第220話 ペアリング(配信あり回)
俺は10分後に配信をするという告知をMeTubeで行うと、今宵たちと簡単な打ち合わせを行う。
打ち合わせは本当に簡単なもので、どういう理由で配信をするのかとか、どういう風に指輪を作っているのかという説明を誰がどんな感じで話すかと言ったことだ。
それが終わると今宵たち三人は、近くにスマホを置いて生配信される自分たちを見ながら指輪を作るための準備をしていた。
「最初の挨拶だけど、キィちゃんとさっちゃんはどうする? 今宵とお兄ちゃんはいつも言ってる言葉があるけど二人にはないよね。初めて出演した時のやつを押していく?」
「うーん、どうしよっかなー。すぐ思いつくのってアレくらいだよね」
「私もアレくらいしか思いつかないからそれでいいかな?」
は? キィちゃんとさっちゃんが初めて登場した時って、シンだピョン! とか言って寒くて凍え
俺が切なくなりすぎて震えて、碧いうさぎがBGMで流れた……。
配信まで残り数分になっているのに、どうして急に俺を不安にさせるの?
「まてまて、それってアレだろ? シンだピョン! ってやつ。あの雰囲気をもう一度味わうの?」
「何言ってるのお兄ちゃん。
いやお前、それ天下のコメディ王に失礼だろ! じゃんけんの『最初はグー!』の発案者だぞ。
まあでも、タカトシの『欧米か!』は止めようかと悩んだ時に続けろってアドバイスでブレイクしたんだっけ?
ギャグじゃなくてただの挨拶と言われるとそんな気もする。
やっはろーとかトゥットゥルーもウケ狙いではないしね。
と言うか、時間がなさすぎて俺には判断がつかない。
まあMeTuberやVTuberの挨拶は、言われてみれば語尾が変なのも多いし大丈夫な気もする。
それに今宵が最終的には前回のようになんとかしそうでもある。
「そこまで言うなら頼むぞ。挨拶以外の流れはさっきの打ち合わせ通りでよろしく」
俺は今宵たちにそう言うと、カメラを回すために少し離れた。
しばらくして、待機画面からLIVE放送画面へと切り替わる。
「みなさん、おはこんばんは。アステリズムチャンネルのシュテルンです」
俺は開始と同時に挨拶をする。
『はじまった』
『画面の端っこにシュテルンいる』
『ちびシュテルンかわいい』
今回から俺は殆どが声だけの出演なので、画面内にディフォルメされた小っちゃなシュテルンが俺が話している間は動くように変わっている。
画面内を歩いてたまにコケるリアクションまでしちゃう優れものだ。
俺の顔が見えない間はVTuberに似ているかもしれない。
評判も上々のようだ。
「今日もいつもの四人で配信をしようと思います」
俺はそう言いながら、今宵をアップにすると、
「みなさんおはこんにちは! アステルだよっ!」
アステルは挨拶をしながら、猛獣のがおーのポーズをとった。
そしてそれを映してから、今宵の隣にいるキィちゃんへカメラを向ける。
「みなさん、シンだぴょん!」
くっ、本当に大丈夫なんだろうな?
俺は両手を頭の上に乗せてウサギ耳を表現しながら、ジャンプして自己紹介をしたキィちゃんを確認してから横目でチャット欄を確認する。
『こんぺこー』
『こんぺこー』
『こんぴょんー』
今回は空気が死ぬこともなく受け入れられていて『ウサギかわい かのやま』とか『全人類兎化計画!』と言ったチャットが流れていた。
って言うか、『ぺ〇らの野うさぎ多すぎ』って何だろう?
受け入れられているなら良いかと俺はカメラを戻し、キィちゃんとは逆側の今宵の隣にいるさっちゃんにカメラを向けた。
「やぁみんな! ファーナだちゅ~! ハハッ!」
これはさすがに雰囲気死んだだろ? とチャット欄を確認するが、
『ネズミーかわいい』
『頬が赤くなって照れてるの好き』
など、初めて二人が自己紹介をした時とは違って受け入れられていた。
やはり繰り返すことが正解なのか?
今宵たち三人も自分たちの端末でチャット欄を確認して、空気が凍えていないことに一安心しているようだ。
「はい、ということで今日はこの四人でLIVE配信をして行こうと思います。えー、今回の配信の目的はですね、昨日スパチャで提案のあった使用済みリングのグッズを販売することに決定しました! パチパチー」
『シュテルンが拍手をパチパチって口で言ってるの草』
『使用済みを販売……。本人が使用した中古を公式でグッズとして売るって世界初じゃね?』
公式グッズとして売ったりするのはそうなのかな? サッカー選手や野球選手が使ったボールなんかはありそうな気がするけど、そういうのってオークションだとかあくまで撮影で使用したものが限定としてプレゼント! みたいな形か?
「サイン本なんかはあるしどうなんでしょう? とりあえず今日は実際に証拠っていうか、一度○○が使用しましたと言われても信用できないと思うので、実際に作成をしている所を見せようと思います」
『作成ってなんぞ?』
『まさかアステルたちが延々と指に指輪を入れてすぐに外していく? それだったら斬新すぎるなww』
ここからは今宵に任せるので俺は今宵をカメラで映す。
「作成するっていうのはー、じゃーん!
今宵はそう言いながら、シルバーアクセサリーを作るスターターキットを取り出してカメラに提示した。
『え? 一から作ったのを売るの?』
『一体いくらになるんだってばよ』
『てかパッケージ名を堂々と見せてるから、これ有名人が買ってますって品切れになるやつww』
藤井君のおやつとか最近だとメジャーリーガーが一〇堂のラーメンと言うだけで大人気になるやつか……。
でもさすがにシルバーアクセサリーを粘土から作ろうと思う人は少ないんじゃないか?
「まずはー、こんな感じで木の棒に粘土を巻いていきます。厚みを均等にならして、指輪の形に整えていきます」
今宵はそう言うと、太鼓のバチ……うどんをこねる時の棒のようなものに粘土を巻いて指輪の形を整えていく。
「形が整ったら……うん、ネコっぽい感じも成功だね。シン、乾燥させたいから生活魔法でドライヤーくらいの温風を送ってくれる?」
「りょうかーい、ウインド!」
『生活魔法で温風って簡単に言ってるけど、温度変化ってできるの?』
『生活魔法のレベルがかなり上がればできるって聞いたかも』
俺はチャット欄を見ながら、へ~温度変化させるだけで熟練者なのかと思いながら今宵たちを見守る。
ドライヤーのように音もしないので、送風されているかどうかは今宵の髪が動いていることでしか確認ができない。
「こんなものかなー? はい、乾きました! そんでぇーこれを木から外してぇ、リングにしてつなぎ合わせたところが割れやすくなるので、裏から粘土を補強して乾かします ウインド」
『アステルが自分で生活魔法を使ってて草。シンいらん子だったピョン』
『ww』
今宵もチャットを確認していたようでしまったと言う顔をしている。
「裏側に塗った粘土も乾いたら、荒いヤスリから細かいヤスリに変えていきながら、何段階かに分けてヤスリで磨きまーす。磨き終わったら、シュテルン、コンロ出してくれる?」
俺は今宵の求めに応じて、近くまで移動して焚火台を置いた。
『あれ? シュテルン指輪してる?』
焚火台を用意している時にどうやら俺の手だけが映ってしまったようだ。
「こんな感じでぇ、焼いていきます。ファーナ、火をお願い」
「はーい、イグニッション!」
「焼き終えたら、ゆがみがあるので整えて、ヤスリで磨いて銀肌をだしたら、シルバークロスで鏡のように光らせて完成です! シルバークロスは銀製品をお手入れする時に使うクリーナーがついた布だよ」
魔法を使って乾燥などの作業工程を短縮したので、15分もかからずにネコ型のシルバーリングが完成した。
『え? 白からあんな鏡みたいに綺麗になるんだ』
『作成に15分もかかるものを売るの?』
『あれ? シュテルンもしてたけどアステルも指輪してる? でも色がシルバーじゃないような?』
配信を始めて20分近くが経過しているので、視聴者も多くなってコメントが流れるのもかなりのスピードになってはいるが、どうやらかねがね指輪は好評のようだった。
てか一番気になるのはやっぱり作成時間だよね。
俺もこいつら正気でそれをグッズにするのか!? と思ってるし。
『5000円:アステルの指輪が気になります。今までつけてませんでしたよね?』
唐突に流れるスパチャ。
「あ、チキン冷めたさん、スパチャありがとうごいざいます! 気づきましたか!? 実はおに……シュテルンとペアリングなんです! Tちゃん見てるー?」
……。
いや、Tちゃんって誰だよ。
と言うか、今宵の発言で一気にチャット欄が香ばしくなってきた。
『今まで二人とも指輪をつけてなかったのに』とか『兄妹でペアリングなんてする?』と言ったものが大半だ。
そして、そのチャットを煽るためなのか、『兄妹なんて設定を信じてたの?』とか『実は彼氏でしたー!』とかコメント同士で煽り合い始めた。
俺はまずいぞ! と今宵をみるが、どうして炎上し始めたのかわかっていないのかキョトンとしている。
そして何でキィちゃんはニヤニヤしてるの? と思ったらキィちゃんがこちらにやって来た。
キィちゃんはカメラを固定すると俺をカメラの前に移動させ……、
「私たちもいつもシュテルンお兄さんって呼んでるんだよ。ね、ファーナ!」
と言って、キィちゃんは俺の腕を片腕で抱くと、もう片方の手でカメラに向けて目の所で横ピースする。
コイツぅ!
ヴェネチアンマスクで横ピースは意味ないだろ!
『うわぁ』
『これ年上をお兄ちゃんと呼んでるだけなやつ……』
『アステリズムに幻滅しました』
『12000円:一緒にアステルストーリー歩みたかったですが、私のアステルストーリーはここで終わりです』
大炎上ですよ。
そして俺から離れたキイちゃんは今宵に耳打ちする。
今宵はウンウンと頷くと……、
「ごめんね、寂しい思いさせちゃったなら。みんなすまんピョン」となぜかシンの語尾で謝罪した。
正直……、俺には煽ってるだけにしか思えず、当然のように炎上は続いた。
『10000円:私様は知っていますけど、お二人は本当に兄妹ですわ!』
『10000円:ウチの者がシンのような煽りはメスガキ煽りって言って最終的にわからせられるオチがあるらしいですわ!』
『10000円:アステルの謝罪も有名VTuberの発言に似せたもののようですし、みなさん落ち着いてくださいまし』
怒涛の赤スパ三連荘。
というか、今日は16階層にいるんじゃないの!?
「
『え? シュテルンたちの関係者?』
『それなら兄妹は本当なのかも?』
俺は今宵に強い目線を向けて、説明しろと促す。
「えっと、兄妹というのは本当です」
今宵がそう言った瞬間、今宵の髪飾……コジロウから雷撃が放たれる。
突然であることと、すぐそばだったこと、そして雷の速度が速すぎたことで俺たちは一歩も動けずお互いの指輪に雷撃を受けた。
「ああっ! 指輪がっ……!」
『10000円:これがわからせらしいすわ!』
カメラの前で俺たち二人のペアリングは崩れ……、コジロウはアクセサリーのままだが、いつ変化するかもわからない。
さすがに髪飾が動き始めると大問題になるだろうと思い俺は焦る。
と言うか、東三条さんは護衛のみんなとこの放送みてるの!?
「はい、では指輪も壊れてアステルがわからせ? された所で、今日の配信はここまでにしようと思います」
俺はそう言ってしめると、すぐにカメラに駆け寄って配信を停止したのだった。
「コジロウはなんて?」
俺は急に雷撃を放ってきたコジロウが気になって今宵に話を聞く。
「なんか、アクセサリーなら僕がいるのに! みたいな感情が伝わってくるから魔道具でもない指輪を今宵が付けたのが嫌だった見たい……」
いや、
まあ、疲れたし気にしないようにするか。
ちなみに、全ての指輪を手作業で作るのか? と今宵に聞いたら、俺たちが手作業で作るのは一つで良いようだ。
クラフトのスキルでシルバークレイさえあれば同じ物が量産できるらしく……目の前で複製して大量に指輪が作られていた。
こんな配信をした後なのに、数個以外は一度指にはめるだけってそれ詐欺だろ……。
いや、使用済みとしか言ってないから、手作業で全て作るとは書いてないし言ってはいないのか。
ただし、念のため概要欄で説明をしておこう。
お兄ちゃんだからね。妹の後始末は兄がするものだよね!
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