第47話
ルーカス陛下と神官長は顔を見合わせて、それからぽんぽんとわたしの頭を撫でたり肩を軽く叩いたりした。
「詳細は後で伝える」
「ありがとうございます」
……ダラム王国はアルストル帝国の領地になるみたいだけど……平民たちはどうなるんだろう。この国に帰りたいという人たちは、戻るのかな……? 多分、そこら辺も含めて『後で』なんだろうなぁ。……そうなると、わたしが関わるのはここまで、ということなのか……。
「アクア、戻るぞ」
「え、あ、はい」
「……アクアさま、お元気で」
「神官長こそ!」
すっと頭を下げる神官長に慌てて声を掛ける。ルーカス陛下はわたしの腕を掴むと、またテレポートしてアルストル帝国に帰った。……やっぱり便利だわ、この魔法。
「アクア、あの屋敷が気に入ったのなら、そこに住むか?」
「……へ? あ~……えっと、どうしましょう……?」
神殿に行くまでにいた、(多分)執務室に戻り、ルーカス陛下に問われた。確かに住むところは欲しいけれど……。……こんな風に一気に色んなことが起きて、ちょっとそろそろ休憩したいと思うのは……ダメかな……。……いや、良いはず。
「ルーカス陛下は、わたしに傍にいて欲しいのですか?」
ルーカス陛下は目を瞬かせた。それからふっと表情を和らげて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「当然だろう、妹のような存在なのだから」
記憶を失っているわたしには、前の関係がよくわからないけど……。まぁでも、ルーカス陛下がわたしのことを案じてくれているのはわかるし、わたしの意志を尊重してくれているのもわかる。だって、ダラム王国の平民たちを助けてくれた。……わたしが、そうしたいと言ったから。
……だから、これ以上のワガママをいうのはなんだか違う気がして。
「じゃあ、あの屋敷に住みます」
「……そうか。ならば、そう手配しよう」
その時のルーカス陛下の表情が、とっても優しくて……。思わず目を瞬かせた。それを不思議そうに見ていたけれど、わたしの頭を撫でて執務へと戻ろうとしたから、わたしはどうしようかなと悩んだ。ちりん、と鈴の音が聞こえた。
「お呼びでしょうか、ルーカス陛下」
「アクアを別室へ。明日にはあの屋敷の主だ」
「かしこまりました」
執事服を着ている、おじいさん。彼はルーカス陛下とわたしに向けて頭を下げると、わたしに向けて微笑みを浮かべ、それから「アクアお嬢さま、こちらへ」と声を掛けてきた。
……あ、アクアお嬢さま!?
ばっとルーカス陛下に顔を向けると、彼はくつくつと喉を震わせて笑っていた。
聖女として『アクアさま』と呼ばれることには慣れていたけど、これはちょっと……! なにかまずいことを口にしたのかと首を傾げる執事服のおじいさんに、わたしは慌てて「なんでもありませんっ」と両手を振った。うわー、自分がお嬢さま扱いされるって鳥肌立った……。
……でも、そうか、……この国では、それが『当たり前』のことなのか……。王族の血が流れているから。……でもこれ、慣れることが出来るのかな、わたし……。
とりあえず、執事服のおじいさんについて行く。歩きづらそうにしているわたしに気付くと、さっとエスコートしてくれた。ハイヒールはやっぱり慣れない。……そりゃそうだ、初めて履いてから間がないのだから。
「こちらの部屋をお使いください」
「ありがとうございます」
「今、ディーン卿とバーナード卿をお呼びしますね」
「お願いします」
ディーンとバーナードの名前を聞いて、ちょっとホッとした。……気付かないうちに緊張していたんだろうなぁ。だって、神官長とルーカス陛下の会話って、わたしにはよくわからなかったし……。わたしに理解できたことは、神官長たちはあの場所で暮らしていけるってことくらい。いやもう国のことはわからないと諦めた。神官長が身分の高い人だということはわかったけど。そんなことを考えていると、扉がノックされた。早い。
「はーい」
返事をすると扉が開いた。ディーンとバーナード、そして……見たことのない人たちもたくさん。だ、誰……? と入ってきた人たちを眺めると、最後のひとりが部屋に入り扉を閉めた途端に、全員がわたしに跪いた。思わず「ひっ」と変な悲鳴が出た。いやだって、わたしよりも背の高い男性たちが一斉に跪くんだよ!? そりゃあ悲鳴も上げたくなるってもんでしょう!
「な、なにごと……?」
「アクア・ルックスさま」
ディーンがわたしに声を掛ける。……というか、『さま』って……? わたしが驚いてディーンを見ると、ディーンは顔を上げて、ふわりと微笑んだ。
「元王立騎士団魔物討伐隊、我ら一同、アクアさまにお仕えいたします」
……そういえば、ディーンの隊がどうのこうのと……いっていた、ね。つまり、この人たちは、ディーンの部下だった人たちということで……。ええと、魔物討伐隊ってこんなにあっさり仕事変更していいの? 頭がパニックを起こしている。
「ほ、本当にいいんですか、どこの馬の骨ともわからない人に仕えるんですよ?」
「ディーン隊長の命の恩人に仕えられるのなら、我らは喜んで仕えます」
隊員のひとりが、そう言い切った。……ディーン、とても慕われているのね。
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