第113話

「ディーン、バーナード、土の魔法は得意?」


 ディーンとバーナードは顔を見合わせてそれから「そこそこ?」と同時にいった。

 魔物を倒した時に流れた血で地面が汚れてしまった。ここで食べるにはちょっと抵抗があるだろう。だから、もう少し奥のほうに向かおうと思うのだけど、その前に血の跡くらいは隠しておこう。ふたりにそうお願いすると、土魔法を使って血の跡を消してくれた。

 わたしはもう一度杖を握って、目を閉じる。土魔法を使うと、ぴょこんと小さなゴーレムが出てきた。わたしはそれを動かして、魔物たちが倒れたところに置く。


「……うまい具合に血の痕跡も隠せたね」


 お前がやれっていったんだろ、というようなバーナードの視線が刺さる。それを気にするわたしではないので、ササとセセの元に向かった。


「怪我はしていない?」

「大丈夫!」

「ササもセセも強い!」


 エッヘンと腰に手を当てて胸を張るササとセセに思わず破顔した。かーわーいーいー! それにしても……初めてササとセセが戦うところを見たけれど、思っていた以上に強かったわ。ちゃんと見えているのね、攻撃。


「うん、すごかった! 格好良かったよ!」


 わたしがそう褒めると、ふたりとも嬉しそうにブンブンと尻尾を振っていた。もっと褒めて! 褒めて! っていっているみたい。


「ディーンとバーナードもご苦労さま! お昼はもう少し奥に行ったところにしましょう。さすがにここで食べるのは……ね」

「……まぁ、そうだな。それじゃあ、もう少し奥に行く。馬車に乗ってくれ」

「乗る!」

「馬車!」


 ササもセセもすっかり馬車が気に入ったようだ。ディーンはバーナードに「交代しようか?」と声を掛けたけど、バーナードは「あとでな」と口にして御者を続行するらしい。


「それじゃあ、アクア、乗ろうか」

「うん」


 馬車の扉を開けると、ユーニスが「……あの?」と不安そうに尋ねてきた。わたしはひらひらと手を振りながら、


「ごめんね、お昼ご飯はもう少し奥に行ってからにしよう」

「は、はい……」


 窓から見えていたのだろうか……。少しぎこちなく視線を逸らす。ディーンはすっと彼女の手を取って、頭を下げた。


「申し訳ございません、ミセス・リックウッド。突然のことで驚いたでしょう」

「え、ええ……、今のは……?」

「大き目の魔物がいたので、退治しました。この辺にも町がありますから」

「……そうだったのですね……。みなさま、お怪我は……?」

「全員無傷! ごめんね、ひとりにして」

「……いえ、……アクアさまも戦われたのですか?」


 ……あれを戦った、といっていいのかしら……。わたしが返答に詰まると、ディーンが代わりに答えた。


「はい。彼女はとても優秀な『聖女』でもありますから」

「ディーン……」


 優秀……かどうかは知らないけれど、聖女という言葉にユーニスの表情が陰った気がした。でも、すぐに気を取り直したようで、すぐに明るい笑みを浮かべて、


「みなさまがご無事で安心しました。気を遣っていただいて、ありがとうございます」


 といってくれた。

 ……わたし、正確には貴族教育を受けている王族の血を引くもの、ってだけで、……無職なんだけどね……?

 だって聖女として働いていないもの。……ああ、これからそういう問題もどうにかしないといけないのか……。

 思わず遠くを見つめるわたしに、みんな不思議そうな顔をしていた。

 バーナードが数十分くらい走らせて、馬車を停止させてから「ここは?」と聞いて来た。

 わたしは馬車から降りて目を閉じ、瘴気の気配を探る。……さっきの場所と近いから、そんな気配は感じなかった。


「大丈夫みたい。ここでお昼にしよう!」

「そうだね」


 みんなが馬車から降りて、わたしはバスケットを広げる。セシリーたちが頑張って詰めてくれたものはどれも絶品だった。


「……アクアさまは、聖女を目指しているのですか?」

「目指してはいないけど……」

「そう、ですか……。いえ、なんだか不思議ですね。ステラさまに一番似たのが孫のアクアさまとは……」


 隔世遺伝というやつかしら? ……でも、この力って遺伝なのかしら? だって、神力しんりょくって誰に芽生えるのかさっぱりわからないもの……。

 神に仕えてた人が子どもを産んでも、その力は継がれるかどうかわからないって、聞いたことがある。……だから、余計に不思議よね。


「神殿に行ったことはありますか?」

「帝都の?」

「はい」


 ふるふると首を横に振ると、「そうですか」とちょっと残念そうに眉を下げた。神殿になにかあるのかな? とも思ったけど……。ちらっとみんなを見ると、みんなそれぞれお昼ご飯を食べていた。ササとセセはとてもはしゃいでいるように見える。


「……淡い光が見えました。ステラさまが見せてくれた力と同じような……、そんな光が」


 ……ああ、なぜか浄化の光はみんなに見えるようなのよね。これも不思議。瘴気は視える人決まっているのに。……神力を持つ人は瘴気が視えるみたい。他の人は視えないから、なんか肩が重いなーとか、空気が重苦しいなーって感じるようだけど……。


「それは浄化の光よ」

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