俺だけダンジョン内で魔力が無限に使える件

可換 環

第1話 スキル獲得

「ウッッッソだろ……」


 俺・古谷浩二は……様々な通貨の交換比率が映し出されているパソコンの画面の前で、パニック状態に陥っていた。


 ──やらかした。

 初めてのFXトレードで、俺は前代未聞の大損をこいたのだ……。


 つい5分前まで百万円あった口座残高が、一瞬にして0円になった現実を受け入れられず……俺はただひたすらに頭を掻きむしった。



 俺は現在、大学二年生。

 大学に入ってから今に至るまで、俺はサークルにすら入らずバイトに明け暮れ……必死になって百万円の貯金を作った。


 理由は、「就職したくないから」。

 FXで億万長者になり、大学生の内に一生分のお金を稼ぎきってアーリーリタイア生活を謳歌する——それが俺の人生計画だったってわけだ。


 なぜ就職もしたくないのにバイトに明け暮れていたかって?

 そりゃあくまで、FXをやるのにだって元手が必要だからだ。

 億万長者生活の第一歩として、仕方なくバイトをやる。

 一生で働くのはたったその期間だけって決めてたからこそ、がむしゃらに頑張れたってわけだ。


 だが……その夢は、たった今、泡のように消え去った。

 必死で貯めた元手が、たった一回のトレードで全額すっ飛んでしまったのだから。

「レバレッジ」とやらをガッツリ上げればそれだけ多く稼げる、みたいな話を聞いていたので上限の25倍に設定していたのだが、それで罰でも当たったのだろうか。

 とにかく今俺に分かるのは……地獄のようだった一年間の努力が、振り出しに戻ったということだけだ。



「ちっくしょう……」


 テキーラの一気飲みでもして意識を失いたい衝動を抑えつつ……俺は今後どうするかについて、頭を巡らせた。


 また一年間地獄のようなバイトに舞い戻って、もう一度元手を集めるか。

 いや……しかしそれでまたこんな失敗をしたらと思うと、もうそんな気力も起きないな。

 それともこんな夢は諦めて、普通に生きることにするか。

 いや……それはやっぱ単純に嫌だな。

 それとも……こんなご時世なら、「FXで全財産とかした底辺大学生チャンネル」とかで動画配信したら、ワンチャン広告収入で豪遊できるようになったりしないか?


 考えていると、あまりにも現実が受け入れられなさ過ぎて、だんだんと訳の分からないアイデアまで思い浮かぶようになってしまった。

 いや、そもそも周りの人々からすれば、「FXで億万長者になってアーリーリタイアする」なんて言っている時点で俺は頭がおかしいのかもしれないが。


 ……だめだ。

 今日は何を考えてもネガティブになる気しかしない。


 俺は思考を放棄し、テキーラを取りに行くため冷蔵庫に向かった。



 ——だが、その時だった。

 俺の脳内に、変な音声が鳴り響いた。


<スキル:「ダンジョン内魔素裁定取引」を取得しました>


 ……スキル?

 ……ダンジョン内魔素裁定取引??


 ダンジョンって言ったら……確か、数年前から地球に現れた、ファンタジーのモンスターみたいなのを倒して資源を獲得できる迷宮みたいなもの……って聞いた記憶があったようなないような。


 俺はテキーラを冷蔵庫に戻し、まずは手に入れたスキルとやらを検証してみようと思った。

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