第55話:モフモフぷにぷにパーティー!

 そんなわけで、翌日早速元瘴気の森へと向かった。ディーンとバーナードも一緒だ。

 元瘴気の森へは転移石で移動した。やっぱりこの石便利だわ。使い捨てらしいけど、これを使い捨てに出来るアルストル帝国がすごいのか、魔法の発展がすごいのか、もうどっちもすごいで良い気がする。

 まぁ、それは置いといて……。


「……本当、様変わりしたなぁ」

「瘴気が消えるだけでかなり違うんだけど……、元々が酷かったから余計にそう思うのかも」


 あれだけ酷い瘴気なんて滅多にお目にかかることがない。あの日から一度もここに来ていないから、余計に森が綺麗に見える。うーん、この森って結構広そうだし、迷子になったら大変そう。森とか山……いや、川や海だって迷子になったら途方に暮れるわよね。


「アクアだー!」

「アクア、アクアが来たよー!」


 コボルトの子どもたちがわたしたちに気付いて、大声を上げて近付いて来た。わたしは両手を広げて走り出す。バーナードの「子どもか!」という声が聞こえたような気がするけれど、気にしない!


「みんなーっ、元気だったー?」


 ぴょんと抱き着いて来たコボルトをしっかり抱きとめて、思う存分モフモフを堪能する。


「あ、ずるーい」

「抱っこ、抱っこ!」


 他の子どもコボルトたちも抱っこをせがんで来た。ちらりとディーンたちに視線を向けると、彼らは一瞬びくっとしたように肩を揺らしたけれど、小さな子のおねだりを無下に出来ないみたいでひょいと抱き上げた。


「たかーい」

「すごーい」


 コボルトたちはとっても喜んでいた。そして、心なしかディーンたちの表情が……楽しんでいるようにも見えた。


「肉球触っていい?」

「いいよー!」


 お許しを得たので早速肉球を堪能させてもらう。ディーンたちの視線がちくちく刺さっている気がするけれど気にしない。ぷにぷにの肉球を痛くないように触る。触る。触る……。ああ、癒される……。ちょっとくすぐったそうにしたから、今度は柔らかい毛並みを楽しむ。きゃっきゃと笑うコボルトの子どもに癒されていると、ディーンに抱っこされているコボルトが手を上げた。


「アクア! 約束!」

「ゴーレム!」

「ちょうだい!」


 そうだった! とばかりに他のコボルトたちも手を上げる。……ああ、目をキラキラと輝かせて、手を上げるコボルトたちのなんと可愛いこと! もうこう、胸の奥からなんかぶわって出そうになる。かわいすぎて、本当もう……! もう……! 堪らないわ~……。……っと、そうじゃなくて。今日は約束を果たしに来たんだ。わたしの作るゴーレム、そんなに欲しいものなんだろうか……。ちょっと、いやかなり疑問に思うけれど、欲しいというからにはあげましょう! そういう約束だしね!


「作る前に、他にも欲しい人がいないか聞いて来ないとね」

「じゃあ森の中、案内する!」


 わたしが抱っこしているコボルトが両手をパタパタと振って、役に立ちたいとばかりに声を上げた。その子に道案内をお願いすることにして、歩き出す。とはいえ、本当に道案内だけで、抱っこしたまま歩いた。こういう時は履き慣れた靴のほうが歩きやすくて良い。

 そして辿り着いた先には、コボルトの村があった。匂いを辿れるみたいだ。ありがとうね、とお礼の気持ちを込めて頭を撫でると、嬉しそうに尻尾をブンブンと振った。

 大人のコボルトたちがこちらに気付いて、「アクアだ!」と駆け寄って来た。コボルトの長老はゆっくりと近付いて来た。長老の背は低いから、目線を合わせるために屈む。ぴょん、と抱っこしていたコボルトが抜け出してしまった。ああ、モフモフが……。


「アクア、良い森を紹介してくれてありがとう」

「……いや、この森どっちかといえば悪い森だったんだけど……」


 瘴気が満ちていた森だからね……。わたしが眉を下げて小声で呟くと、長老は首を傾げた。


「ここは魔物の心配もなくて、住みやすそうだ」

「……そっか、良かった。ええと、わたし、ゴーレムをあげる約束しているから、作っても良い? それと、この子たちは欲しいって言ってくれたけど、他にも欲しい人いる?」


 ……この森でディーンが重傷を負っていた、……というのは、いわないほうが良さそうね……

 長老に首を傾げて問うと、こくりとうなずいて了承してくれた。


「……全員分作ってくれんかのぅ?」

「構わないけど……とりあえず、いっぱい作ってみるね」


 どのくらい、コボルトたちがいるかわからないから、とりあえずいっぱい作ってみよう。

すっと立ち上がり、ゆっくりと深呼吸を数回。土魔法を使うのはあの時以来か。精神を集中させて――……。出番よ、ゴーレム! たくさん!

 と心の中で呟いて土魔法を使う。地面からポコポコと小さなゴーレムが出て来た。それを見たコボルトの子どもたちは、「わーい!」と元気に叫びながらゴーレムを掴んだ。……いやぁ、ここまで喜んでくれると作った甲斐があるわ。

 とりあえずいっぱい作ってみたけど、足りるかな……?

 大人のコボルトも、長老も、ゴーレムを持つと表情を朗らかにしてわたしにお礼をいった。

 ……いや、お礼を言われることじゃないとないと思う。このゴーレム……。

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