担任の先生はお兄ちゃん 〜夏休み編&修学旅行編〜

明音

プロローグ

「こないだのワークシート、今日提出だぞー」



七月。期末試験も終わり、

今は修学旅行の事前学習で大忙しだ。

行き先は北海道。アイヌ文化を学び、

大きな自然と美味しいものを味わえる。



「函館の朝市か〜行きたいなあ」

「奏美って意外と食べるの好きだよね」

「え?意外?」

「うん」

「晴香に意外って言われるのか…それこそ意外」

「なにそれ笑」



北海道に行って帰ってきたら、

クラス内で班ごとに学習したことを発表する。

それの班分けや準備で一学期は終わりそう。

もちろん私の班のメンバーは…



「奏美〜!パソコン借りてきたよー!」

「ありがとう!智也!」

「あ、待って、充電コード忘れてきた」

「ちょいちょいちょい…」

「じゃあ俺取ってくる」

「えーっ!さすが佳月くん!!!」

「あーはいはい…」



いつも通り、この三人である。

田宮佳月、三本智也、芦野晴香。

私の大切な大切な、親友たち。



あれから早くも一ヶ月半が経った。

クラスメートのみんなを

私たちの"嘘"に巻き込んだことは

今でも申し訳なく思っている。

でも、そのおかげもあってか

最近は陰口を言われることも減って

周りとの関係は実に良好そのもの。


ただ、三人にはまだ話せていないことがある。

それは私と将にいの本当の関係について。

何度も言わなくてもいいかと思っては

やっぱり伝えておかなきゃと思い直して、

未だに話すタイミングを見つけられていない。



「奏美さん?」

「えっ?…あ、先生」

「大丈夫?ボーッとしてたけど」

「だ、大丈夫です…」



相変わらず、よく見ている。

誘拐事件以降、ますます心配性になった将にい。

そりゃそうなるとは思うけど、

時々隠しきれないほどのオーラを纏っているから

なんとか落ち着いてもらわないと…。


そんな将にいとは、変わらず兄妹でありながら

密かに恋人同士でもある。

というのも、私達は至ってプラトニックな関係なのだ。

もちろん家では、それなりに、こう…

なんて言うの?…いちゃいちゃ?する、けど

その先には進んでいない。

お互い誘わないし、誘われないし、という感じ。

今はそれでいいと思っている。

だからってそれを恋人と呼ばないのかと言われたら

それは絶対に違うと思うし。

将にいもきっと、同じように考えていると思う。



「明日は終業式なので、正装を忘れずに!

 配るものも結構あるから、その辺よろしくねー」



もうすぐ夏休みだ。夏は、暑いから苦手。

でも、今の私と将にいにとって初めての夏。

何か新しい事が起こるかもしれない。



「奏美さん?聞いてます?」

「えっ!?あ、ごめんなさい」

「学級委員の人はどちらか1人残ってほしいんだけど…」

「でも智也は部活だよね?」

「うん、だからお願いしていい?」

「全然いいよ

 先生、私が残ります」

「すぐ終わるから…

 じゃあ号令〜!」



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「一組の学級委員が代表で挨拶、ねぇ…」

「そういうことらしい」

「なんか面倒臭いね」

「それは俺も思ったけど…仕方ないよね」

「大丈夫、智也にやらせるから」

「いいの?それ」

「どうせサッカー部の顧問が知ったらやらせるよ」

「まあ…確かにやらせそうだな」



修学旅行で訪問する博物館で学級委員が代表して

初めと終わりの挨拶をしなければならないらしい。


将にいも一応、サッカー部の副顧問だ。

あの顧問が、率先して部員に仕事をさせがちなのは

傍で見ている将にいもよく知っている。



「あ、そういえば、今日の夜ご飯なにがいい?」

「ちょ…ナチュラルにここで聞くなっ」

「いいじゃない、誰もいないし」

「それはそうだけど…」

「で、何かリクエストある?」

「うーん…

 あ、またあれ食べたい、あれ」

「あれって?何だっけ?」

「ほら、先週作ってくれた、素麺のやつ!

 あれめっちゃ美味しかったからまた食べたい」

「あー!あれね!おっけー」



好きなものは延々と食べるタイプの人だからね。

すごいときは三日連続で同じものを作った気がする。


軽く手を振って、教室を出ると



「奏美ーーー!!!!!」

「わあっ!?えっ晴香!?!?」

「ふふふっ、びっくりしたー?」

「そりゃあ…まあ…

 心臓止まるかと思ったよ……」

「ごめんごめん

 お取り込み中かなと思って廊下で待ってた♡」

「何もお取り込み中じゃなかったけど…」

「まあまあ、それよりちょっと

 帰りながら聞いて欲しいことがあるんだけどっ」

「聞いて欲しいこと?」



悪戯を仕掛けるアメリカ映画の子どもみたいに

晴香は瞳をキラりと輝かせていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る