第17話 雨の日の出会い
受験申し込みが無事終わり、試験まであと数日となったある雨の日。優季は宿の部屋で休んでいた。
「ううう…。やっぱり来ました、女の子の日が。じくじく痛むのはつらい~。でも試験に重ならなくてよかったよ~」
マヤが生理用品をたくさん持たせてくれたので、その点は心配ないとは言うものの、体がだるく、動くのが億劫なことには変わりはない。ベッドに横になりながら、改めて受験のしおりを開いてみる。
「ええと、前に聞いた話だと1日目は筆記試験で、2日目が実技だったな。ボクは剣術を選択しよう。ボクの魔法は使わないことにこしたことはないし」
筆記試験の内容を見る。
「筆記試験は、えと、文学、算術、歴史か…」
「ん…、歴史?」
「歴史って、ロディニア王国の歴史だよね。あれ、おかしいな。迷宮にあった歴史の本にはロディニア王国のことなんて書いてなかったような…。あ~~~っ!」
「おじさんの生きていた時代って、今より1000年前じゃないのぉおお!アホかあの即身仏!何が『これを読んでればよい』だよ! だめじゃないのぉ!」
「どうしよう、そうすればいい? 考えろ、考えるんだ優季!」
優季はベットの上で悶絶する。
「そうだ、王都なら図書館! 図書館があるはず! お腹は痛いけど、行くしかない」
優季は急いで着替えて、1階の受付のお姉さんに図書館の場所を聞き、傘を借りて宿を飛び出した。
雨に降られて気温が下がっている。お腹の痛みがつらくなるが、我慢して10分ほど大通りを進み、中級市民エリアに入る。中級市民エリアの西側区に国立図書館があった。
入り口で入場料の大銅貨1枚を支払って中に入った。図書館は2階建てでとても広い。目的別に並べられた本棚の区域と、机と椅子が並べられた閲覧場所がある。今日は雨の日なので利用者はまばらだったが、暖房の魔具が置かれていて、室内が暖かいのは助かった。
時間がもったいないので、早速目的のロディニア王国の歴史に関する本を探す。
「ああ、あったあった。よかった~、やっぱり王都。歴史って言っても結構あるな」
適当に何冊か選び、閲覧場所で読み始める。
「ぐぐ…、人名地名、年代ごとの出来事が多くて覚えるのが大変だ。でも、覚えなきゃ。がんばれボクの脳細胞!」
優季が歴史書と格闘していると、不意に声をかけられた。
「歴史の勉強をしていますの? あなたも受験生?」
「はい?」
優季が顔を上げて声をかけてきた人物に目を向けると、そこには、キレイなドレスを着た女性が優季を見下ろしていた。女性は同年代くらいで、長く美しい金色の髪、色白で長いまつ毛の切れ長な目、深い青の瞳をした美人だった。
(び、美人だ。誰この人?)
優季が見とれていると、相手はあわあわして自己紹介して来た。
「あっ、ごめんなさい。私、フィーア・オプティムスといいます。私も受験生ですのよ」
「実は私、王都に来るの初めてでして、友達もいなくて…。もし、王国高等学園の受験生でしたら、お友達になっていただけないかな、と思って声をかけたのですけど…、ご迷惑でしたかしら」
優季が呆けてフィーアと名乗った少女を見つめている。
「…あの。どうかしました?」
「あ、あの、えと、びっくりしちゃって。ボ、ボク、ユウキ・タカシナっていいます」
「ボクも受験生で、王国の歴史がちょっと? ではないくらい不安だったから、あわてて一夜漬けしようかなと、図書館に来てました。たはは」
「フフ、面白い方ですのね。よかったら一緒にお勉強ましょうか」
「え、でも、悪いよ」
「いいんですのよ。私もおさらいがしたくて図書館に来てみたのですし」
「じゃ、お願いしようかな。実は、さっぱり覚えられなくて、はは…」
「ふふふっ」
フィーアは物知りだった。優季に年代、出来事、関わった人物ごとにポイントとなる部分を教えてくれ、優季はとにかく持ってきたノートに書き写す作業に没頭した。
2人が勉強を始めて大分時間が経ち、日が沈みそうになる時間となった。
「いや~、ホント助かりました。後はこれを丸暗記するだけです!」
「私もユウキさんに知り合えてよかったです。今度は試験場で会いましょう」
優季が力いっぱいお礼を言うと、フィーアは笑いながら再会を約束し、出口に向かった。図書館の外には付き人と思われる騎士が何人も経っていて、立派な馬車が迎えに来ていた。
「凄い馬車。貴族様だったのかな」
「ボクも帰ろう」
昼間降っていた雨はやんでいたが、かえって寒さが身に沁み、お腹に来るので急ぎ足で紅水亭に向かうのであった。
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