第34話 降臨ボスとの戦い──2

 しかし……よくよく考えたら、いったいどうしろっていうんだ。

 仮に分身がダンジョン内にいれば魔力が無限に使えるとして、今ダンジョンって封鎖されてるはずじゃ……?


 まあ、考えてもしょうがないか。

 なっちさんが考えてること、全く違うことかもしれないし。


 引き続き真・マナボールを撃ちながら待っていると……なっちさんが走って帰ってきた。


「ありました!」


 どうやら分身のスキルスクロールは売約済みではなかったようだ。


「ここに手をかざして……」


 なっちさんがスキルスクロールを開いたので、俺はマナ譲渡の時と同じ要領で、そこに書かれている魔法陣に手をかざす。


<古谷浩二はスキル:「分身」を入手しました>


 無事、スキルを手に入れることができた。

 早速、発動してみよう。


「分身」


 そう唱えると……自分と瓜二つの人間が、自分の一メートル先あたりに出現した。

 服装は現在の俺と全く同じ——すなわち、時止めの神速靴やら熾天使の羽衣やらは装備済みだ。


 どうやって動かすんだろう。

 試しに分身の方に意識を集中しようとしてみると……それが正解だったらしく、俺の意識は分身の方に移った。


 分身に意識を移している間は、自分の身体と同じように分身を動かせるようだ。


「最寄りのダンジョンです」


 そう言ってなっちさんは、分身の方の俺に位置情報マップアプリを開いたスマホ画面を見せた。

 やっぱりダンジョン内に行って魔力を補給しろってことなのか。


「今ダンジョンって封鎖されてるはずじゃ……」


「それは分かってます。これはダメもとの作戦です。分身、実体がないので……もしかしたら封鎖を通過できるかもしれないんで」


 そう言ってなっちさんは、分身の方の俺にスマホを渡そうとした。

 が、スマホは手を通過して地面に落ちた。


「こういうことです」


 ……試すだけ試すか。

 早速、地図をもとにダンジョンへと向かう。

 装備の効果は分身の方にも乗っているようで、俺はただちにダンジョンに着くことができた。


 幸いにも、分身の透過力はさまさまで……なんと俺は、ダンジョン内に入ることができた。

 ダンジョンに入ると……身体に魔力が漲るのを感じた。

 どうやらなっちさんの仮説は正解だったようだ。

「ダンジョン内魔素裁定取引」は、分身だけがダンジョンに入っている状態でも機能してくれるみたいだな。


 とりあえず……ダンジョン内で分身が襲われないよう、俺は分身の四方をパーフェクトアイギスで囲うことにした。

 降臨ボスの降臨中は魔物が湧かない仕様、とかだったら余計な心配かもしれないがまあ一応。

 そして、意識を本体の自分に戻した。



 早速、ガトリングナックルを通して魔力のほとんどを注ぎ込んだ真・マナボールを連射してみる。

 すると……俺はダンジョン内にいる時と同じく、全力の真・マナボールを高速連射することに成功した。


 身体の疲れは一切感じない。

 これなら……いけるぞ。


 降臨ボス側へのダメージも、目に見えて上がり始めた。

 流石に秒間ダメージが240倍の違うと痛いのか、悶絶して身を捩り始めたのだ。

 その度に、鱗が何十枚と弾け飛んでいく。


「な……なんという連射力……! あれは本当に人間の所業なのか?」

「あれがダンジョン内だと発揮できる、本来の彼の力です。私も初見の時は現実か夢か分からなくなりました」


 唖然とするライザーに、なっちさんがそんな解説を入れる。


 しばらくすると……降臨ボスは、木っ端微塵に弾け飛んだ。

 盛大な爆発音を上げた後、その肉片が雨となって降り注ぐ。


「おおおっ……! ついにやったか!」

「やはり分身が大正解でしたね……!」


 やっと終わったか。

 そう思い、俺は安堵のため息をつこうとした。


 が……そこで一つ、俺は違和感を覚えた。


 こんな強力な敵を倒せば、流石に1以上はレベルが上がるはずだ。

 あるいは、何かしら新たな称号が手に入ってもおかしくはないだろう。


 だが……そのどちらを示すようなアナウンスも、流れてこないのだ。

 ステータスウィンドウを見てみても、その内容は戦闘前と一切変わらない。


 不思議に思っていると……降臨ボスの複数の肉片から、紫色の煙が上がり始めた。

 その煙は、空中の一点に密集し始める。


 まさか……第二形態でもあるというのか!?

 ここから強くなるなんて……どうしたらいいんだ。


 とりあえず、戦隊モノなんかじゃ「変身シーンに攻撃しない」はお約束だが、この緊急事態にそんなセオリーを守る義理はない。

 俺は煙の集約点に真・マナボールを連射した。


 が……それらはただ空を切るだけだった。


「……バフ、かけ直します!」


 まだ戦闘が終わってないことに気づき……なっちさんは、効果時間終了手前となっているバフを再度かけ直してくれた。

 それが終わる頃、降臨ボスは完全に第二の姿を完成させた。


 第二の姿は……人間と同じくらいのサイズ感の竜だった。

 最初の形態の十分の一以下だ。


『我ヲ此ノ姿ニスルカ。ヨクヤルナ、人間ドモ』


 第二形態となった降臨ボスは……俺たちの脳内に、頭が痛くなりそうな不快な声で直接語りかける。


『褒美ヲヤロウ。シネ』


 そして降臨ボスは、目を青く光らせてビームを放った。


 直ちにパーフェクトアイギスを多重展開し、ビームを受け止める。

 現魔力量表示から逆算できないので、正確には分からないが……厚みから察するに、900枚以上は確実に割られた感じだった。


 つまり、ダンジョンと接続された状態でなければやられていた。


 ……なんて威力だ。

 じゃない。そんなことを考えている暇があれば、攻撃に転じないと。


 とりあえずできることをと思い、真・マナボールを連射する。

 しかし……降臨ボスは結界を一枚張ると、それらをいとも簡単に防ぎきった。


 攻撃力だけじゃなく防御も上がってるのか。

 これ、どうすりゃいいんだ?


 不安が心を襲ったその瞬間……しかし、こちらにも転機が訪れた。


<条件の達成を確認。スキル:「分身」は、スキル:「アンビリカルケーブル」に特殊進化します>


 先ほど入手したての「分身」スキルが、変な進化を遂げたのだ。


 どんな変化をしたのか確認したいところだが、そんな余裕はない。

 分からないことだらけだが、確信を持って言えるのは次の二つだけだ。


 一つ目は、今も尚ダンジョン内魔素裁定取引は引き続き効いていること。

 そしてもう一つは——真・マナボールに、今まで以上に力を注ぎ込めそうなこと。


 それは直感でしかなかったのだが……実際真・マナボールに8800以上のMPを注いでみようとすると、確かに俺は際限なく魔力を注げそうな感覚を覚えた。


 と同時に、こんな脳内音声が。


<ダンジョンとのシンクロ率が100%を突破……>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る