぐ左から二つ目の部屋。一茶は琥太郎がいる部屋を目指したが、まとわりつく音波に足を取られそうになる。空気の膜で覆われているような沼の中を歩くような。どんどん重たくなっていく。

「……ん?」

 ふとその場に立ち止まった。そこは階段を上がる手前の一室だった。扉に触れれば格子の感触と、ビリッと強い痺れを感じた。明らかに他とは違う。肌が粟立つのを感じながら耳栓を片方だけ外して琥太郎の父に訊く。

「ここは?」

「母の部屋だ」

「あぁ、あんたのお母さんということは、亡くなったばあちゃんか……」

 含むように言ってしまい案の定、琥太郎の父が怪訝にこちらを見ている。一茶は再び耳栓をした。今は琥太郎を鎮めることが先決だ。階段を上がり、子供部屋へ。琥太郎の父は部屋へ入ろうともせず一茶と富由を中に入れて、自分は廊下で待っていた。中では泣き叫ぶ琥太郎と狼狽する陵子がいる。

「奥さんも部屋から出て」

 一茶が指示すると傍らで富由が動いた。彼女に任せていれば問題ない。

 部屋の戸が閉じられ、一茶と富由、琥太郎だけになる。

 琥太郎は声を枯らしながらも、しきりに泣き続けた。これでは彼の気力よりも喉が先に潰れてしまいかねない。目と耳を塞いでもはっきりと感じられる。それほどこの子は〝なにものか〟の強い影響を受けている。

 一茶はあやすように琥太郎の額に手を当てた。スッと口元までゆっくり撫でて落ち着かせる。すると琥太郎の泣き声がピタリと止んだ。驚異が去り、一茶はすぐに耳と目を解放する。琥太郎は泣きはらした目でぼんやりと天井を見つめていた。

「よしよし。琥太郎、大丈夫。もう少しの辛抱だからな」

 布団に流れる涙を拭ってやりながら優しく言うと、琥太郎はゆっくりと目を閉じて静かに寝入った。

「……富由、リュックからアレ出して。水とスポイト」

「あ、はい」

 富由は一茶が背負っているリュックのポケットから言われたものを出した。琥太郎の口をこじ開け、水を二、三滴落として含ませる。

「とりあえずこれでこの子の体は守れる……というわけで、俺は一旦引く」

「え? 引くって、なんで?」

 富由が驚いて訊く。一茶は冷静に返した。

「この子を脅かしてるのは、この子の近くにいる〝なにものか〟。その影響を受けているんだ」

「原因は別の場所にあるってこと?」

「あぁ。さっき通りかかったあの部屋にある」

 淡々と言う一茶に富由は呆けた顔で頷いた。

「んじゃ、富由。琥太郎の面倒頼むわ」

「えっ」

「また泣き出したら、あやしてやって。無いとは思うけど絶対とは言い切れんからな」

「えぇ……」

「もし、なんかあったら、さっきの要領で水飲ませて。頼んだよ」

「えぇぇぇーっ!?」

 絶叫する富由に一茶は「しぃっ!」と人差し指を立てた。富由が慌てて口を塞ぐ。それを確認し、一茶は琥太郎の部屋を後にした。

「さて……そんじゃあ、志垣さん。ちょっと話をしましょうか」

 薄暗い明かりの下で気まずい沈黙を浮かべる夫婦と、その奥でしわだらけの顔をしかめる老爺まで一茶はじっくりと見つめた。

 黒い木製の廊下とざらついた土壁がおよそ三十年前に建てられたと推定する。一茶は最近取り付けられたと思しき淡い色の手すりを撫でながら階段を下りた。

「家は結界だ。外敵から身を守ることができ、雨風を凌ぐ役割がある。同時に魔を封じる役割もある……気が溜まりやすいんだ。いいものも悪いものも」

 穏やかに話すも返事をする者はいなかった。皆一様に黙りこくり、言いたいことをその身に封じている。

 一茶は階段を下りて目を閉じた。先ほどは琥太郎の夜泣きで家全体に〝なにものか〟の気配があった。しかし、今は一階の方が危なく感じる。とくに亡くなった義母の部屋から嫌な霊気が放たれている。

「奥さん」

 ふいに呼びかけると陵子が「は、はいっ」と裏返った声を上げた。対し一茶は落ち着いた表情のまま義母の部屋を指差した。

「ここで、何か壊しましたか?」

「えっ……えーっと……?」

「それが息子の夜泣きと関係があるのか?」

 陵子の夫が割り込んで威圧的に言う。

「えぇ、まぁ。例えばばあちゃんの葬儀の際、もしくは亡くなる前に。こう……動物の置物のようなものを」

 具体的な例を挙げると、後ろで夫が妻に「おい、どうなんだ」と小声で訊く。

「ほら、あれじゃないのか。あいつが大事にしてた、猿の人形」

 さらに奥から義父の苛立ち紛れな声がし、夫婦は同時に「あぁ」と息を吐いた。

「猿の人形……どうりで」

 一茶は誰にも見えないところで口角を上げた。すると陵子がおそるおそる言う。

「お義母さんが亡くなる前、陶器でできた猿の人形を誤って割ったんです。それを割ったのは琥太郎だったんですけど……」

 義父と夫が深いため息をつく。またも妻を責めるような言葉を吐き出しかねないので、一茶は素早く振り返った。

「その人形、まだ残ってる?」

「えっ? いえ……もう捨てました。お義母さんが怒って捨てちゃって」

「一ヶ月半以上前だから、もう跡形もないわけだ……なるほど。なんとかします」

 一人で解決していると夫が不安げに訊いてきた。

「なぁ、本当に大丈夫なんだろうな? 母さんの霊とか、そういうのならさっさと鎮めてくれ」

「実の母親なのに、なんだか冷たい言い方をしますね。ちゃんと弔ったのやら」

「ちゃんとしたさ。それなのに人形を壊したからって祟られちゃ敵わん。たったそんなことで」

「たったそんなこと、じゃない」

 遮るように一茶が鋭く言うと、夫はグッと言葉を飲んだ。そんな彼らに向けて一茶は冷静沈着にゆっくりと説明した。

「この町にはいくつもの俗信が眠る。それらは怪談となり語られ、町の人たちに警告を促してきた。それらにはすべて〝なにものか〟が関わっているからだ」

「〝なにものか〟って、なんです?」

 すかさず陵子が訊く。

「この土地は人が住むよりも前に彼らの棲家だった。やがて人が介入し、互いに影響を与えた。人は彼らを〝なにものか〟と呼び畏れた。そんな中、ごく稀に〝なにものか〟と混ざる魂が存在する。それらはモノノケとなり、本人や周囲の人に禍をもたらす」

 一茶の説明に夫婦は黙り込んだ。一方、老爺は不気味に「いひひ」と笑う。

「じいさん、あんたはわかるよな」

 一茶が問うと、老爺はこの緊迫した状況にそぐわない安穏とした口調で返した。

「昔からそんな話をよく聞かされていたよ。この町にはモノノケが出るとな」

「そんなの迷信だろ、バカバカしい」

 老爺の息子は鼻で笑い飛ばしたが、すぐに勢いをなくして押し黙る。矛盾に気がついたのだろうが、これを指摘し、揚げ足を取ろうとする者はいない。

「神野さんよ、その〝なにものか〟は、まだこの町にいるっていうんだな?」

 老爺が問う。一茶は「はい」と低い声音で返事した。

「じゃあ、琥太郎はその〝なにものか〟のせいでモノノケになってしまったんですか?」

 そう訊いたのは依頼主の陵子だった。すぐに一茶は「いえ」と返し、考えながら説明する。

「琥太郎は影響を受けただけ。ばあちゃんの霊魂と〝なにものか〟が混ざり、琥太郎を脅かしている、といったとこでしょうね。猿の人形はこの現象の誘発あるいは引き金となった。今、言えるのはここまでです」

 一茶は閉じた目の中から、じっと義母の部屋を見つめた。

 家の中に溜まった悪いものがすべてこの部屋に集約されている。さながらモノノケの棲家のごとくあり、体の奥底からざわざわと不気味に焦燥を煽った。強い緊張感が走り、心臓が早鐘を打つ。生と死が混濁し、腑が危険を訴えれば訴えるほど奇妙な気分になる。

 ──この中にいる〝なにものか〟を視たい。視てみたい。

 一茶は格子を開けてみたかったがためらった。くるりと踵を返し、リュックからペットボトルを出す。

「とりあえず、みなさんはこの水を飲んで。浄化の作用がある水です。また明日、奥さんに話を伺います」

 ひとまず今夜は応急処置と現場の様子見だけに留めておく。琥太郎の部屋で途方に暮れる富由を回収した後、志垣家を後にした。


 ***


 翌日、陵子の都合がいい時間帯に会う手筈を整え、再び富由と志垣家を訪れた。いつものTシャツとその上からモッズコートを羽織り、下は作業着ズボン姿という出で立ちだ。

「少しは見た目に気をつけたら? それじゃ、なんだか業者みたい」

 富由が不満げに言い、インターホンを鳴らした。

「俺は業者だよ。なんで浮ついた服装をせにゃならん」

 一茶はあくびを噛みながら返す。そんな呑気な会話をしているとはつゆ知らず、陵子は寝不足顔を覗かせた。

「どうぞ。お待ちしてました」

「こんにちは。お邪魔しまー……」

 そう調子よく玄関をまたぐと、一茶はふらりと前方に倒れた。

「いっさーん!!」

 遠くで富由の驚愕が聞こえたが意識が飛んでいく。すぐさま口の中に水の塊を押し込められ目を覚ました。数秒程度の失神だったようで富由に支えてもらっている。

「……迂闊だった」

「もう、入って早々倒れないでよ」

 富由が呆れて言う。

「び、びっくりしました……」

 玄関口で陵子が青ざめている。なんとも情けない姿を見せてしまい、申し訳ない気分になった一茶は目をつむった。

「すいません。昼だから多少は〝なにものか〟からの影響はないだろうと侮ってました」

 そう言い訳しながら陵子の背後へ意識を向ける。失神する前、陵子の背後に何かの顔を見たような気がする。

「一茶さん、何を視たの?」

 タイミングよく富由が訊く。しかし一瞬のことだったので、はっきりとはわからない。

「〝なにものか〟かな。もうちょっと近くで見たかったなぁ……残念だ」

 つい本音を漏らすと富由が呆れたため息をついた。これに陵子が「えぇっと?」と戸惑う声を向ける。すると富由が唇を尖らせて言った。

「この人、無類の〝なにものか〟好きなんです。視たら失神しちゃうのに意味わかんないでしょ」

「おい、富由」

「だってそうでしょう? 普通は恐ろしくて視たくもないはずなのに、むしろ喜んで飛び込むし。趣味は怪談の聖地巡礼で、しょっちゅう町中で倒れてる。いちいち探しに行かなきゃいけないんだから勘弁してよね」

 富由にピシャリと言われてしまい、一茶はぐうの音も出ない。これに陵子が小さく噴き出した。

「御法川さんでしたっけ? 神野さんと仲がいいんですね」

「はい、婚約者なので」

「富由、その冗談は笑えんって」

 一茶は富由の頭を軽く小突いてたしなめた。少し場が和んだようで陵子は穏やかに言う。

「神野さん、目を閉じてても見えているような動きをしますね」

「まぁ、そうしないとどこにも行けないんでね」

「それは本当に大変ですね。あ、どうぞ、お上がりください」

 その言葉にまず富由が上がり、一茶も後ろ向きに靴を脱いでようやく志垣家に入った。

「今日、琥太郎くんは?」

 富由が訊くと陵子はしおらしく答えた。

「部屋にこもってます。あの子、ああなってからはずっとそうです。食事と風呂、排泄以外では滅多に出てきません」

「かわいそうに……」

 富由が目を伏せて言う。その言葉に陵子は何も答えない。

「こちらへどうぞ」

 居間に通され、一茶は瞼を閉じたままそろそろと座った。ゆっくりと慎重に右目から開くも、うつむき加減のままでいた。

「はぁー……」

 思わずため息を吐き出すと、横から富由が「おつかれ」とそっけなく言った。

「大丈夫ですか?」

 陵子も向かい合って座り、様子を窺ってくる。一茶は肩を回して笑った。

「大丈夫。ちょっと集中力がいるから疲れるんですけどね。まぁ、あんまり顔を上げられないので、そのへんは大目に見てください」

 一瞬視えたあの〝なにものか〟は、義母の部屋を棲家にしているからか居間にまで影響を及ぼしてはいなかった。先ほど、一茶が視たのは、よそ者の様子を窺っていたからだろう。

 一茶は緩やかに切り出した。

「今日ご主人は?」

「主人は会社勤めで平日は仕事を。夜まで帰ってきません。義父も仕事に出ています。定年後はタクシーの運転手を」

 また陵子は週に二回、近所のベーカリーショップでパートをしている。これについて義母とは一悶着あったようだ。琥太郎が小学校に上がるまで働きに出ることをなかなか許されなかったが、週に二回という約束でなんとか許してもらったという。

 昨夜の様子から、彼女がこの家で窮屈な暮らしを強いられていることは明白だった。訥々と語る陵子は時折「このこと、誰にも言わないでくださいね」と念押ししてくる。

「じゃあ次に、猿の人形を壊した時のことを教えてください」

 出された麦茶を飲みながら一茶はのんびりと言った。その際、チラと陵子を盗み見る。しかし、絶対に目を合わせはしなかった。本題に入り、陵子がつばを飲む音が聞こえた。

「はい……えぇと、猿の人形は義母が工芸教室で作ったものだったんです。味のある猿の顔を描いてました。形は登霧名物土産の『お座り猿』と同じポーズで」

 お座り猿は篠宮町で取れる粘り気のある粘土を使用し、職人の手作業で作られる工芸品だ。大きいもので台座を合わせて全長三十センチメートルほど。真っ赤な顔をした猿は虚空を見つめており、ちょこんと膝を抱えて座っている。土産物屋に行けばミニサイズの陶器人形やキーホルダーになっているほどこの町での知名度は高い。

「なるほど……取り立てて怪異になるようなものじゃない」

 そう言うと横で富由がホッと安堵する。どうやら彼女も似たようなものを持っているらしいと、一茶は頭の中で勝手に推察する。そして、しれっと言葉を付け足した。

「ただ、魂の入れ物としては上等。中が空洞だからさ。手作りならそれなりに情もあるだろうし、念がこもりやすい。そいつを割ったのが琥太郎ってわけだ」

 陵子と富由は口を噤んだ。ピンと糸を張るような緊張が彼女らを支配する。対し一茶はのんびりと続けた。

「義母さんがご存命の時に割ってしまった。これを見た義母さんは琥太郎を叱ったと。その時のことをできるだけ詳しく」

「は、はい……ええっと、パートから帰ってすぐでした。琥太郎を叱る義母の声が聴こえたんで、すぐに駆けつけると義母が琥太郎に手を挙げて……私は咄嗟に琥太郎をかばいました。すると義母は」

 ──陵子さん、やっぱりお仕事辞めたらどう? 子供のしつけができないでしょ。あたしが手を挙げないで済むようにしてちょうだいな。

「そう言われて、ついカッとなって私も言い返してしまって……」

 ──子供に手を挙げるなんて信じられない! 許せません!

「しばらく口をきかず……でも、それは昔からなんです。いつものことだと思って私も意地を張りました。その一週間後、義母は脳梗塞で倒れてそのまま亡くなりました」

 還暦を過ぎてから体調が良くなかったらしい。それでも早すぎる死だった。今にして思えば義母の死も猿の人形を壊したことから始まっているのかもしれない──と彼女の声音から、そんな心象が窺える。

「謝るタイミングを失いました。まさか、そんな急に亡くなるなんて思わなくて」

 陵子は声を潜めて言うと、昨夜の一茶の話を思い出したか懺悔するように独りごちた。

「祟るなら私に祟ればいいのに……どうして琥太郎なの」

「んー、そうですねぇ……そもそも琥太郎は、なぜ義母さんの人形を壊したんですかね?」

 一茶は油性ボールペンのノックカバーで顎を掻きながら訊いた。陵子がハッと息を飲む。

「そう言えば、なぜでしょう。あの時は気が動転していて理由を聞いてませんでした。ただ琥太郎は『わざとじゃない』と言ってて、私は『気をつけなさい』と言ったきり、あまり叱らずにいて……確かに不思議です。あの子が義母の部屋に入る理由が見当たらない」

「生前の義母さんに懐くとは考えにくいですもんね」

「はい。義母はしつけに厳しくて。それに義母が私を叱る時なんかも琥太郎は部屋の隅っこで泣いて……思えばかわいそうなことをしました。私が不甲斐ないばかりに」

「なるほど、わかりました」

 一茶は手帳をパタンと閉じた。リュックから数枚のコピー用紙をまとめたクリアファイルを出す。ステープラで綴じた資料をテーブルに広げた。

「うちの蔵書のコピーです。猿に関する古い話がここに」

 問いに簡潔な説明をし、一茶はペン先で資料の一ページ目を指した。スマートフォンのカメラで撮影したそれはかなり古い紙でこしらえてあり、文字も達筆なので読みにくい。

「うちの先々代がその土地の老人から聞いたらしく、かなり古い文献になります」

「へぇぇ」

 陵子と富由が同時に感嘆する。

「ちなみに志垣さんのお名前は『陵子』さんでしたよね」

 一茶は手帳に「陵子」と書いていた箇所をペンで叩いた。陵子はしどろもどろに答えた。

「はい。御陵町の『陵』と同じです。こざとへんの。それが何か?」

「なんだか含みがあるなぁ。なんなの?」

 富由も訝しげに訊く。

「生まれた町と同じ字──御陵町は海の町だ。もしかすると、この話と相性がいいのかもしれないなと思って」

 一茶は資料にペンを立てた。読みにくい文字をペンでなぞりながら文献を口に出して読む。

「海岸沿いに住む、とある家が怪我した猿を一匹飼っていた。やがて猿は快復した後、家主にこう言った」

『コノ御恩ハ、決シテ忘レマセン』

 そして猿はその家の子供を攫った。

「猿は子供をエサにして山の獣を狩った。その獣を世話になった家に運んできたそうで、怒り狂った家人は猿を殺す。そういう結末」

「うわぁ、ひどい話」

 富由が小声で呟く。陵子は何も言えずにいる。一茶はさらにページをめくった。ここには神野蒐集録をいくつかピックアップしたものを一ページにまとめている。

「ここで重要なのは人が獣に対して抱く『憤怒』。この猿を許すまいと人は語り継いだ。また、いくつか別の事例をピックアップしました」

 一茶はさらにページをめくった。三ページ目は猿にまつわる俗信をまとめている。

「そもそも猿というのは不吉なんですね。猿という音が『去る』を連想させるので忌まれる。反面、猿は神様でもある。鬼門には猿を置くと良いなど。要するに怒らせると面倒なだけで」

 一茶はここまで陵子の話を頭で咀嚼しながら説明している。話しながら今回の事象と物語が徐々にリンクしていく感覚があった。陵子が義母に放った言葉──「許さない」が脳内でぐるぐると渦巻く。

「なんか、おばあさんと猿が重なるんだけど、私の気のせい?」

 一茶の思考を読んだように富由が苦笑しつつ横から割り込んだ。陵子は笑わず、その様子から一茶はため息混じりに言葉を紡いだ。

「まぁな。琥太郎の『夜泣き』は、あなた方の『憤怒』と『猿』が混ざったもののせい。しかし、これを家に縛り付けているのは陵子さん、あなたが義母さんを赦せないその心が原因なんじゃないかと、俺はそう考えます」

 導き出した解を放つと、途端に陵子の体からふわりと何かが香った。鼻腔に届くのは〝なにものか〟が放つ甘酸っぱい独特なニオイ。正体を見破ったことで〝なにものか〟がたちまち姿を現していく。

 ──当たりだ。

 今、彼女を視ると失神する。視てはいけない。その家訓が脳裏によぎり、一茶は顔が上げられない。

 しばらく痛い沈黙が漂った。やがて陵子は声を詰まらせながら言う。

「……私が禍を招いたということですか?」

「まぁ、大まかに言えば」

「私のせいで琥太郎が辛い目に?」

「陵子さん、自分を責めないでください」

 富由が身を乗り出し、口を挟んだ。

「そりゃ琥太郎くんがかわいそうだもん。おばあちゃんを許せない気持ち、わかります。うん。陵子さんは悪くない!」

「富由……」

 ついたしなめるも一茶も富由に同意見ではあった。ため息をつき、言葉を選ぶ。

「許せないから恨む。それで救われるなら、それでいいと思う。でも〝なにものか〟に隙を衝かれてしまった以上は、向き合わなくちゃいけない」

 手遅れになる前に処置しなければ、琥太郎だけでなく陵子自身もどうなるかわからない。〝なにものか〟を抱えるには彼女のか細い体では頼りない。

「陵子さん、義母さんは亡くなったんです。このまま心が恨みに囚われたままだと琥太郎がかわいそうだ」

 すると陵子はこくこくと頷いた。テーブルに小さな滴が落ちていくのがわかった。

 これまで数々の重圧を抱えていたのだろう。義父や夫も味方になってくれない。義母の支配が延々と続き、心が疲弊した挙げ句の災難だ。彼女は気づかぬうちに〝なにものか〟の好物となった。すり減る心に比例して恨みが蓄積されていく。毎日を平穏に生きるだけで精一杯で、息子を案じつつも肝心なことはよくわからない。

 いくら「自分を責めるな」と言い聞かせても、彼女はこれからも自責を抱えるのだろう。そんな未来を想像してしまい、一茶はさらに言葉を続けた。

「だが、これだけは言える。義母さんの死は天命によるものです。あなたのせいじゃない。誰が悪いとか、そういうのは考えなくていいですから」

 そう言ってすぐ、一茶は自嘲する。気休めだろうか。

 陵子はそれからも静かに洟をすするばかりだった。


 ***


「なーんか、随分と時代錯誤な気がする」

 一旦、玄関から出て佇んでいると富由がポツリと言った。ここから海は見えないが、太陽が海へ向かって眠りにつく様子が窺える。

「時代錯誤?」

「うん。亡くなったおばあちゃんみたいな人、今どき、どうかなーって思うよ。孫に手を挙げるわ、お嫁さんを叱るわ、働きに出るのも許さないとか、ひどくない?」

「そうだな……古い考えではある。でも、案外気づかないもんだよ。自己が完成してるからさ、その人にとっては正義でもある。ばあさんの人生を否定する筋合いもない」

「うーん、でも……」

「まぁ、これからの生活については俺のあずかり知らんところだ」

 そう慰めても富由は不満げだった。

 まだらな茜と群青に染まる空の中、カラスが鳴き、コウモリがパタパタと数匹はためく。蟲のように不規則な動きで空を駆けるコウモリを一茶はぼうっと見つめた。

「……陵子さん、おばあちゃんのこと許せるかな?」

 富由が寂しげに言う。

「んー……それは彼女次第かなぁ……」

 考えた末になんの捻りもない言葉が出てきた。すかさず富由が鼻を鳴らす。

「納得いかないなぁ。だいたい〝なにものか〟って、なんで人に悪さばかりもたらすの? 本当、迷惑なんだけど。これじゃあ陵子さんがかわいそうだよ」

「〝なにものか〟だけのせいじゃないよ」

 一茶は諌めるように声音を落として言った。

「人の思念が形になり境界が曖昧で輪郭がなく面倒で厄介なものとなった場合、それは起きる。人にとっては不都合なだけで、あいつらはそうじゃない」

 所詮〝なにものか〟にとっては人の問題なんてどうでもいい。彼らには彼らの主観がある。多肉植物が虫をおびき寄せるように、ごく自然な現象の一つとして存在しているだけに過ぎない。魂と混ざった時にだけ起こる不都合──人が語り継ぐ理由は〝なにものか〟を理解できないからだ。

「ま、理解なんて出来んよな……」

 言葉にすると、なんとも切なくなり、一茶はため息をこぼした。富由は面白くないのか、ぷっくりと頬を膨らませる。

「お待たせしました」

 ようやく玄関の戸が開き、陵子が声をかけてきたが一茶はすぐに振り向かなかった。背中だけで彼女のまとう空気が清浄かどうか感じ取る。

 どうやら彼女は一茶の言う通り、義母の仏前で禊を行ったようだ。ただ手を合わせて心を鎮め「許します」と口に出す。それだけのことだが彼女の心は長いこと迷っていたようだ。しかし、あの鬱屈とした霊気が家からさっぱり消えていたところを見ればもう〝なにものか〟とは完全に断ち切れていた。

 ただ問題はまだ残っている。一茶はゆっくり振り向いたその足で琥太郎の部屋へ向かった。

「琥太郎ー、ちょっといいかー」

 ドアの前で声をかけるも返事はない。

 〝なにものか〟は現象を起こし、モノノケを生み出す。〝なにものか〟は意思を持たない流れものだが現象の結果として残るモノノケは意思を持つ。ゆえに彼らはまったくの別物であり、モノノケにはモノノケの対処が必要だ。

「……やっぱダメだな」

 しばらくドアに耳をつけて待っていたが反応がない。一茶はズボンのポケットに突っ込んでいた資料をめくった。

「えぇっと、猿と夜泣きに関するものがあったはず……あ、あったあった。とりあえず、これを試してみるかな」

 リュックから和紙を取り出し、資料に記述された文言をそっくりそのまま筆ペンで書き写した。富由が覗き込もうとするが避けるように背を向ける。書き終わり紙を折りたたんだら、傍らにいた陵子へ差し出した。

「はい、これを琥太郎の布団の下に入れといてください」

「はぁ……なんです、これ?」

「おまじない。これでダメだったら、また呼んでください。メールでも電話でもいいんで。すぐ駆けつけます」

 愛想よく笑うと陵子は怪訝ながらも「はい」と返事し、柔らかな笑顔を見せた。


 ***


 田園はそろそろ耕され、土の香りが広がるだろう。しかし陽気な空気はそう頻繁に訪れない。登霧のという名の通り、ここら一帯は基本的に空がモヤモヤしている。その日も陽光が白かった。

 蒐集録のデータ化作業を一旦中断し、気晴らしに庭の草刈りをしている最中、ふと背後から自転車を押してくるタイヤの音がした。チラと振り返る。

「こんにちは」

 そこには恥ずかしそうに顔を強張らせる琥太郎がいた。

「こんにちは……ということは、元気になったか」

「はい」

 しっかりと答える少年に一茶は安堵して笑った。手を止めて立ち上がり、軍手を外して琥太郎の頭を撫で回す。

「顔色もいいな。あれからよく眠れてるか?」

「はい。ありがとうございました」

 琥太郎は自転車のハンドルにぶら下げていた紙袋を差し出してきた。

「お母さんがお礼にって。ほんとは一緒に来る予定だったんだけど、おれが一人で行きたいって言ったから一人で来ました」

「そっか、偉いなぁ。ま、上がんなよ。一緒に食おう」

 そう機嫌よく言いながら一茶は紙袋を開けた。登霧名物ざらめ煎餅とポテトチップスののり塩味が二袋。値段が高いプレミアム仕様のポテトチップスだ。これはコンビニにはなく、田園を抜けた小町のスーパーまで行かないと手に入らない。一茶は誰の差し金かすぐに思い当たった。

「富由のやつ、志垣さんにちゃっかり吹き込んだな」

 そうぼやきながら琥太郎を家の中へ招き入れた。

 井戸水で淹れた緑茶を出し、さっそくダイニングテーブルに菓子を広げる。ポテトチップスは一袋だけ残しておき、戸棚に仕舞った。

 琥太郎は礼儀正しくダイニングテーブルにつくと、差し出された茶をありがたそうに受け取った。

「このお茶、美味いだろ」

「はい」

「煎餅も遠慮なく食えよ」

「はい」

 琥太郎は母に似た面差しで遠慮がちに煎餅の個包装を破った。一茶も席につき、煎餅を開ける。しばらく二人でパリパリと小気味いい音を鳴らしながら食べる。

 空気が馴染んだところで、一茶はまるで旧友を相手にするかのように言った。

「ところでさ。おまえ、なんでばあちゃんの猿を壊したの?」

 琥太郎の動きが止まる。しかし、一茶の笑顔を見ると緊張はすぐに解けたようだった。「うーん」とためらうように唸っている。

「じゃあ、当てようか。ばあちゃんがお母さんのことをいじめるから、じゃないか?」

 なんとなく助け舟を出してみると琥太郎は両目をしばたたかせた。

「なんでわかるんですか?」

「いや、なんとなくだよ。まさか一発で当たるとは思わんかった」

 昔から妙に鋭いところがあり、勘が当たることが多いだけだった。そんな一茶に琥太郎は羨望の眼差しを向ける。

「霊能者ってすげー」

「んー……別にそういうわけじゃないんだけどな……近いけどさぁ」

 おそらく母からそう教えられているらしいことが垣間見れ、一茶は苦笑を漏らした。

 琥太郎は輝きに満ちた目を徐々に伏せていき、煎餅にかじりついた。ゆっくり噛んで飲み込み、茶を飲んでから話し出す。

「おばあちゃんはお母さんと仲が悪かったし、おれも嫌いだったし……あの日、おばあちゃんが電話で友達か誰かに、お母さんの悪口言ってたのを聞いちゃって」

「あー、それはキツイなぁ」

「はい。だから、ムカついてしまって……ごめんなさい」

 琥太郎は逃げるように侘びた。

「いや、俺に謝らんでいいよ。でもばあちゃんには謝っとけよ。仏前に手を合わせてな」

「……はい」

 琥太郎は拗ねたように唇を尖らせたが、あの恐ろしい体験をしたからか渋々ながらも頷く。そんな彼がかわいく思い一茶は笑いながら慰めた。

「お母さんをいじめるんだから許せないよな。しょうがない。おまえはお母さん思いなだけだよ。それは咎められることじゃない」

 そう言って煎餅をかじる。あっという間に一枚が口の中へ消える。

 琥太郎は「えへへ」と照れくさそうに笑った。その笑顔を見れば、もうこの件は解決したも同然だ。

 一茶は満足し、再び煎餅の個包装を開けた。

「これ、昔から好きなんだよなー。ポテチも食おう。俺、のり塩が好きなんだ」

 人懐っこく言えば琥太郎も気が抜けたようで、かしこまった態度をやめた。だんだん打ち解けていく。そうして、しばらくダイニングには菓子をかじる音と少年の笑い声が響いていた。

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