第85話 ダメ男
お昼過ぎまで訓練を繰り返し、俺たちは昼食のために魔獣がいない所でシートを広げて昼食をとる。
今宵や両親とダンジョンに来た時にピクニック気分か? と三人に対して思った前の俺を注意したい。
いやこれピクニックだわ。
2,3ヶ月前まではボッチ飯だったのが、いまや景色の良……ジメっとした洞窟なので景色は良くないけど、俺以外は女の子だ。
それに囲まれて和気あいあいとご飯だよ?
実際には箱庭の缶詰生活もあったから1年前になるけれど、入学時の俺にこの話をしてもきっと信じはしないだろう。箱庭で努力して良かった!
まあ……女の子に囲まれているとは言っても妹と妹の友人、そしてクラスメイト件部活仲間予定の友人で甘い話は一切ないが、俺がほしかったのは友人だから!
椿がここにいてくれたらもっと良かったけど……、日曜だから椿は九条か堂島君のどちらかとデートでもしているのだろうか。
あれおかしいな。
今さっきまでムチャクチャに楽しいと思ってたのになんだか悲しくなってきたぞ?
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「いや、椿は今頃なにをしてるのかなって」
なぜか全員が俺の顔をみる。
え? 何かおかしい事を言った?
「なんでこの状況でお兄ちゃんは椿ちゃんの話をするの?」
さっきまで女子4人でキャッキャしていたのが嘘のような冷たい目線を今宵がしている。
えぇ? 妹のこんな目線は見た事がなかった。
「い、いや何となく思っただけだから……」
「はぁ~。矜お兄さん、椿さんの事が好きなのはわかりましたからそういう事はお一人の時に思って下さい」
さっちゃんからもダメ出しが入る。
「矜一お兄さん、ここにいる人以外の話をしたらここに私達と居たくないみたいにこっちは思っちゃいますよ?」
キィちゃんからも注意が入った。
だがそうか。
確かに椿はここにいないのにその話題を出せば、みんなと今いるこの状態に不満があるかのように聞こえると言うのは確かかもしれない。
これがもし椿とみんなが仲が良いならそうならないだろうが、七海さんと葉月さんにしても会話はしているのは見た事があるが、友人というほどでもなくキィちゃんとさっちゃんに至っては見た事がある程度だろう。
この中で椿が仲が良いと言えるのは今宵くらいという事を忘れていた。
一緒に登校する事も今後ないと思うとつい口に出てしまったが、良くない事だった。
「ご、ごめん。みんなといてムチャクチャ楽しかったから逆に口に出たというか……」
そう。
こんなに楽しい空間に椿もいてほしいと……そう思っただけの事。
でも言われなければ、言ってはいけない事だとは気づけなかった。
こうやってちゃんと教えてくれる仲間と出会えたのはやはりうれしい。
「だいたい、お兄ちゃん。ここにこんなに可愛い子たちを侍らせておいて! キイちゃんとさっちゃんなんて一押しだよ!」
お前それはそれで七海さんと葉月さんに失礼じゃないか?
いや可愛い子で括っているから、薦めやすい自分の友人を出しただけか。
「今宵ちゃん。いくらお兄ちゃん子だからって未練がましい矜お兄さんはちょっと……」
「お、お兄ちゃんっ子じゃないしぃ!?」
「私も嫌かな~。あ、でも今宵ちゃんとずっといられるなら矜一お兄さんとでも良いかも?」
「あ、それなら私も!」
さっちゃんとキィちゃんには男として見られてないと言われ、更に今宵といられるならってそれ単に今宵とずっと遊びたいだけだろ!
俺が椿の事を話したせいとはいえ、もうちょっとオブラートに包むべきだとおもうんだよね。
「まーまー。ほら蒼月君。落ち込んでないで。これ私が作っただし巻きだよー。これあげるから元気出して―」
な、ななみん! やはりあなたは女神だったか。
「あ! それなら私も! はいこれ。コンビニで買ったおにぎりあげるね!」
はづきち! 嬉しいけど俺の弁当もおにぎりなんだよな。
目の前にあるから見えてるよね? うん、嬉しいけどね?
「七海さんも葉月さんもありがとう」
「二人とも甘やかしたらダメだよ。それともお兄ちゃんを引き取ってくれるの?」
「「それは釣り合わないかなー(!)」」
グフゥ。
女神二人からも声を合わせてダメだと言われるとか。
ここで言う必要あったんですかねぇ?
「えー? そんな事ないと思うけど。まぁ確かに二人は今宵チェックだともう少し足りないかな」
「あははー。今宵ちゃん厳しー」
「だね!」
今宵たちが何かわいわいと話しているが、ピクニック気分からダメ男の烙印を全員から押されたショックで聞けてなかった。
あ、このだし巻きめっちゃ味が染みこんでいて美味しいわ。
心に染みるぅ。
葉月さんからもらったおにぎりも食べよっと。
おお。エビマヨだ! もぐもぐ。
そうやって食べていると、キイちゃんとさっちゃんが隣にサササッと寄って来て水筒のお茶を注いでくれたり、俺の弁当のおかずを小皿に取り分けてくれる。
いやその小皿どっからだしたの?
しかも弁当だから弁当箱からそのまま食べられますけど!?
「うんうん。やっぱり二人は合格だねぇ」
今宵がしみじみとなにか言っている。
「「(今宵ちゃん以外は)ないよー」」
そして声をあげて何かを否定するキイちゃんとさっちゃん。
メチャメチャ俺に気を使ってくれているのに、なぜか感じるハブ感のふしぎ!
おかずを一つ食べ終わると、小皿をさっちゃんが差し出すのでそこからまた俺はもぐもぐして昼食を食べるのだった。
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