第100話:ルーカス陛下の誕生日パーティー

 水色に近い銀色の髪を結い上げて、ピンク色のチークや口紅をつけ、淡い紫色のドレスを身に着け、真珠のネックレスとイヤリングでゴージャスさをアップさせたわたしは。姿を見て思わず「……わぁ、別人」と呟いた。

 やりきったとばかりに袖で額の汗を拭くセシリーたち。

 今日はルーカス陛下の誕生日パーティー当日だ。友好国から来賓も来ているらしい。……わたしはルーカス陛下に「出席してくれ」と直接招待状をいただいたので、この姿のまま馬車に乗って目的地へ向かう。護衛として、ディーンとバーナードも一緒に行くことになっている。

 ……セシリーたちの気合が入りまくっていて、ちょっと複雑な気持ちになった。コルセットきついし、ハイヒール苦手だし。……ダンスがないことを祈るしかない。


「アクア、そろそろ行かないと」


 扉をノックする音の後に、ディーンの声が聞こえた。


「今行く! セシリーたち、ありがとうね!」

「いいえ、行ってらっしゃいませ、アクアさま」

「行ってきます!」


 自室から出ると、ディーンがわたしの姿を見て驚いたように目を見開いた。似合ってない? と不安になったけれど、すぐに笑みを浮かべて「とても綺麗だよ、さすがオレのレディ」と蕩けるような声色でいった。

 キャーッと後ろでメイドたちが黄色い声を上げた。……わかっているなぁ、このイケメンは。ぱちん、とメイドたちにウインクをしてから、


「屋敷のこと、お願いね」


 といってわたしをエスコートするために手を出した。わたしは肩をすくめて、「それわたしのセリフじゃない?」といいながらも、彼の手を取った。あの日、わたしのことをマイ・ディア・レディといってから、たまにこういうことをする。物語の騎士のような言動に、最初のうちは頭でも打ったのかな? と思ったりもしたけど、彼女たちへのファンサービス的ななにかだと気付いた。だって、ディーンのそれがあるかないかで彼女たちのモチベーションが大分違うのだ。


「……イケメンおっかない……」

「なにか言った?」

「なんにも!」


 まぁ、物語のような騎士を見られるのは結構楽しかったりするから、そのままにさせている。たまに、『なにやってんだ、こいつ……』とばかりにバーナードが呆れた視線を向けていた。

 そのバーナードは馬車を用意してくれているはずだ。わたしたちはその馬車に乗って、王城へ向かう。

 玄関を出ると既に馬車はいた。どうやら御者はバーナードではなく、別の人に頼んだらしい。


「……パーティー仕様?」

「そうよ。さ、行こう行こう」


 きちんとルーカス陛下に贈るハンカチはラッピングして持って来ているし、わたしたちが集まる時間は他の人たちよりも早い。なぜかというと、先にわたしの顔が見たいといわれたから。真顔でいわれると迫力がある。……どうしてわたしの顔が見たいのかわからないけど、パーティー前で緊張しているのかも? と想像してみた。

 ……ルーカス陛下が緊張するのかな? とも疑問に思ったりしたけど、まぁそこは会ってみてから判断すれば良いかなって。

 馬車に乗り込んで、王城を目指す。ここから馬車ではすぐにつくから、わたしは数度深呼吸をして心を落ち着かせた。


「……緊張しているのか?」

「そりゃあね。他の国の人たちも来るわけだし……」


 緊張しないほうがおかしいだろう。


「アクアの場合は、来年の予習だと思えばいいよ」

「……それもそれでちょっと……いやかなり、怖いんだけど……?」


 来年のわたしの誕生日、ルーカス陛下の誕生日パーティーと同じように数多の人を集めるってこと? ……そんなまさか、とはいえない気がして、わたしは思わず首を横に振った。

 ルーカス陛下に人数は最小限で、とお願いしておこう。

 そんな他愛のない会話をしていたら、すぐに王城についた。馬車から降りて、門番に招待状を渡して、中へと入る。……パーティーの準備に忙しそうにしている人たちがちらほら見えた。わたしはディーンとバーナードに視線を向けて、「行こうか」と声を掛ける。ふたりはただ静かにうなずいた。

 ルーカス陛下の居場所は、ディーンが知っているみたい。王城の部屋の多さには参ってしまう、全然覚えられない。

 ハイヒールを履いているからゆっくりとした足取りで歩く。早めに出てきて良かった。この靴にも慣れる感じがしない。


「ここだよ」

「……控室、的な?」

「そんな感じ」


 案内された場所は二階の最奥の部屋だった。ここにルーカス陛下がいるらしい。わたしが扉をノックすると、すぐにルーカス陛下の返事が聞こえた。


「ルーカス兄さま、アクアです」

「来てくれたのか、入ってくれ」


 ディーンが扉を開けてくれたので、控室へと入った。そしてルーカス陛下の姿を見て目を丸くした。普段と全く違う服装だったからだ。白のタキシードに髪型はオールバック、腰には聖剣セイリオスを帯びている。真っ赤なマントが特徴的だ。手には冠を持っている。今から頭に置くところだったのだろう、多分。


「……格好いいですね」

「衣装担当が張り切り過ぎた」

「……わたしのところもです」


 こういう時じゃないと着飾らないから、という理由で……。こういうところに共通点を見出して、ちょっとおかしくなった。

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