第30話

 確信したようにディーンが呟く。バーナードも、こくりとうなずいていた。……なんで、いきなりそんなことを言い出したのかわからなくて首を傾げる。


「この屋敷、王族の魔力に反応するようになっているから」

「え、じゃあ他の人たちどうやって中に入っているの?」

「こういうカードがあって、これに込められた魔力に反応して開くようになっているんだ」


 すっと懐からカードを取り出すディーン。薄いカードに王族の魔力が込められているのか……。便利アイテム。さすがアルストル帝国。ダラム王国では見たことのないアイテムもたくさんあるんだろうなぁ。


「君の魔力に反応して、屋敷が招き入れた。……それは、王族じゃないと出来ないことだ」

「……あ……」


 ディーンの言葉に、わたしは自分の胸元に手を置いて……深呼吸をした。そして、ふたりに向けて笑顔を作ってみせた。


「アクア?」

「王族の血が流れていても、わたしはわたし。そうでしょ?」

「……いいのか、そんな軽さで」

「これからのことはきちんと考えないといけないけどね。……それにしても、この屋敷、すごいね」


 わたしは改めて中を見渡す。屋敷というより城に近いと思うけど、中はとても綺麗に掃除されていたし……なにより、アルストル帝国に来てから初めてまともに綺麗な場所を見た。瘴気のない建物。

 ……大聖女ステラはこの場所を気に入っていたらしいから、神さまがその思いを大事にしてくれているのかもしれない。なんにせよ、わたしが浄化したから綺麗だというわけではない場所だ。空気の澄み具合が違う。

 人の多い場所や魔物が多い場所は瘴気がどうしても多くなったり濃かったりするから……。お城に近いのに、こんなに澄んでいる場所があるとは思わなかった。


「気に入った?」

「とっても! こんなに瘴気がない場所、アルストル帝国に来てから初めてよ!」

「……そんなに珍しいのか?」


 バーナードの問いに首を縦に動かす。ふたりはなにかを考えるように顎に手を添えたり、目を伏せたりしていた。


「……でも、こんなに素敵な場所、本当にわたしがもらっちゃっていいのかな?」

「陛下が良いって言っているから、良いんじゃね?」


 ……ありがたいけれど、申し訳ない。でも本当に瘴気のない場所は空気が澄んでいるなぁ……。心が落ち着く。……まるで、神殿の中みたいだわ。


「気に入ったのなら、ここで暮らすといいよ」

「こんなに広い場所をひとりで使うの!?」

「完璧にひとりってわけじゃないよ。オレたち護衛や、メイドたちも暮らすだろうから」


 それにしたって広すぎるでしょ……。陛下はなにを思ってこの屋敷……いや、お城? を渡そうとしているんだか……。……王城と近いから? ……まさかね!

 屋敷内はとっても広くて、見て回るだけで一日は掛かりそう。とりあえず、地下から見て回ることにした。順番にね、順番。

 地下には使用人たちの部屋と厨房があった。さらに下にいくと、地下牢がある。地下牢って……こんなに空気が澄んだ場所に……。お城っぽい建物だからあっても不思議じゃないんだろうけど、なんかギャップがあるような気がしてなんだかな……。

一階を歩き回っていると、神聖な気配を感じてそちらに向かうことに。中に入ると……あ、小さいけれど礼拝堂発見! 神聖な気配はここからだったのね。せっかく見つけたのだから、ここでもお祈りしていこう。

 そう思って礼拝堂を歩く。


「ちょっとお祈りするね」

「じゃあ俺らもしとこうか」

「ああ」


 ディーンを見上げてそう口にすると、ふたりもお祈りするようだ。ならみんな一緒にお祈りしときますか、と思って、わたしは目を閉じて両手を組んだ。

 ――神よ、感謝いたします。孤児だと思っていたわたしに、血の繋がった身内がいたことを教えてくださり、本当にありがとうございます。どうか、わたしたちのこれからを見守っていてください――……。

 返事のように、身体がぽかぽかとしてきた。神さまって見えないけれど、見えないからこそ、信じられるのかもね。

 ……そんなことを考えながら目を開けてディーンたちのほうに顔を向けると、ディーンとバーナードが淡い光に包まれていた。

 ……うん、神よ。今日も絶好調ですね……?

 そのことに気付いたのか、ふたりは目を開けて自分の身体が淡い光に包まれていることに気付くと、ぎょっとしたような表情を浮かべた。


「うわっ、な、なんだ!?」

「……温かい……けど、これは、一体……?」


 困惑するようにわたしを見た。……いや、見られても困る。わたしに説明を求めないでくれ。


「えーと、多分、神の祝福」

「多分ってなんだよ……」

「だってわたしが祝福したわけじゃないし……」


 そういえばダラム王国にいた頃も、たまにこんなことがあったっけ。祝福されていたのは司祭や神官たちだけだったけどさ。考えてみれば貴族や王族にこの祝福の光が与えられたことはないなぁ……。


「でも、なんだか……」

「ああ、力が湧いて来るような……」


 ディーンもバーナードも不思議そうに自分の手のひらを見ていた。淡い光は彼らの身体に吸い込まれていくように消えて行った。……どう見ても、神の祝福だよなぁ……。


「神の祝福って一体……?」

「んーと、神さまががんばれって応援している、みたいな?」


 口で説明するのは難しい。神の祝福を受けた司祭や神官は、自身の潜在能力を引き出されていたようだけど……、このふたりはどうなんだろう?


「まぁ、悪いようにはならないと思う。これからは毎日お祈りしてね。そうすれば、神の祝福は途切れないと思うから」

「そんなもんなのか……?」

「……多分?」


 神の祝福を受けて、ディーンとバーナードがどうなるのかはわからないけれど……。でも、イヤな感じはしないから大丈夫だと思う。

 わたしたちはそれから、たっぷり一日を掛けてこの屋敷を探索した。

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