キャバ嬢廃業?

第84話 決着ついたんですね

「曉子さん、ようやく連絡ができるようになったよ。来週には職場に復帰だね。いろいろと大変だとは思うけど、心構えは大丈夫かな?」

 僕は提案書をまとめて吉永部長にメールを送った翌日、週明けに職場復帰を控えた曉子さんに電話を掛けていた。

 曉子さんには悪かったんだけど、仕事に集中しないと、きっと吉永部長を助けることなんてできないと思ったから、少しの間連絡できなくなるかも、と伝えてあったんだ。


「悟さん、正直入社してすぐに休んでしまって、同僚の方々にどのように思われているか想像すると少し怖いです。ところで叔父から聞きましたよ。上手く価格交渉の件は決着ついたんですね?」


「う、うん。何とかね」

 本音を言えば、後で聞いた話だけど、阪下さんが吉永部長に「根回しのような話ではありません」と言いながら思いっきり根回しして都賀常務を包囲したのが勝因だっただけで、僕は結衣香のシナリオに沿って説明役を全うしただけだから自分の力のなさを痛感させられただけのような気がした。


 そんな気持ちでいることを曉子さんに伝えたら、

「それは悟さん、考えすぎですよ。役割を全うするだけでも凄いことだわ」


「曉子さんにそう言ってもらえて、すごくうれしいよ。ありがとう」


「そんな。悟さんはいつも謙遜するから」


「そんなことはないよ。話は変わるけど、お父さんの引っ越しをお手伝いしたあと少し会えていなかったから、できれば土・日どこかに出かけようか? 体力は大丈夫そう?」


「ええ、それは問題ないです。あ、そうだ。会社の同僚の方々にご迷惑をおかけしたので少しお菓子をお配りしたらどうかなって思っているんですけど、それを買うのに一緒にお付き合いしてもらえますか?」


「いいね、もちろんだよ。じゃあ、明日がいいかな? どこで待ち合わせをしようか?」


「そうですね、日曜日よりは明日の方がもう一日あるので焦らなくていいかも。それに……」


「それに?」


「いや、いいです!」


「えー、気になるよ。ちゃんと言ってほしいな」


「土曜日に用事を片付けてしまったら、日曜日は、悟さんと用事なしで気兼ねなく、ずっーと一緒に居られるかなって」

 曉子さん、そんな可愛らしいことを言われたら、久しぶりに……そう、あの早朝の電車の中での初めてのキスの時みたいに、心を鷲掴みにされたような気分になりましたよ?

  

 僕は嬉しさのあまり、暫く答えることができなくて沈黙してしまった。


「あ、あの、悟さん? わ、私ものすごく図々しいことを……」


「ち、違うんだ! そんな嬉しい事言われると、なんか答えに詰まっちゃって。ごめんね。上手く言葉にできなくて。でも、ものすごくうれしかった」


「一緒に、居てくれますか?」


「こちらこそ、一緒に居てほしいですよ? なんたって、曉子さんのお父さんに、結婚宣言までしてしまったんですから。僕は。」


「電話をしているだけじゃ、私、我慢できなくなりました。早く悟さんに会いたいです。なんだか我がままでごめんなさい」

 それは、僕のセリフだよ、曉子さん。


「それから、叔父を救ってくださったお礼もしないとですよね! わたし、腕によりをかけて何か料理しますね! 楽しみにしていてください」

 この数日間で起こった事は、僕の一生の中でも本当に大切で、絶対に忘れることができないものばかりだった。


 曉子さんのお母さんに交際を許してもらった事。

 

 曉子さんのお父さんに、結婚することを宣言したこと。


 都賀常務の顔を潰すことなく吉永部長の立場を助けられたこと。


 全部自分一人ではできなかった。

 いろいろな人の助けで出来たことかもしれないけど、きっとどこかに神様は居てくれているんだなって、そう思えてならなかった数日間だった。


 この幸運を曉子さんの幸せのために絶対に生かしてみせるから。

 

 明日の土曜日、曉子さんの同僚へのお詫びの品を買いに、銀座に行く約束をして電話を切った。



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