第81話 配信

 次の日、俺は朝早くに起きるとダンジョンに行く用意をする。

 といっても端末に来ているオーク肉の査定の承認をしたりするくらいだけどね。

 リビングに降りると、既に起きている妹が話しかけてきた。


 「良いな~。今宵も一緒に行きたいな~」


 今日は土曜日で今宵は学校があるが俺はないので、その事が不満らしい。


 「明日は朝から行けるんだからあと1日だろ」


 「そうだけど~。最近、お兄ちゃんは学校の事ばかりで一緒に行ってくれないし~」


 最近ってたった一週間くらいだろうに……。


 「私も矜一と行きたいのにお父さんがごねるのよ。矜一なんとか言ってやって」


 母さんは父さんから俺とダンジョンに行くのを止められているみたいだ。

 なんでもマコト達の引率は仕方がないから許容しているけど、俺と行くと夫婦内格差ができて父親の威厳が保てないとかなんとからしい。


 「母さんだけ強くなったら、俺がみんなと一緒した時に残念な目でみられるだろう?」


 父の言はこれである。

 他のみんなの威厳は下がらなくても家族内での威厳が下がりまくりな訳ですがそれはいいのだろうか?


 「でも父さん、家族が強くなるのは何かあった時に重要じゃない?」


 「そうよ。もっと言ってやって矜一!」


 「そうだけどな~。俺の面子がな~」


 ゴリゴリと家族内での面子が下がっているにも拘らず、父親がごねていた。


 「じゃあ、今日は七海さんと葉月さんも連れて11階層で集団戦の訓練でもしようと思ってたけど、母さんはその2人と行ってくれる? 行く階層は任せる」


 「それは良いけど、矜一はどうするのよ」


 うーん。どうしよう。

 矜侍さんがしろとうるさいMeTube配信でもするかなぁ。


 「今日は一人で探索しようかな」


 「まあそれなら良いぞ」


 父親がなぜか許可を出して今日の予定が決まった。



 母さんが二人に連絡するというので任せたが、家では書き置きをするのにちゃんとできるのだろうか? 

 こういう時くらいでしか女の子と連絡がとれないのにその機会まで奪われるなんて……。

 俺はそれを少し残念に思いながら家を後にしてダンジョンへ向かう。


 ダンジョンに入るとあらかじめ購入していたベネチアンマスクと真っ黒なフード付きコートを頭から被った。

 そして作っておいたMeTubeアカウント 『asterism channel』で配信を開始した。当然、もろもろの設定は既に済ませている。


 

 「みなさん、おはこんばんは。『アステリズム チャンネル』のシュテルンです」


 ちなみにカメラはベネチアンマスクに小型カメラを取り付けてあるので、ほぼ俺の目線がカメラで見える範囲だ。


 「今日はこれから東京ダンジョンの内部をライブ配信していきたいと思います」


 1階層を配信しながら歩くが……手元の端末が映らないようにその端末で自分のライブ配信を確認するがまだ視聴者はゼロ人のようだった。

 しかし意外と話しながら進むのは難しいな。


 「えー、とりあえず1階層から攻略していきます。1階層に出現するのはビッグマウスとスライムですね。どちらも魔獣側から攻撃してくる事はありません。ってそう言えばスライムって魔獣なんだろうか? 獣では……、あっでもゴブリンも魔獣と呼ぶから良いのかな?」


 俺は初心者丸出しで一人ツッコミをしながら配信していく。

 まあ誰も見てないけど。


 『初見です』


 お、チャット欄に初めてコメントがきたぞ!


 「初見さんいらっしゃい。これからビッグマウスの討伐を開始します」


 俺はそう言うと剣を振るう。

 ビックマウスはその一回で動かなくなった。


 「こんな感じで1階層は木刀なんかでも簡単に倒せます」


 俺はそう言って気配察知を使いビッグマウスを探しては倒していく。


 『え? これ本当にライブ?』


 『それはないでしょ。ライブ風ってつけろよ配信主~』

 

 『わこつ』


 お、一人きたら何人も視聴者が増えてきた! 頑張るぞ! 

 俺はそう思いながら順に階層を上げていく。


 『すべて一撃なので面白くないです』


 3階層辺りでゴブリンを一太刀で倒した時にそのコメントが来る。

 しかしそうは言ってもわざと攻撃を喰らう訳にも……。

 俺はそう考えて、スキルや魔法を使う事にした。


 「ロックブレット」


 「ファイヤーボール」


 俺は淡々と土魔法でゴブリンの腹に穴をあけ、火魔法で黒焦げにする。


 『おお! 魔法二つ持ちだ! カッコいい!』


 俺は横目で端末を確認しながらこれか! と思った。

 やはり派手な方が良いようだ。

 4階層に入ると、コボルトが出現する。


 「ダブルスラッシュ!」


 俺は敢えて十字に斬撃を入れ倒した時の見た目を重視する。


 「ウインドカッター!」 「ダークネス」


 5階層ではスケルトンがいるが少し面倒になってきたのでダークネスを使い素通りしていく。


 『いや、これおかしくね? 使ってる魔法の数』 


 『どう見てもCGです本当にありがとうございました』


 『でもライブマークついてるよ』 


 『そんなの幾らでも編集できるだろ。これだから情弱は』


 知らないうちに批判コメで溢れていた。

 うーん。どうしよう。


 「どうも魔法に関して、CGと言われてるようですね。どうすれば証明できるんだろう?」


 俺はどうすれば良いのか分からずに視聴者に聞いてみる。


 「他の探索者と絡んでみてくださーい。そこで日時を聞けばライブかわかると思いまーす」


 多くのチャットコメントの中で一つこれだ! というものを発見する。


 「えー、ではもうすぐ6階層なのでそこで出会った人に日時を聞いてみようと思います」


 俺はそう言って6階層に突入した。

 4階層までは割と人の気配を感じたが、6階層ではまばらで突入した直後には人はいなかった。


 俺は気配察知を使い気配を探る。すると一人の探索者と思われる気配があり魔獣にどうやら追われているようだ。


 「えー、6階層で第一探索者を発見しました。ではそこへ行って日時を聞いてみたいと思います」


 『は? 探索者なんてどこにもうつっていない件』 


 『編集しっかりしろww』


 俺は気配がある方に少し早足で移動する。



 「きゃあ! 助けて。誰か助けて下さい!!」


 どうやら6階層第一村人発見……ではなく探索者は魔獣に追いつかれて助けを求めているようだった。

 俺は一気に加速する。


 「ダブルスラッシュ」 「ウオーターカッター」


 助けを求めていた探索者に襲い掛かっていたフォレストウルフの群れを俺は全て倒してその人に声をかける。


 「大丈夫ですか?」


 「あ、ありがとうございます」


 女性探索者は涙声で俺にお礼を言ってくる。


 「あ、左足を噛まれてますね。クリーン。そしてヒール」


 「あ、傷が」


 「これでもう大丈夫ですよ。っとそう言えばMeTube配信してました。映っちゃってますけど大丈夫ですかね」


 俺は今更ながらに許可を得てない人の撮影をしていた事に気づく。


 「あ、動画を撮っていたんですか? 実は私もなんです。『イオイオチャンネル』のイオリって言います」


 「あ、『アステリズム チャンネル』のシュテルンです」


 お互いに自己紹介をして握手する。


 『はい、ヤラセキター!』 


 『都合よく有名人参戦キタコレw』


 『イオイオの知り合いだったのか』 


 『人気MeTuberと1回目がコラボとかどこの事務所? 総出で殺っちゃうの?』


 コメ欄に目を通すとどうやらこの人は有名MeTuberらしい。


 「助けてくれてありがとうございました。『ソロで6階層に潜ってみた』って動画を撮ってたんだけど、カメラをまわしながらじゃ対応できなくて」


 「あー、フォレストウルフは集団だし動きが早いですからね」


 俺は少しの間、イオリさんがどうしてあの状態になったのかという話を聞いていたが、日時の話を思い出して聞いてみる。


 「イオリさん、今が何日の何時かってわかりますか?」


 俺が日時を聞くと、


 「シュテルンさん、時計を忘れたんですか? えーと今は26日の午前7時35分です」


 「ありがとうございます」


 時間は俺のライブ配信がされている時間と同じだったので証拠になるだろう。


 『え? 本当にライブ配信?』 


 『いや、1ヵ月前に撮ってるんだろ』


 『でもずっと階層移動してこんなピッタリの時間に襲われてたの助けられる?』


 『だから編集だろ』


 うーん、信じてもらえてないようだ。


 『イオイオは前回の配信で6階層ソロで行くって言ってたけど2日前だよ』


 『いやでも生活魔法も回復魔法も使ってたしあり得ないだろ』


 まあ信用されなくても何度か配信すれば大丈夫だろうと俺は思いイオリさんとの会話を再開する。


 「イオリさんはこの後どうするんですか?」


 「うーん。ソロで撮影しながらだと6階層は無理だったから今日はここまでかなー。夜明け前から気合入れて来たんだけどねー」


 「6階層をどんな感じでとる予定だったんですか? 少しなら付き合いますよ」


 「ほんと!? 6階層の森林を動画を撮りながらまわって余裕があればカメラを置いて戦闘も撮ろうかと思ってたんだけど……」


 「それくらいなら手伝います」


 俺はライブ配信をしながらイオリさんが動画を撮り終えるまで彼女のカメラを持ち、魔獣を間引きしながら手伝ったのだった。

 

 別れ際に彼女が連絡先の交換を申し出てくれたので交換しようとしたが、ライブ配信中だったのでプライベートメッセージを後から送るからメールで確認してほしいという事を言って俺たちは別れたのだった。


 


 


 

 


 


 

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