第91話  挿話ー蒼月今宵②ー

 ―― 蒼月今宵視点 ある日の放課後 ――


 学校でキィちゃんとさっちゃんとこれから買い物に行く話をしているとお兄ちゃんからダンジョンに行こうという連絡が届いた。

 お兄ちゃんの方から誘ってくれる事は少ないので、少し嬉しくなって二人にダンジョンに行くか聞いてみた。


 「あ、お兄ちゃんからダンジョンに一緒に行こうって。二人ともどうする?」


 「え、今宵ちゃん今日はこれから買い物に付き合ってくれるって言ったじゃん」


 「そうだよ。久しぶりに普通の所にも行けて遊べると思ったのに~」


 キィちゃんとさっちゃんが私がダンジョンに行きたそうなのを見越して今日は買い物だよと諫めてくる。

 二人は兄や他に人がいる所では、相手に気を許していても言葉遣いだけは猫を被る。


 「えー、でもお兄ちゃんが誘ってくる事は少ないよー? じゃあさ、こっちに呼ぶ?」


 せっかくだしお兄ちゃんをこっちに呼べばいい事に気が付いた私は名案だと思って2人に提案する。


 「今宵ちゃんは本当にお兄ちゃんが好きだね~」


 「矜一お兄さんは女性の下着売り場とかケーキ屋さんに入れるかな?」


 さっちゃんが私がお兄ちゃんの事が好きだと言って揶揄ってきた。

 この二人はいつも私の事をお兄ちゃん子だとか言って揶揄うのだ。


 キィちゃんは私達が行くかもしれないお店にお兄ちゃんを連れて行くのはお兄ちゃんが嫌がるんじゃないかと言っている。

 あんまり気にし無さそうだけどどうなんだろう? 

 嫌がるならしたくはない。


 「そんな事ないっていっつも言ってるでしょ! もう。でもお兄ちゃんが入りにくいお店に行くなら仕方がないけど断るかー」


 私はそう言ってお兄ちゃんには今日は二人と買い物に行くからいけないという返信をした。


 


 「じゃあ、いこっか。まずどこに行く~?」


 「うーんちょっとお腹が減ったからクレープでも買って食べながら行こうよ」


 「あ、それ良いね。今日はお金もいっぱいあるし贅沢するぞー!」


 今日の放課後に買い物に行く事になった一番の理由が、昨日のダンジョン探索で思った以上のお金が手にはいって遊べる! って二人がハシャいだからだった。


 「ならまずはクレープ屋さんだね」


 私たちはそう言ってクレープ屋さんに向かう。

 移動中にも話が尽きる事はない。



 最近話題のクレープ屋さんに到着した。

 話題なだけあって順番待ちが発生していたので、私たちは円滑に注文をするためにスマホでお店のホームページを開いて並びながら何を注文しようかと悩んでいた。


 「これ、歩きながら食べると落っことしちゃうかも?」


 「うん。店内で座って食べようよ。席は空くかな?」


 私がクレープの形で食べ歩きは無理そうと言うとさっちゃんも同意する。

 だってパンダクレープ、クマクレープ、ネコクレープといった可愛い動物の顔がのっているのだ! 

 黒はチョコレート白はアイスクリームやお餅なんかで彩られていて、どれも可愛いし美味しそうだった。


 「店内なら中で名前とか書きこんで待ってないとダメかもしれないから私ちょっといってくる」


 キィちゃんがそう言って店内を見に行った。


 「やっぱり、名前を書いておかないとダメだったから書いてきたよ! ついでに番号札もあった。6番目だって。ここの順番待ちはお持ち帰りみたいだよ」


 「キィちゃんありがと。中で待てた?」


 ここはお持ち帰り用の並びだと聞いて、中で待てるのかみてきたキィちゃんに聞いてみた。


 「ううん。4組くらいまでは座って待てたけどいっぱいだった。だから店が見える所で待って、中で待てるようになったら入って待とうよ」


 「「うん」」


 私たちはそう言うと順番待ちから外れてそこまで離れてない場所で待つことにした。

 結局、そこでも順番が呼ばれるのが聞こえたので呼ばれるまでは中に入らずおしゃべりする。



 順番が来て店内に入って座り注文する。

 楽しみだ!



 少し待つと3つ同時に持って来てくれた。

 私はパンダのクレープ。

 キィちゃんがクマ。

 さっちゃがネコをそれぞれ選んだので他のクレープを見ても見た目で楽しめた。


 私は写真を撮ってお兄ちゃんに送っておく。

 もうダンジョンに入っているだろうから、見るのは帰ってからになるだろうけど、きっと悔しがるはずだ。


 「これ食べられないじゃん!」


 「うんうん。可愛すぎて無理~」

 

 キイちゃんとさっちゃんが食べられないと嘆く。

 たしかにこれって可愛すぎて食べにくい。

 3人が3人共お互いの顔を見てどうする? って声を出さずに語る。


 なぜか3人でクレープを食べるだけなのに凄い決意をしたという表情になって私たちは頷いた。

 そしてみんな一斉にかぶりつく。

 もぐもぐした後になんだかとても楽しくなって3人で笑った。


 「「「あはは」」」


 食べ終えた私たちはクレープ屋さんを退店して歩く。

 次は大型ショッピングセンターでもいこっかとなった所でキィちゃんがお兄ちゃんの動画配信の話をした。


 「そう言えば、矜一お兄さんMeTuberデビューしてたね! 今宵ちゃんも最後に声だけ出てた!」


 「うんうん。お兄ちゃん!」


 知り合いに簡単にバレちゃってるよお兄ちゃん! まあでもこの二人は矜侍さんにも会ったみたいだからわかっちゃうか。

 

「え? 何で知ってるの~? ちょっとさっちゃん? 今のはもしかして今宵の真似なの?(怒」


 「えへへ」


 さっちゃんに私がお兄ちゃんを呼んだ所が見られて真似をされたようだ。

 えへへと可愛く笑ってるけど、揶揄ったらだめでしょ! 可愛いけどね!


 「今話題になってるよ。アーカイブ動画も結構見られてるみたい」


 ええ~? 


 「見てみる」


 私はスマホでお兄ちゃんの『アステリズム チャンネル』を開くと既に登録人数が1万人を超えていて2日で5万回ほど視聴されていた。

 そして最後だけ流すと「お兄ちゃん!」という私の声がMeTubeデビューしていたのだった。


 「うう、恥ずかしい」


 「良いなー。私も出たいな~(チラッ」


 「私も!(チラッ」


 キィちゃんとさっちゃんが私達も出演したいと言ってくる。


 「ええー? ダメダメ!」


 「でも今宵ちゃんの事だから自分は絶対に出演するよね」


 「そうそう!」


 うー、バレてる。


 「そうだけどぉ。ステータス偽装を覚えなきゃダメみたいだよ。お兄ちゃんに出演は聞いてみても良いけど、まずはステータス偽装を覚えること!」


 「ええ~? あ、スキルとかたくさん使っていたらおかしいから~?」


 さっちゃんがステータス偽装がいる理由を聞いてくる。


 「ううん、なんかね。画面上でも鑑定される可能性があるから個人情報が漏れないようにするためだって!」


 「おー! ちゃんと矜一お兄さん考えてる!」


 「何も考えて無さそうなのに~」


 ちょっとさっちゃん、どさくさに紛れてお兄ちゃんをディスっちゃダメ! 

 ぽやぽやしてる時が結構あるのは知ってるけど!


 「だから二人はダメかな~」


 私は出演ができない理由を挙げた。


 「がーん。でも矜一お兄さんって結構ステータス偽装を覚えろってみんなに言っているから私達も訓練してるし、次の壁を超えて出たら取るよ!」


 「私も!」


 「むむ~。じゃあ取れたらね。そしたらお兄ちゃんに言ってみる」


 「「やったー!」」


 「じゃあさ、それに備えてマスクとフード付き外套マント買いに行こうよ! 猫耳とかついたやつ。

 後は手に入れたお金で装備も買っときたいかな~」

 さっちゃんの一言で私たちは装備を買いに行く。

 女の子が3人集まればただの外套も耳付きフードがオーダーメイドされてなぜかお兄ちゃんのも3人でお金を出し合って注文した。


 ちなみにお兄ちゃんはクマさん耳付きフードマント。

 私がネコ。

 キィちゃんがウサギ。

 さっちゃんがネズミーだ。

 統一するべきかどうかで紛糾した事は秘密である。


 防御力や耐久性の話も私が付与魔法を早めに覚える宣言をすると、それを覚えようとする理由をしつこく二人が聞いてくるので指輪に付与魔法をつけたいって話すと、二人の目が呆れていたのは何故なんだろう。


 

 私たちは久々に放課後を遊びつくして帰路についたのだった。

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