第162話 宵闇の再来 1

 白妙と海神を残し、黒はかき消えるようにその場を去った。


 その後・・・・・さほどの時を待たずして、穢れ落ちた宵闇の半身が、海神への嫉妬の炎に身を焦がし、激情のまま再び彼らを襲ってきた。


 神妖界に降り立った宵闇は、赤く光る瞳をぎらつかせながら、辺りを探ると嫌な笑みを浮かべ、唇をなめた。


 宵闇は空腹だった。

 近くにいた神妖十数体をあっという間に捻り殺すと、目玉を引き抜き飲み下していく。


 彼はもはや以前の宵闇ではなかった。

 欲望と、精神に深く刻まれたただ一つの呪いのような強い想いの為だけに動く生き物になっていたのだ。


 宵闇と素のままの自分で対峙することに耐えられなかったのか、白妙はその身を男の化身に変化させ、静かに彼の前に立った。


 「・・・・・宵闇。」


 「白妙・・・・海神を出せ。あいつを殺しに来てやったぞ。」


 宵闇の言葉に、白妙はゆっくりと横に首を振り、黙ったまま涙に濡れた瞳で彼を見つめた。


 神妖界の長も、龍粋も、宵闇もいなくなってしまった以上、彼を抑えられるのは自分以外いなかった。

 まだ若い海神では、宵闇に太刀打ちなどできようはずもない。


 元々の宵闇は明るく温和なことで知られてはいたが、身体能力の高さや感覚の鋭さから、戦闘能力は妖月の中でも群を抜いており、討伐などの際はその様相を変える。


 舞い踊るような華麗な身のこなしで、鋭く滑らかに刃を走らせ、斬られていく者に自らの命の終わりを気づかせないほどの実力の持ち主なのだ。


 白妙は手にしていた白い棒のようなものを一振りした。

 そこから一筋の雷光が宵闇に向け宙を割き、瞬きよりも早く襲い掛かった。


 宵闇は攻撃を受けることなく、身体をわずかに逸らしてそれをかわす。


 「俺と、やる気か・・・・白妙。」


 雷光を纏う雪のように白い鞭が、美しい青年の姿をした白妙を青白く照らした。


 白妙は無言のまま、鞭を振るった。

 雷光が宙を裂き、落雷のように宵闇に伸びる。


 宵闇は今度はよけなかった。


 腕に鞭を絡め、鞭を握りしめる。

 強烈な電流が宵闇の全身に巡るが、宵闇は涼しい顔をしていた。


 「俺がお前の攻撃を防げないわけがないだろう。・・・・お前だけをずっと見て来たんだ。」


 宵闇はそのまま勢いをつけて白妙を引き寄せ、腰に腕を回し強く抱きしめた。


 「なぜこんな姿でいる。・・・・俺はいつものお前に会いたかったのに。」


 白妙は小さく呻くと、白い鞭の形を刀へと変化させ、宵闇に斬りつけた。


 「なぁ。俺はお前を攻撃できない。愛しているんだ。・・・・早く、海神を出せよ。」


 白妙は今度は激しく横に首を振った。


 引き寄せられた時触れてしまった宵闇の体温と、彼の愛を紡ぐ言葉が、白妙の心をバラバラに砕いてしまいそうな程震わせる。


 白妙は深く息を吸うと、自分を殺し宵闇に斬りかかった。


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