第111話
それからはお茶会のこととか、お母さまたちに捧げる花のこととかをみんなで相談した。いけるのなら、ウィルモット家にもいってみたい。ディーンがいうには、ウィルモット家の家令が屋敷を維持してくれているとかいないとか、魔物討伐隊でいろんなところに遠征していたから、詳しくはないと申し訳なさそうに表情を曇らせた。
屋敷のことはセシリーたちに任せて大丈夫だと思う。ココもついていきたそうにしていたけど、今回はお留守番をお願いした。コボルト音楽隊やフィロメナたちにもちょっとの間出掛けて来るね、と挨拶をしたり――旅の準備をして過ごしていると、あっという間に出発日になった。
朝起きて、身支度を整えてから礼拝堂へ向かう。最前列まで歩き、ステンドグラスを見上げるように顔を上げる。
「――今日から少し、出掛けてきます。屋敷の人たちのことを、どうぞよろしくお願いいたします」
そういってから手を組んで目を閉じた。いつものお祈りをしていると、礼拝堂の扉が開いた。起床してきた人たちが集まって来た。どうやら今日は屋敷の人たちが全員見送りのために起きてきたらしい。……ありがたいことよね。
「みんな、おはよう!」
「おはようございます、アクアさま」
「ああ、またアクアさまに負けた……」
「一体何時に起きていらっしゃるんですか……」
ちょっと悔しそうな人たちを見て、わたしは小さくクスクスと笑った。
「何時とは決まっていないわ、だって陽が昇るのと同時に起きちゃうから」
「……なんでまた、そんなに早く起きるようになったのですか?」
「朝が好きだからってことで!」
朝日を見るのが好きだった。元ダラム王国の神殿は森の中に建てられていたから、その光景を見るのが日課になっていた。……今思えば、ある意味逃避だったんだろうなぁ……山のようにある仕事からの。
「それじゃあ、みんなはお祈りしていってね。わたしは荷物を取りに行って来るから」
「はい」
みんなに手を振ってから礼拝堂を出る。……みんな結構神妙な顔をしていたけど、どうしたのだろう? ディーンとバーナードの姿も見えたけど、後でたくさん話せるから今は良いかな。ユーニスはどうやらここまで来るみたいだし……ええと、時間はまだあるのよね。
「ん~……と?」
自室に戻り荷物を手に取る。いろいろ入る鞄だから、たくさん持っていこう。なにがあるかわからないのが旅なのだし。……わたしは鞄の中から杖を取り出した。長いものでも空間収納のおかげでしまえる。
「……もしもの時はよろしくね」
きゅっと杖を握って目を閉じる。返事のように、杖から柔らかい風が吹きふわりとわたしの頬を撫でた。七歳の頃に初めて結界を張り直す作業の時に渡された杖だ。この杖にも、たくさんの思い出が詰まっている。結界を張り直す時だけではなく、使っていた杖だから。……とはいえ、あの日わたしが持って来たものは自分で手に入れたものばかりだから、杖は置いてきたのよね……。次の聖女が使うかもしれないし……と。
まったくそんなことはなかったようだけど!
「花祭り、か。どんなお祭りなんだろうね」
ぽつりと呟いて、それから杖を鞄に入れる。それと同時に扉がノックされた。
「アクアさま、リックウッド伯爵夫人がいらっしゃいました」
「はーい、今行きます!」
ユーニスには悪いけれど、集合時間は早朝にしてもらった。ユーニスの元に向かうと、彼女はわたしに気付いてにこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、ユーニス!」
「ごきげんよう、アクアさま」
「まだ出発まで時間あるから、食事にしよう」
「あら、私もご一緒してよろしいのですか?」
「もちろんよ!」
こっち! と彼女を案内し始める。食堂まで向かうと、今日から一緒に旅をするメンバーが待っていた。
「知っている人もいるかもだけど、改めて紹介するわ。ディーンとバーナード、それから、コボルトのササとセセよ」
「今日から少しの間、よろしくお願いしますね」
「なにかあったらすぐに教えてください」
「ササはササ! よろしく!」
「セセもよろしく!」
上から順にディーン、バーナード、ササ、セセだ。コボルトを見たユーニスは一瞬目を見開いたが、すぐに優しく微笑んで「お世話になります。よろしくお願いしますね」とカーテシーをした。
「簡単に食べられるものを用意してもらったの」
「ありがとうございます」
食堂に入り椅子に座ると、すぐに出てきた。サンドウィッチとサラダ、それからスープ。それらを食べて、セシリーからバスケットを渡された。
「昼食にどうぞ」
「ありがと! それじゃあ、屋敷のことお願いね。行ってきまーす!」
見送りは断った。そこまで長期間屋敷を離れるわけでもないし、大袈裟にしたくなかったから。食堂で別れて、馬車を用意してくるというバーナードを待つことに。すぐに馬車が来たから乗り込んだ。今日の馬車は人数が多いから大き目の馬車だった。
御者はバーナード、途中でディーンに代わるみたい。
「それじゃあ、出発!」
わたしがそう宣言するのと同時に、連絡鳥がやってきた。
『旅を楽しめるように祈っている。気をつけて行っておいで。土産話を楽しみにしている』
……まさかルーカス陛下から出発前に言葉を贈られるとは思わなかった。わたしはすらすらと空中に文章を書いて、連絡鳥を作り……ルーカス陛下の元へと送った。
『たくさん楽しんで来ます! 行ってきます!』
こうして、わたしたちの旅が始まった――……。
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