第51話
とりあえず、今日はみんなでお屋敷ツアーをした。そして、大量にある部屋から自分の部屋を決めてもらう。とはいえ、全員地下の部屋を選んだのだけど……。地下二階に続く階段に近いほうを男性が使うことにした。地下とはいえ、かなり広いから、部屋は選び放題だった。お城みたいな見た目からして、広いのはわかっていたけどさ。
「……そういえば……、料理人は雇っていない……」
しーん、とその場の空気が静まった。そして、おずおずとメイド服の女性が手を上げる。
「料理は出来ますけれど、アクアさまのお口に合うかどうか……」
「それは大丈夫だと思うけど……。でも、ひとりに負担が掛かるのもなぁ。わたしも一通り出来るし、出来る人たちでローテ回す?」
ちなみに全員それなりに料理が出来るということが判明した瞬間でもあった。遠征の時に携帯食料だけ食べるのは虚しいから、という理由で料理を習い始めたり、自己流で覚えたという
「みんなでワイワイ作るのも楽しそう!」
わたしの好きにして良いのなら、こういうのも良いのかなって思って提案してみた。みんな驚いていたけれど、受け入れてくれた。と、いうわけで今日は買い物班と料理班に分かれてみることした。わたしは料理班。買い物班は男性が主になった。なぜなら、重いものを持ってもらうから!
買い物班は決めた自室の整理が終わったら、早速とばかりに買い物に行った。
……荷物、少なくない? と思ったが、魔物討伐に追われていたのなら、最低限の荷物しか持っていなかった……ってことなのかも……?
「アクアさま、アクアさまの部屋は決められたのですか?」
「え? あ、……そういえば決めてなかった」
「でしたら、決めましょう」
買い物班に買って来て欲しいものリストを書いたメモを渡したのは、昨日声を掛けてくれた女性。名前はセシリー。女性たちはそれなりに荷物が多いから、部屋の準備をするにもそこそこ時間が掛かるかと思ったけど、そうでもないようで……。
セシリーは二時間もしないうちに整理を終えたのだ。素早い。
「礼拝堂に近いほうが良いかなぁ」
「それは、お祈りのために?」
「うん、近いと行きやすいし。今日もお祈りしたよ」
そうですか、と微笑むセシリーに、わたしはじっと彼女を見る。不思議そうに首を傾げる彼女に、「なんでもない」と微笑む。みんなにも神の祝福が与えられるのかなって考えたら、ちょっと楽しくなって来た。
「……そういえば、わたしの事情ってどこまで浸透しているか、知っている?」
「城にいる者たち……そうですね、陛下に近しい人たちは知っていると思います。私たちも、いきなりのことで理解出来ている部分と理解出来ていない部分があるので、そこはアクアさまと親しくなるにつれて、解消されていくかと……」
親しく、という言葉にわたしは目をキラキラと輝かせた。それに驚いたようだったけれど、くすりと笑って、「さ、部屋を決めましょう」と一緒に歩いてくれた。
わたしは礼拝堂からそこそこ近い部屋を使うことにして、少ない荷物を整理した。
「……殺風景ですね」
「掃除が楽そうで良くない?」
「……あの、もしかして……掃除も自分でやるつもりでしたか……?」
「え? そうじゃないの?」
目をパチパチと瞬かせると、セシリーは困ったように眉を下げた。
「私たちの仕事を取られると、困ってしまいますわ」
頬に手を添えて、首をこてんと傾げるセシリー。……でも、掃除もしないとなると、わたしは一体なにをしていればいいんだろう……? と唇を尖らせて悩む。
「……もしかして、陛下から聞いていませんか?」
「……なんか、すっごくイヤな予感がするけれど……、なにを?」
「……アクアさまに、貴族の教育を受けさせると……」
わたしは思わずその場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。聞いていない。好きに過ごして良かったんじゃないのか……!
「とはいえ、週に一回だそうですけれど……」
「……それって教育になるの……?」
「どうでしょう……?」
貴族の教育なんて受けたことないよ、わたし!
「この国の歴史などを学んでいくのだと思います」
「……それだけなら……まぁ……」
あ、もしかしたら大聖女ステラのことも教えてくれるのかも。……と、考えていたけれど、その考えはバーナードによって取り消された。っていうか、なんでバーナードがそんなに詳しく知っているんだ。
そんなバーナードはわたしのことを探していたみたいで、「アクアー?」と声を出していた。部屋から出てバーナードに声を掛ける。彼にわたしの部屋がどこか尋ねられたから素直に答えた。礼拝堂の近くということでなぜか納得していた。
「ねぇ、本当にわたし、そういう教育受けるの……?」
「陛下はもう手配しているハズだけど?」
「なんで知っているのさ……」
「今朝聞いた。王族の血が流れているんだから、仕方ないと諦めろ」
ぐうの音も出ない! ……それにしても、バーナードのわたしに対する態度って一貫しているよなぁ。王族の血を引いていると知った後でも、態度を崩さない。そのことに逆に感心する。
「……なんだよ」
「べっつに~? ねぇ、その教育っていつから始まるの?」
「陛下がアクアに伝えてから、じゃないか?」
なら、わたしがお願いすれば少しずらしてもらえるかもしれないね。貴族の教育ってさっぱりわからないから、心の準備がしたいし……、それにまだ、やりたいこともあるし。それが終わってからにして欲しいとお願いしよう。
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