第24話 ロータリーフレイム

「で……まず、何階層から攻略します?」


 21階層いに転移した俺は……まずなっちさんに、そう質問してみた。


 21階層までしか転移できないとはいえ……おそらく、20台後半の階層までは進んでいるはずだからな。

 本格的に攻略開始するのは、そこからだろうと思ったのだ。


 だが……俺の質問に対し、なっちさんはキョトンとしたようにこう答えた。


「21階層に着いたんですし、21階層を攻略するのでは?」


 なっちさんは、俺の質問の真意が分かっていないようだった。

 ……あ、そういえば、俺があのスキル持ってるの言ってなかったな。


「俺、『階層完全探知』持ってるんで、最短ルートで下の階層行けますよ。21階層だと物足りないなら、もっと奥から攻略開始もできますが……」


 すると……なっちさんは、手を振りながら早口でこう言った。


「いえ、21階層で大丈夫です! 私まだ、ようやくここで実力が通用するようになったばっかりなので……」


 どうやらなっちさんは……階層を飛ばせる云々は関係なく、単純にこの階層を拠点にしたいみたいだった。


 ……そういえば、俺自身、21階層以降攻略したことないもんな。

 敵の強さの上がり幅が20階層までと同じなら、25階層くらいまでは余裕なんじゃないかと思っていたが……もしかしたら、ここらへんから敵の強さのインフレが激しいのかもしれない。


 だとしたら、確かに奥の階層に行ったって、逆に非効率的というものだろう。


「じゃあ、ここで戦いますか。……あ、一番近くの敵はあっちみたいです」


 などと考えつつ、俺は「階層完全探知」に映った最短距離の敵のいる方向を指してそう言った。


 二人で歩いていくと……そこには、やたらと毛並みが良く、空中を浮遊している狼型の魔物がいた。



「パーフェクトアイギス」


 とりあえず……俺はそう唱え、結界を展開した。

 すると……隣からは、こんな詠唱が聞こえてくる。


「フレイムエンハンス……ユニークエンハンス……パワーコンプレッション……スパイラルアクセラレーション……」


 聞いたこともないスキル名が唱えられるたびに……なっちさんの周囲に、光のエフェクトが立ち込めた。


 これは憶測でしかないが……言葉から察するに、どれもバフ系の魔法なのだろう。

 そういえば俺、そういうのを取得するって発想は無かったな。

 てかそれ……何重にかけるつもりなんだよ。


「……ありがとうございます。いつもなら、攻撃を避けながらバフをかけるのですが……ガチョウさんのパーフェクトアイギスのおかげで、余裕でバフをかけ終えれました。」


 などと思っていると……なっちさんがお礼を言ってきた。


 ……あ。

 多重バフに気を取られてて、全然気づかなかったが……毛並みのいい浮遊狼、さっきから執拗にパーフェクトアイギスに攻撃してたな。


「じゃあ、行きます」


 そして……なっちさんは、今から攻撃に入るみたいだった。

 ……これからやっと、「ニトロ系魔法」とやらが見れるのか。


「ロータリーフレイム」


 なっちさんがそう唱えると……その手元には、陸上競技のトラックみたいな線の中で、緩い曲線で描かれた三角形が回転しているような魔法陣が出現した。

 三角形の回転数は、みるみるうちに上がっていく。


 直後、魔法陣自体が虹色に輝いたかと思うと……そこから、青白い火炎放射が狼めがけて飛んでいった。

 パーフェクトアイギスは、味方の攻撃は素通りするようになっている。

 火炎放射は狼に直撃し……数秒で、無数の焦げ痕を残した。


「あと二発くらいみたいですね」


 そして彼女はそう言うと……更に二発、ロータリーフレイムを浮遊狼にぶち当てた。

 宣言通り、浮遊狼はそれで魔石に変わった。



 20階層の魔物でも、流石に3発では落とせないし……単発火力だと、なっちさんの方が上みたいだな。

 流石は昔からランク6として活躍していただけはある。

 だが……「ロータリーフレイム」は、攻撃発生までに5秒くらいはかかる技でもあった。

 それを考えると……秒間火力で言えば、まだ俺の方に軍配が上がるかもしれない。


 そんな辺りが、俺が彼女の戦い方を見た感想だった。



 ……じゃあ、次は俺の番といくか。


「ロータリーフレイム、かっこいい技でしたね。……次は、俺が倒してみてもいいですか?」


 なっちさんがドロップ品の魔石を拾う中……俺はそう聞いてみた。


「ええ、もちろん。私もガチョウさんの戦い方見てみたいです」


「……次の魔物はあっちみたいです」


 と、いうわけで……俺たちは、次の魔物目指して移動することにした。

 移動中、ガトリングナックルを装着する。

 すると……なっちさんが目を丸くして、こう聞いてきた。


「……ガトリングナックルなんか使うんですか? そんなの使ったら、即魔力不足になりそう……というか、総魔力量の2.5%しか消費しない魔法など何発使っても効かない気がするんですが……」


 彼女には、ガトリングナックルを使うということが信じられないようだった。


 ……そういえば、このアイテム、一般的にはハズレ品だったんだよな。

 こんな反応になるのも仕方ないか。


「まあ……20階層のフロアボスまではこれで通じたんで、行けそうな気がします」


 とりあえず俺は、そんな返事をしておいた。

「行けそう」といったのは、21階層の魔物が果たしてどれくらいのインフレ具合なのか、まだよく分かっていないからだ。


 しばらくして、曲がり角を曲がると……俺たちは、「階層完全探知」で目星をつけていた魔物に遭遇した。


「じゃあ、行きます」


 そう言って……俺は、ガトリングナックルをはめた両手目の前の浮遊狼に向ける。

 そして……最高連射速度で、真・マナボールを連射した。



 浮遊狼は、動きはそこまで早い感じでもなく……俺は、真・マナボールを全弾命中させることができた。

 そのまま、1.2秒くらいが経過すると。

 浮遊狼は木っ端微塵になり……その場で魔石に変わった。


 ……対して強くなかったな。

 このインフレ具合なら、24〜5階層くらいまでは3秒以内に倒せるのではなかろうか。


 などと思いつつ、俺は魔石を拾いあげた。そして、


「……こんな感じです」


 と言いつつ、なっちさんの方を振り返る。



 すると……なっちさんは、口をあんぐりと開けたまま、その場で硬直してしまっていた。


 ……どうした。まさか、俺が気づかないうちに、さっきの浮遊狼に石化魔法でもかけられてしまったのか?

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